第71話 そんな覚え無いけど


カコッ


押し扉の音がおかしい気がするがそれは異世界だからとしておこう。もう気にならなくなった。


部屋に入ると薬品棚があって見えない左奥からスーと椅子に乗って人が出てきた。椅子は魔法で浮いてるので摩擦無し、座り心地はとてもいい。前に座った時は感動した。


「神夜君だ、この椅子に座って、座って。診るから」


誰か右奥にもいるんだけどな。まぁ、薬柳くすやなぎだろうけど。


奥にある椅子に向かって歩き、右を見てみると


「やっぱり薬柳じゃん、 何してんの?」


座りながら何かを眺めている薬柳。


「ミスった……入れる順番間違えた……」


どうやら手順を間違えてしょんぼりしているらしい。うーん、放っておこう。


「よいしょ、いや、やっぱこの椅子いいなー」


椅子に腰掛け福磨ふくまの方を向く。


「薬柳君は薬の調合を間違えたからしょんぼりしてるだけだから大丈夫。よし、神夜君を診てしまおう。始めるね」


そう言って、こちらを見つめる福磨。彼女の職は医療者、眼が特別で生きているもの限定で表面〜細胞まで全て見通す事が出来る。潜在的病気も分かるらしい。俺は脳梗塞になるかもって言われた。当然治療を今からしている、治療と言えるかは分からないけどな。だってまだ前兆すらないからな。出ないように予防しているの方がいいか。


「うーん、身体を無理矢理使った?」


「ん?そんな覚えは無いけど?」


「表面は大丈夫そうだけど中がちょっとダメージ受け過ぎだね」


「うーん?なんかしたっけなぁ。回復薬も使って戦闘してたからそんなに酷使した覚え無いけどなぁ」


「無くても療養してね、ちゃんと。分かった?」


「分かった、六東龍頑張ったらダメ?」


六東龍とは最初の訓練でやっていた事の名称だ。刀を両手で6本、片手で3本ずつ持って戦うやつだ。かっこいい名称だろ。


「ギャグで言ってるよね?ダメに決まってるでしょ?」


うん、知ってた。ただ頭に六東龍って出てきたからそういえばこの頃してないなって思っただけ。大丈夫だからそんな疑いの目を向けないでくれ。やろうと思ってもどうせ止められるから、物理的に。いや?魔法的に?


「安心して、ふくちゃん。ゆーちゃんは私達が見ておくから」


「なら安心だね」


だろうと思った。治るまではちゃんと休む事にするよ。俺も魔力訓練だな。


「これはしょうがない。なんか新薬が出来るかもしれないから頑張ってみよう」


「変な物作らないでね」


どうやら薬柳がしょんぼり状態から帰ってきたみたいだ。ポジティブに考える事にしたらしい。しかし、俺からも言っておこう。


「変な物作るなよ」


「そうね、作らないでね」


「なんで3人ともそんな事言うの、酷いな」


変な薬作ろうと思ったら作れるだろうから言ってるんだ。


「ありがとうなー、またなんかあったら頼む」


「ありがとうね、ふくちゃん。やなぎ君。また何かあったらお願いね」


「いいよー!神夜君はちゃんと療養してねー!」


ポン!


「あ、爆発してしまった」


「ちょっと変なの作らないでって言ったのに!」


どうして薬の調合で爆発するんだろうか?薬草を混ぜているだけなのに……誘爆性のある薬草なんて今無いって言われてたけどもしかして貰ってきた?


「程々にしろよ、薬柳ー」


カコッ


扉を閉めながら注意をしておく。いや、ちょっと開けとこう。もしかしたら有毒ガスが出るかもしれない。換気は大事だ。


さて、皆の所に言った後に部屋に戻ろうかな。


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次の更新は5月15日の予定です

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