第61話 死を救済と思うな

「おい、神羅、神羅!」


「ん?なんですか?道三殿?」


「なんですかじゃないわい、だから儂の娘が織田家の嫁に行く事になったと言っておろう。どうしたもんかのぉ」


「決まってしまったならどうしようも無いでしょう……道三殿。それに織田家の信長は切れ者との噂では?わざわざ道三殿の勢力を敵に回す事はしないでしょうに」


「神羅のその喋り方はいつになっても気になるの……いつも通りでいいと言っておろう?」


「主君ですので」


「頑固じゃのう……儂に何かあったら信長の所に行くじゃぞ?娘を宜しく頼む」


「まず何か起きないようにして欲しいですね」


「言うの〜ハッハッハ」



■■■




「そんな事もあったなぁ、結局信長殿も帰蝶殿も助ける事が出来なかったな……」


意識が飛んだ時に甦った記憶を悔いながら今の現実へと完全に意識が戻って来ると同時にある事に気が付く。そう、地上の常世が晴れていると言う事にだ。


常世が晴れている=国の外に出れる者が出てくる、そしてそんなすぐに動けるやつは大抵が強い奴だ。そうなると妃芽達を攫った証拠、理由、拷問内容などが全て消される可能性がある。そして逆に俺達が急に国に攻めて来たと言われる可能性が高い。そして元凶のこいつらやバックの国はお咎め無しだ、関与していないのだから。そう考えると怒りや憎しみが心の奥底から湧き出てくる、呪詛となって。


「普通に生活してたら異世界に飛ばされ!クラスメイトを殺され!また殺伐とした世界に戻って来た!力はあるのに考えてもいるのに!人間はすぐ更に上の行動を起こす!いい方ではなく悪い方で!いいぜ!全員ぶっ殺す」


人間はとは、自分が人間では無いような言い回しをする神夜は果たして自分の種族が理解出来ているのだろうか?それとも、本当に人間では無いのだろうか?


そして、呪詛となった言葉はより濃い常世を出しやすくなる贄となる。


常世展開


辺りに咲き巡る彼岸花、赤い海の様に、夜空を照らす星の様に白黒の世界を染め上げる。



全員に理不尽におしかかる生きずらさ、命ある者が居ていい場所では無くなった地下は全員が動けず蹲る。それをただ一人立ちながら見下ろすのは神夜、眼は両眼共に真っ赤に染まり、頭には角が生えている。知っている人間なら思わず言ってしまうだろう。鬼と。


恐怖に魅入られ硬直する者達に容赦なく刀を振るう、心臓を一突き、首を一斬り、横一閃、縦一閃、それだけに留まらず蹴り上げてからの抜刀術など確実に殺す行動を取っている。血飛沫は出ない、藍那の付与がかかっているから死なないようになっているから、ただ斬った感触が有ると言う事は斬られる感触も当然ある。数の有利、質の有利、そして体力の有利を持って戦っていた者達は全てそれらを無に帰された。殺られていく恐怖、殺られる恐怖に駆られながら叫びを上げそうになるもそれは叶わない。ただ声にならない叫びが出るだけ。


「死が救済と思うな、この世界を見たら分かるだろう?」


本能で理解していた、でも脳はそれを認めない。自分の良い方にしか考えを寄せていかない。一番狂っているのは自分でも他人でも有り、そうでは無い。生命その物が狂っている。とそう言うものだっている。


常世を展開してから理解したのは人間だったのは数人だけだったと言う事実。つまり、人間だと思っていた者も召喚生物の一種だったと言うことだ。しかし、もう今はそんな事は関係がない。全員が動けないのだから、戦える状態じゃないのだから、ここからは神夜一人の独壇場、誰も逃がす事はない。否、逃げる事は出来ない。


「早く地上に戻らないと、全部破壊して置かないと。小鳥の様になる人が居なくなるように。壊したらいけないものはお前らの記憶から見ればいい」


戦国時代を武将として生き最強武将とまで言われた神羅もとい神夜、彼は憧れや尊敬の念を抱かれるが敵には恐怖と絶望を抱かれた。


半妖と同等以上に常世の世界に適正があったから?強過ぎたから?全ての事実を知る者は今は誰一人としていない。そして、前世の武将の時でさえ知っている者は数名のみだったのだから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る