撃退開始

??? Side ────────────────


フォルクスの森の中に冒険者の様な格好をした、正確に言えば見た目だけ冒険者を装った者であろう二人の男がいた。冒険者には馴染まない小動物が入りそうな捕獲用の檻を持ち、周囲を隈無く探していた。種族によって捕獲を禁じられている魔物もいるが、そういう希少性の高い魔物程に裏で売られると値段が高く売ろうとする密猟者がいる。この二人も冒険者を装った裏の手の者に雇われた者達だった。


「探してもう一月だぜ。そろそろ依頼主の堪忍袋の緒が切れそうだ。」

「お前が捕まえ損ねて逃げられたからだ。依頼報酬の取分は考えさせてもらう。」

「チッ…あんなのミスにもならねぇよ。お前もあの場にいたんだし逃がしたのは一緒だろ。」

「一緒?俺が捕まえてお前が逃がしたのにか?」

「ッ…分かったよ。」


丸坊主で目尻に傷のある巨体な男は、顔をしかめて渋々頷いた。隣にいた動きやすそうな格好で短めの黒いケープでフードを深く被る男はその言葉に微かに見えた頬を緩める。依頼をミスし役にも立てない者と組むのはこれ限りだ、マスターと話して確り報酬貰うか。


「お前はこれで終わりだろうけどな。」

「ん?何か言ったか?」

「いや、何も。」


裏の世界は誰にでも出来るとされているが実力無き者は必要とされない。この男も新参者でありそいつらを判断するのが裁断者の俺の役目。こんな者に重要な案件など渡してみろ、一瞬で捕まり拷問でもすれば口を開くだろう。自害も出来無い、怯えて無き喚く小物だ。使うとなると捨て石程度だろう。


「次は岩山に行くぞ。」

「あぁ分かったよ。あんな場所にいるとは思えねぇけどな。」


フォルクスの森、岩が多く歩くのが困難な場所でもあり余り人が寄り付かない。だからこそその場所に隠れている場合がある。妖精猫ケット・シーは弱いが知恵が無いわけでは無い。隠れのるは得意であるからこそ今まで見付けられて無いんだ。こんな事も分からないのかと呆れる始末だ。俺は最初からあそこが怪しいと思っていたってのに馬鹿過ぎる。


「それにあそこは始めに探した場所だろ?見付から無かったじゃねぇか。」

「お前がたった数時間でいないと判断して違う場所に向かったんだろう。妖精猫ケット・シーは隠れる魔法に関しては得意な魔物で数時間で見付けれる訳が無いだろ。」

「チッ…それなら始めから言えよ。」


馬鹿か依頼受ける前に事前にどんな魔物か調べておくのが当たり前だ。未知の魔物でも無い限り魔物の情報の取得は可能で図書館で閲覧出来、書店にも魔物図鑑は売っていて密猟する者や冒険者にとっては必需品だろうが。冷めた目で見ると、面倒臭そうに頭を搔き疲れたと戯れ言を吐く。依頼を受けたのはお前であり、当事者意識を持ち依頼を行うのが鉄則。まぁ実力があれば無くても良い奴はいるが、こいつは才能無しで考えも青い。依頼をそう簡単に出来ると思ってる時点で有り得ない。そうゆう者は才能があり天才だから出来る事であり、情報を集めることが凡人が最も生き残る為にやらなくてはいけない事。そうしてため息を吐く男の息が白く見える。


「…白い?」


そっと辺りを見渡し、先程よりも気温が低くなっている。白い冷気が空気を冷やすそれは足元から漂っていた。


「ここってこんな寒かったか?」


男もその事に気付き腕を擦っていると、空から降る白い結晶に目を疑った。


「はぁ!?何で雪なんか降ってんだよ!」

「…こんな現象フォルクスの森でも初めてだ。」


草花が氷だし氷樹へと変わり幻想的な風景に変わって行く。巨体の男はどうなってるんだと愕然とする一方、もう一人は上腕を握り締めて震えていた。寒さではないと、背筋が凍り膝の震えが止まらない。何でこれ程の殺気を浴びながらも気付かない男に驚く。即逃げ出したい気持ちは裏組織で数多の危険な依頼も片付けて来て信頼を得た現在、逃げ出した後の事を考え止まる足。この男とは違い死にそうになる程の場数も踏んで来ている。俺ならいける、そう思える矜持がその男にはあった。そんな矜持など一瞬のうちに崩れ散る事になるとは、よく考えてみれば分かった事だろう。逃げたいと思う気持ちはこれまであれど、これ程までの殺気を経験した記憶は無かったと。


《人間よ、何用でここに来た?》


低く冷ややかな声は、聞こえるのではなく頭の中に直接伝えている。人では有り得ない、だからと言ってこんな芸当魔物が出来るとも聞いた事が無い。


「俺らは依頼で来た。逃げた魔物の捕獲だ。」

「なっ!?お前!」


恐れ知らずも甚だしい。勝てると思ってるのか?無理に決まっている。余裕綽々なそんな男の態度に冷や汗が止まらない。


「依頼者の飼っていた魔物が逃げ出してな、その依頼だ。」

「黙れって、本当に!」


ふっと笑い話す男の表情に、この状況で謀る馬鹿はこいつだけだ。男の言葉に殺気が増してる事に気付き恐怖が増す。


《ほう、我に嘘を吐いたか?》

「違っ、俺は何も言ってない!」

《では貴様は何をしに来た。》

「ッ!?」


何を怖がってるんだと言いたげに見る男に嫌気が差す。俺の為の行動がこいつの為になっているのも癪に障るが、今はそんな事どうでもいい。俺達の前に現れた、その状況からこいつは知ってるんだ。嘘を言っても真実を言っても同じだろう。


《我に言えぬか?ならば選ばせてやろう。生きるか死ぬか選ぶがよい。》


口を閉ざし言えぬ男は喉を鳴らす。俺だけに向けられている殺気は半端ではなく、死、ただそれだけしか考えられない。顔を真っ青に変え言葉に悩む男に慨然として嘆息した巨体男。


「何怖がってんだ?やるってんなら俺らでやればいいじゃねぇか。依頼報酬もいいんだしこれ逃したくねぇんだけど」


そう、苛立たしさに横目で睨み警戒しながら辺りを見るが


《うむ、力量も把握出来ぬ弱者に選択の許しを与えるはずがない!勝手に入って来るとは死にたいようだな。》


一瞬で出来上がった氷の刃、いや透き通る程綺麗な氷の剣が男を囲むように十本程現れ剣先を向けられていた。その光景に息を止め愕然と目を見開き男は漸く理解したが遅かった。剣先が首元へと触れ、体が震えだす。氷剣を弾こうとした瞬間には首が飛ぶ、そう確信した。


あぁ、俺は失敗したのか。今まで死にそうになった依頼もちっぽけな様に思える。俺もこいつと同じで実力無しの能無しだったのか。恐怖よりも男に向けられる氷剣の美しさに目を奪われた。


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