捜索開始

《主、どうやらフォルムの森に入った様です。》


そう迷わず進んで行くハティルの背に乗りフォルムの森へと入る。フォルムの森と言っても広大で、私が目覚めた所とは全く違い人が通るのが困難な獣道。岩をひょいひょいと登っているのにも関わらず微動だにしない乗り心地抜群な背中でもふもふだ。依頼は忘れて無いけどちょっとだけ堪能しちゃった。ハティルは埋もれる私に振り向き話し出す。


《少し可笑しいと思ってたのですが今はっきりと分かりました。普通の猫では無いですね。》


そっと小さな穴へと視線を落とす。猫一匹入れるぐらいの大きさで私は入れない。


「普通じゃないって、魔物って事?」

《我は猫については知らぬから賢い猫がいるのかも知れないとも思っていたのですが、魔物であるならば納得がいきます。魔物であれば知恵も理性もありますから普通の猫以上に賢いはずです。》


私は背から降りハティルが体を縮める。腕に抱かれていた程の子狼へと変わり穴へと顔を突っ込む。


《それに魔力量からして魔物ですね。我からすれば微少ですが普通の猫よりは多い。》


周辺の魔物の気配が分かるらしい。


「気配?強さとか?」

《そうです。保有する魔力量もその一つですね。五キロ内にいる者なら大体把握出来ます。》

「五キロ!?」

《走ればすぐですね。》


嫌々、もう地球の概念から外れてるから。一瞬ならば電車も車も全く必要性がなくなっちゃう。この世界でこれが普通なのかな?


《主も出来るようになりますよ。》


うん、地球の日本生まれの転生者だから信じられないんだけどね。ハティルが出来るって言うなら出来るんだろう。もうここは地球じゃないんだし、地球の常識との違いに驚いてたら駄目だよね。この世界で生まれ変わったならこの世界の常識を知らないと。


《では連れてきます。》


そうして穴の中へと入っていったハティル。待ち時間何しようかと、そういえばあれから透明な板が現れてない。又望めば出てくるのかなと出てきたプロフィール画面。


─────────────────────

セシリィ=アルティ

種族 : 神人

職業 : 創獣使いヴァリマー

─────────────────────


触れるのか創獣使いヴァリマーの部分に触れてみると、押せる感覚と共に違う画面へと変わった。縦一列に並ぶ文字。それは一つだけ白文字で他が黒文字。その一つは創獣進化したハティルの名前であり、してない皆が黒だ。一人一人思い入れがある。ベッドにいた時間よりもゲームの中の思い出が多いのは、申し訳無い様な気もするんだけど家族と会わなければそうなるでしょ?仕方無いよね。


「早く出してあげたいな。」


黒文字をなぞり呟いた。皆どんな状態なのか、ただ眠ってるだけなのかな?ハティルが出てきた時の様に結晶体の中にいるのかな?


「待っててね。」


創獣のレベル上げってどうすればいいか分からないけど頑張ろう。そんな意気込みでいるど、穴の方から何か引き摺る音に目をやった。視線を反らせば消える画面。お尻から出て来たハティルが口に咥えた真っ黒なそれを穴から出した。


《私に、何か‥ようかしら?》


長毛種の黒猫。耳を横に伏せて背を丸める姿は正に猫らしいけれどそれ以上に驚いたのは。


「言葉が分かる!」


使い魔って言い方は嫌だけど、そんな契約もしてないのに魔物と言葉を交わせた。


《主と我とて魔力回路の繋がりが出来てますから我が受け取る言葉は主に理解出来るのです。》


嬉しい事実に微笑んでいた。怯えられているのに可愛い過ぎで口元緩んじゃう!ソフィアナさんが愛でるのも分かる!びくびくと震える身体に怯えさせない様に少し離れた距離を維持して腰を折る。


「ごめんね、怖がらせたい訳じゃないの。貴方を探して欲しいってソフィアナさんからの依頼で来ました。」


ソフィアナさんの名前を聞いた瞬間、耳を立たせて私を見上げた。


《ソフィ?本当に?》

《我が主が嘘をつくと思ってるのか。》

《ごめんなさい!!》


ハティルの言葉に又耳が下がる黒猫クーちゃん。もう、怖がらせない様にしてるのに。ハティルを掴まえて私の横に座らせる。


「ごめんね。ハティル、怖がらせないで!」

《うむ、すまぬ。》


そう黒猫クーちゃんを見ながら耳を下げるハティル。しゅんとなる姿に怒るきもなく、反省してそうだし背中を撫でてあげると、地にぺたりと着いていた尻尾を振り出す。フェンリルを忘れて犬に見えてきちゃった。ハティル絶対怒るだろうとな笑った。


「本当だよ。ソフィアナさんが寂しがってるの。クーちゃんがいないってずっと冒険者に依頼してたみたい。」


その言葉に嬉しそうに顔を上げるが、それでも帰れなさそうに地面に視線を下げた。


「何か理由があるの?」


顔を上げて私と目が合うと頷く黒猫クーちゃん


《ソフィに迷惑かけちゃう。》

「どうしてそう思うの?」

《だって、私追われてるから。》


追われてる?なんで?


《私達妖精猫ケット・シーは一目に突かない場所で暮らしてるからこそ、人間にとっては希少種なんです。私の場合は助けてくれたソフィと一緒にいたかったから側にいたんだけど、バレちゃった。もう一緒にいられない。》


瞳から溢れるソフィアナさんを思って泣く姿に私も辛くなる。そんな姿にふんっと鼻を鳴らすハティル。


《何を言うか、いたいなら居ればいい。そんな理由で離れる方が可笑しいだろう。我はいたい所にいるぞ。一生ここにいると決めたからには何が何でもだ。それで迷惑掛けるなら我が全て消すのみ。》


当たり前な事だと言うハティルに、目を丸くする私。


《貴方は強いから言えるのよ。》

《弱い事を理由にするな。弱ければ強くなれ、弱ければ考えろ。お前は魔物なのだから、知恵もあるではないか。考える事は人間だけの武器ではないぞ。人間など一瞬の命なのだから、悲しんでる間に終るぞ?いいのか?》


小さいながら胸を張り堂々と言う姿は正に格好良くフェンリルの風格がある。ごめんね、もう犬なんて思わないからと心で呟きハティルを抱き締める私に、首を傾げるハティルだった。その言葉に涙を拭き取り目に力が籠る黒猫クーちゃんは、私を見て頭を下げる。


《私を助けて下さい。ソフィの側にいられるなら、手伝える事なら何でもします!私、弱いから助けを求める事しか出来ないけど、このまま隠れてソフィがいなくなるのは嫌なの!》


弱々しかった黒猫クーちゃんが立ち上がり尻尾を立たせる姿にハティルは良く言ったと頷き私に向く。


「うん、絶対助けるよ!ハティルいける?」

《居場所はもう把握しています。》

「さすがハティル!」


そう誉めれば嬉しそうに尻尾を振る姿に苦笑いしちゃう私だけど、やっぱ犬に見えちゃう所がハティルの可愛い所だよねと、そっと頭に触れた。

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