初依頼Ⅱ
ギルドから貰った紙を見て歩く事に十分。年季の入った木造ではあったがこぢんまりと可愛らしくし、手入れされた花や緑が家に合って暖かな雰囲気。ハティルを腕から下ろして扉をこつこつと叩いた。
「すみません、依頼で来ました。」
ゆっくり歩いて来る足音。古びた音が鳴り扉が開いた。
「あらま、貴女が依頼を?」
そう出てきたのは白髪の老婦人。顎に手を当てて私を見るもので、出来るのが不安できっと子供に見られてるのだと分かっている。
「はい。頼りないと思いますが任して下さい。この子に頼めば一瞬で見つかりますから。」
そうハティルの脇を手を通し抱き上げて見せると、老婦人は優しげにふふっと笑った。
「ごめんなさいね、ちょっと可愛らしい冒険者様だったので少し驚いてしまって。」
老婦人と思わせないチャーミングな笑みに、好い人そうだと思えた。驚いたって事は少しは不安感はありそうだけど、私とハティルを見詰める目は温かく感じる。
「そうね、最後に可愛らしい冒険者様に頼もうかしらね。」
目を細め懐かしげにハティルを見る老婦人。愛猫を思い出してるのかな?可愛がっていた、一緒にいた日々の記憶。きっと今の私の様に抱き上げて撫でたりしてたのかな。
「はい、ありがとうございます!私、必ず見付けます!ハティル、絶対に見つけて。」
《我に見付けられないものなどありません。》
必ず成し遂げれるかの様に得意気に言い放ったハティルに頼もしさを感じさせる。老婦人にもこの頼もしさを聞かせたかったけど、きっと「ワン」的に聞こえてるんだよね。聞こえたなら安心感にきっと不安も無くなるのに。
依頼主さんはソフィアナさんって言って、猫がいなくなったのがもう一ヶ月も前の事らしい。依頼を出して一ヶ月も見付けられないからか、ソフィアナさんは諦めてるみたいで、私で無理なら依頼を取り消すみたい。そんな事言われたら絶対諦められないでしょ。
「猫の特徴と、猫の使用してた物ってありますか?」
ソフィアナさんが持って来た物はクッションだった。この上がお気に入りでよく眠っていたとか、ハティルが匂いを嗅いでいる。
「クーちゃんは真っ黒な長毛種の猫でね、とても綺麗で上品な猫だったのよ。もう私の言ってる事が分かるかの様に本当に賢かったの。」
そう思い出し笑うソフィアナさんだったが目を伏せた。
「それにね、とても珍しい猫らしいのよ。愛好家の方に教えて頂いたの。」
凄いでしょと楽しそうに話す。元は野良猫だったと傷だらけで助けたら懐いて離れられなくなったのだと微笑ましげに自身の手を見詰めていた。いない辛さ悲しさがひしひしと伝わる。
「ハティル、いけそう?」
《問題はありません。臭いが分かれば嗅ぎ分けるのは容易いです。》
鼻をひくひくさせて行きましょうと伝えてくるハティルに頷き私はソフィアナさんに向いた。
「ソフィアナさん、クーちゃんは必ず見つけますから待ってて下さいね。」
ではと頭を下げて走り出すハティルの後ろを追った。私がハティルを大好きな様にソフィアナさんの想いが分かるから見つけてあげたいと強く思う。悲しそうに微笑まないソフィアナさんの嬉しそうな顔が見たいな。
《主、どうやら町にはいない様です。外界に出たと思われます。》
元野良猫だからかとも思うけど、ソフィアナさんに懐いていたのは聞いてはっきりと分かる。自分から離れたいと思うのかな?
「猫って死に際に飼い主の前から消えるって聞いた事もあるけど、違うよね?」
《猫については我には分からないですが、きっと生きてます。》
そうだよね、生きてる。きっと違う理由で離れたんだと思う。
「一人で死ぬって辛いの。」
いつ死ぬか分からないって知って生きていてもそんな簡単に受け入れられない。死ぬのは怖くて助けて欲しくて誰かにすがりたくても一人だった。誰かに側にいて欲しい、そう思う事だってあった。私にはゲームが唯一の拠り所だったし、オンラインでも繋がりが出来た。次死ぬ時は誰かに看取って欲しいと、前を見ればハティルが側にいてくれる。
「ハティルずっと側にいてね。」
《我が主から離れる事など有り得ません。》
自由な身体で何処へでも行けるし、側にいてくれる存在がいる。宝狼とも出会って仲良くなった。ロデーは意地悪だけどルフィやライフさん、クレイブさんとは仲良くなれたと思う。前に出来なかった事が出来るって、私は幸せ者だよね。
《主、我の背中に乗って下さい。隔てを越えます。》
防壁の下の小さな穴、そこから出たのだろう。身体を大きくさせたハティルの背に乗り体勢を低く落ちない様に掴まった。高く跳び上がり軽々と城壁を越えた先には大自然と先に大海原が広がっていた。太陽は眩しく照らし南遠くの方には山脈が見え、どこまであるのか分からない程の私が生まれたとも言えるフォルムの森だって見える。浮遊感なんて感じなくて怖さもなく、私はただその景色が綺麗だと思えた。
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