冒険者ギルドⅡ

「ではこの用紙に記入して下さい。」


女性ギルド員が持って来たのは、用紙には項目があり、氏名、職業、魔法の三項目。


「氏名ってフルネームですか?名前だけでいいんでしょうか?」

「家名があるのですか?貴族様でしたか?」

「いえ、もしある場合は?」

「その場合はどちらでも良いですよ。貴族の中にも隠したい者もいるので。」


家名って貴族だけなんだ。なら隠した方がいいよね?貴族じゃないし。氏名にセシリィと書き職業には魔物使いテイマーと書いた。


「この子が魔法を使える場合はどうしたらいいですか?」

魔物使いテイマーですか。魔物使いテイマーならば書かなくて結構です。魔物使いテイマーの場合増えていく場合があるので書いても無駄になってしまいます。」


項目を覗き職業欄を見た瞬間落胆し声が下がる。魔物使いテイマーがそんなに悪い?何かムカつくな。話を聞いてか後ろで座ってた冒険者が笑い出す。


「嬢ちゃん、魔物使いテイマーなら止めとけよ。弱っちい魔物で役に立たない魔物使いテイマーなんて職業は誰もなりたがらねぇ。すぐに死ぬぞ。」

「あんなに意気がって魔物使いテイマーとはな。」

「叶って死ぬなら後悔無いって言いながらも一瞬で死んで笑いもんだぞ!」


この世界の魔物使いテイマーはそう言う立ち位置なのか。魔物を戦わせるだけだし強さは魔物次第だもんね。低級魔物と罵られるハティルはめっちゃ殺気立ってる。冒険者達を無視してこれでいいですと出す私に女性は分かりましたと返事をして用紙を持ってった。


「嬢ちゃん、聞いてたかい?死ぬよ?」


そう肩に手を置いたのは、最初に話し掛けて来た冒険者。それなりに出来る冒険者なのだろう、身形も確りしていて筋肉もある、背には大剣を背負っていた。


「はい、それでもやると決めたので無視しました。魔物使いテイマーを余り見くびらないで下さい。ハティルはとても優秀ですよ、貴方達よりも。」

《こんな弱小が主の役にも立たぬ!我ならば首を掻っ切って死んでる。》


一鳴き、機嫌が悪いハティルだけど私の為に我慢してくれている。


「ふっ馬鹿だろ。俺よりもその犬の方が役に立つと?あり得ん、そんな銀狼シルバーウルフに劣る訳がない。」


だから銀狼シルバーウルフじゃないもん。あんたは劣ってるの、ハティルには勝てない。そう返そうと口を開きかけた瞬間、冒険者ギルドの扉が勢い良く開いた。


「よっ、戻ったぞ!待ったか餓鬼?」


そう来たのはロデー達、宝狼メンバー。餓鬼と言われようが今はこの冒険者が先!ハティルを馬鹿にして、ロデーより先にお尻噛ませようか?


「セシリィ、冒険者なれた?」


そっと近寄って来て優しさMAXルフィ。ムカついていたがちょっとましになったかな。


「宝狼メンバー全員いるとか奇跡じゃない?」

「ヤバい、最高!ライフ様格好良い‥‥。」

「いやいや、断然ルフタス様でしょ。」

「あたしクレイブ様~。」

「男から見てもすげぇ憧れるわ。」


‥‥皆凄い人気者だね。


「ロデーだけ人気無いね。」

「うっせぇ。」


ロデー以外苦笑いする三人だった。そんな私達の様子に話し掛けていた冒険者がたじろぐ。


「何でこんな餓鬼が宝狼と仲良いんだ?」

「弱すぎて守ってもらってんじゃね?」

「それはあるか。」


三人話し声は聞こえてるよ。宝狼メンバーにも聞こえてるし、守って貰わなくてもいいからね。


「守ってもらって無いですし、弱くもないです。馬鹿にするなら、死にますよ?」


本当に怒りそうな私の様子にハティルは牙を剥き出しに鼻先に皺を寄せた。唸りはしないが後一歩、そんな矢先。


「おいおいヤバいって!本当に怒らせんな!てかこいつら怒らせたら俺らでも死ぬって、マジでやめろ!」


ロデーが間に入って来た。仲裁役がロデーってのがちょっと驚きだよね。


「ロデの言う通りですよ。どうしてこうなったのかは分かりませんが、私達がこの子を守っている訳ではありませんし、この子一人でも十分冒険者としてやっていけるでしょう。」

「俺らが守らなくても強いから、あんまり見くびらない方がいいぞ。」

「冒険者なら相手の実力把握出来ないと死ぬよ?」


皆、いい人達と助けてくれた嬉しさに浸る私。もういいのかと聞いてくるハティルにいいと伝える。皆の迷惑にならないようにしないとね。


「てか、馬鹿にしてると俺より先に噛まれるぞ。」


うん、そうしようと思ってました!


「やっぱ噛むならロデーが先かな?本当に何回言えば分かる?」

「‥‥なぁ、本当にやめとけよ。見た目によらず怖いから。」


私達の話に驚愕する冒険者三人組。私とロデーを交互に見る冒険者に頷くロデー。


「今、ルシス最強かも?」

「嘘だろ、絶対に。」


そう言いながら、下がって行く三人組。


「「「すみませんでした!!!」」」


そう冒険ギルドから逃げて行った。ハティルに限っては謝り方がなってないとか土下座しろとか言ってるけどね。


「セシリィ様、冒険者カードが出来ましたのでお渡しいたします。」


そう奥に行っていた女性が戻って来た。今の会話聞いて無かったのか、私と宝狼が一緒にいるのを驚いてはいるが素っ気ない。あの冒険者みたいに言うわけでも無いしとありがとうと伝えてカードを手に取った。


「おっ、見せろ見せろ!」


そうカードを取ろうとする手は、ハティルの一吠えによって止まった。


「冗談に決まってるだろ。」


薄ら笑うロデーに、鼻笑うハティルだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る