遭遇
どうしようか、そう考えながらハティルを見ると首が痛くなってきた。
「ハティルが小さくなれればいいのに。」
そう首の筋を伸ばしながら呟くと出来ますよとみるみるうちに小さな子犬へとなっていった。例えれば子犬のシベリアンハスキーのもふもふバージョン。抱き上げて背中に顔を埋めた時の気持ち良さは、最高級クッション‥‥知らないけどね。
《主!主!》
ハティルのその呼び掛けにもふから顔を上げた私。
《魔物来ます。》
え、来るの?どうしようどうしよう!!現実、なんだよね?転生、生まれ変わったんだよね?
ゲームキャラ、だからだろうか?私にもまだ見えないはずの魔物の気配が分かる。魔物は五体で狙ってるのがバレてる時点で弱い魔物。知能が無く本能で生きてるからハティルの事も分からないんだと思う。
《主のお手を煩わせる訳にはいきません。我が行きましょう!》
そう言葉と共に腕から飛び出たハティル。大きさも大型犬並みに変えて、私の前に立ってくれた。堂々と立つ姿はとても格好いいのだけど、凄い尻尾を振ってて格好付けたいのが見え見えで可愛いね。転生して早々戦闘も嫌だからハティルにお願いしよう。
三匹が囲うように回り二匹が草原から現れる。狼ってよりもハイエナ見たいな魔物。
《ウルフですね。とても弱い魔物です。》
ハイエナっぽいのにウルフ?とちょっと笑いそうになったけど、ハティルが一歩歩こうとした瞬間に、目の前にいた二匹が首から鮮血を溢れ出し倒れた。ハティル凄い‥‥目にも留まらない早業、これが神速なんだね。私主だけど、一緒に戦えるかな?役立たずにならないかな?それだけが心配。ハティルに負けないぐらい努力しなくちゃ駄目って事だよね。
目の前にあるウルフの死骸は酷く、肉が見えてるけど気分が悪くなる事はなかった。この世界に来てこの世界の身体だから?日本の様に平和はなく、弱肉強食がこの世界の根本ならばこれが日常的になるんだ。目を反らさず慣れないと。
《主を狙っておきながら逃がす訳が無かろう。》
この世界の死を見ていた私は他の事を忘れ、目の前にいたハティルが消えていた。所々聞こえる草を分ける音はウルフの逃走音で、凄い事にハティルの足音は何一つ聞こえない。無音の神速、もう目の前に戻って来た。
《主、終わりました!》
そう褒めて欲しそうに尻尾を振ってくるから褒めちゃうよね。うん、甘やかしてないよ!偉い時は褒めないとね!
血塗れの地にウルフの死骸の側で狼の頭を撫でる少女。これを見たならばそぐわない光景に唖然とするのだろう。
《主、又何か来るみたいですが。》
「人間かな?」
《正解です。この魔物を追っていたのでしょうか?》
「人数は四人だよね?冒険者とかかな?」
《かもしれませんね。》
どうしようかこの状況。私が倒したって事でもいいんだけど、こんな子供が五匹倒せるかって事だよね。倒せたら倒せたで逆に疑われそうな気もするし。
これは、うん決めた。正直にいこう!
「ハティル、縮もっか。狙われたら駄目だし。」
《負けませんよ?》
「戦わないから。」
私の言葉通り小さくなってくれたハティルを抱き上げた。可愛い子犬と愛らしい少女の出来上がりですね。
揺れる草原、聞こえてくる声。
《主?》
強く抱き締めてしまった。
「大丈夫。」
今も昔も変わらない。変わった事は動ける事になった事。もう自由に何処にでもいける様になった事。
《主には我がついてますからね!》
抱き締める腕の中から振り向き舌を出し笑ってるハティルの言葉にまだもう一つあった。私の傍にずっといてくれる存在がいるって事。ハティルも居てくれるし、これからも増えていくんだ。
「うん、ハティルありがとう。」
身体に挟まれて尻尾が振れないけれど、気分よさそうなハティルのお陰で不安もなくいけそうな気がする。
「おい、倒されてるぞ?」
「他は?」
「いや、三匹は死んでる。」
「他の魔物か?」
「あぁ、牙や爪で殺られたのか?」
《そんな雑魚など触るわけなかろう。魔力を爪に纏わせて飛ばしただけの事。》
要するに魔法だね。何か凄い怒ってる。ハティルにも色々と矜持があるみたいだね。
《爪や毛に血が付いたら取るのが大変で、臭いが特に取れないからな。》
何か思い出し嫌そうに震えるハティル。フェンリルであっても見た感じは怯え震える子犬に、笑いそうになったが、草原が揺れて人間の声が間近になって来た事からそっと目線を上げ気合いを入れた。
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