第27話「寂しがり屋とやきもち焼き」

「――うっわ、嘘だろ……?」


 お風呂から上がり、一ヶ月間戦いに集中できるようにと預けていたスマホを夜見さんから受け取った俺は、電源を入れた際に表示されたありえない通知件数に驚きを隠せなかった。

 表示されたメッセージの通知件数は999件。

 完全にカンストしてしまっているだろう。

 見れば湊や委員長だけでなく、元クラスメイトたちのアカウントから大量に送られてきているみたいだ。


 ……いや、うん。

 チャットアプリの通知件数は凄くやばいけど、着信数も確認すると結構やばいな。

 ただ、こちらはチャットアプリとは違って委員長がひたすらかけてきているようだった。


「さすがに急だったからな……。みんな驚いて送ってきているという感じか」


 俺は苦笑いをしながらみんなからのメッセージを見てみる。

 そして、早乙女さんの名前を見つけてスクロールの手を止めた。


『今回の転校、いったい何があったのですか?』


 早乙女さんからのメッセージを開くと、今までとは違う雰囲気のメッセージが書かれていた。

 顔文字は使われていないし、いつものほんわかとした柔らかい雰囲気もない。


 これはもしかしなくても気が付かれているのだろうか?

 勘が悪くなければネコトちゃんというもう一つの顔を持つ彼女は俺が動いていることに気が付いてもおかしくない。

 彼女のほうは状況が一変しているだろうし、その上での結末がこれだったと思われてしまったというところか。


 実際はその通りなので言い訳はできないが、自分のせいだと思われるようなことは避けたい。

 そうなってしまうと彼女はとても優しいだけに自分を責めてしまうだろう。

 そして長期間引きずってしまう可能性もある。

 だから、何かうまく誤魔化せればいいのだけど――。


 そんなことを考えていると、スマホの画面が着信画面へと切り替わった。

 名前を見ればそこには『二階堂さやか』という名前が表示されている。

 これは委員長の本名だ。


 着信ということでスマホがブルブルと俺の手の中で震えているのだが、なぜだろう?

 これが委員長の怒りを代弁しているように感じてしまうのは。


 なんだかこの電話に出るのが凄く怖い。

 だけどここで出ないわけにもいかない。


 急に勝手にいなくなろうとしているのだから委員長も聞きたいことがたくさんあるのだろう。

 出来れば離れ離れになろうとも彼女たちとはこれからも友達としてやっていきたいと俺は思っている。

 大学に進めば彼女たちが東京に出てくる可能性も十分にあるし、離れていてもこんなふうにやりとりを出来る手段はいくらでもあるのだ。

 折角の縁を自ら壊すことはない。


 そういうふうにして覚悟を決めた俺は通話ボタンを押した。


「もしも――」

『なんですぐに出てくれないの!?』


 電話を出た瞬間に聞こえてきた大声で俺の鼓膜がキーンとなる。

 とんでもない怒鳴り声だ。

 そして涙声でもある。


「ごめん……」


 委員長が涙声で怒鳴ってきたため、彼女の気持ちを察した俺は彼女に謝る。

 すると、小さく鼻をすする音と共に彼女の声が聞こえてきた。


『あ、謝られても……。な、なんで、急に転校なの……? なんで、学校、こないの……?』


 委員長は少し混乱しているのか、いつもとは違って弱々しい幼子のような声で尋ねてきた。

 そんな彼女に俺は申し訳ないと思いながらも、なるべく優しい声を意識して事実のみを告げることにする。


「ごめん、必要なことなんだ」

『な、何に……? ネコトちゃんのため……?』


 あの事件が起きた時、委員長はその場に居合わせた。

 そして俺が一人別行動をとったことから、何かしらのやりとりが交わされたと想像したのだろう。

 委員長の場合は少々勘がよすぎる気がするな。


「いいや、ネコトちゃんは関係ないよ。俺の家の問題だ」


 ここで彼女の真実を話しても何もならない。

 むしろ、ネコトちゃんが嫌われる可能性を考えた俺は、咄嗟に委員長に嘘をついてしまった。


『本当に……?』

「本当だよ、東京の親戚の家に預けられることになったんだ」


 こう言えば優しくて気遣いができる彼女は踏み込んでこれない。

 汚い手ではあるけれど、ちゃんと説明できないのだから仕方がなかった。


『…………』


 案の定、委員長は何も話せなくなった。

 下手なことを言えば俺を傷つけてしまうと考えているのだろう。

 優しい彼女に付けこむ卑怯なやり方だが、踏み込ませるわけにはいかないので仕方がないのだ。


 だけど、当然このまま終わらせるつもりもない。


「何、心配はいらないよ。別に酷い目に遭わされるわけじゃないからね」

『でも……もう、遠くに行っちゃったら……会えないじゃん……ぐすっ……』

「別にこれが永遠の別れというわけじゃないんだから、泣かないでよ委員長」

『な、泣いてないもん……!』


 俺の言葉を聞くと委員長はすぐに否定をしてきた。

 どう聞いても涙声で泣いているようなのに、相変わらず変なところで強がる子だ。


「そっか。でも、本当に永遠の別れじゃないんだ。長期休暇には帰ってくることもあるだろうし、話したいことがあればこんなふうに電話やチャットアプリでやりとりすることさえできる。だからそんなに重く考えなくていいんだよ」


 実際父さんは残るのだから長期休みの時は帰ることができるだろう。

 そしてもし彼女たちが何か悩みを抱えたり厄介なことに巻き込まれたのなら、こんなふうに電話で話すことができる。

 だから委員長が泣く必要な何もないのだ。


『……風早君って、実は凄く冷たい人だよね……?』

「えっ!?」


 優しい対応を心掛けていたはずなのに、思わぬことを言われて俺は驚いてしまう。

 そんな俺に対して委員長は言葉を続けた。


『ちゃんと、長期休みの度に帰って来てよね……?』

「あっ、う、うん」


『ちゃんと、連絡、してよね……?』

「わ、わかった」


 先程先制パンチみたいなものを喰らったからか、縋るような声で言ってくる委員長の言葉に俺は頷くことしかできない。

 ここで少しでも否定をしてしまうとまた冷たい奴と言われる気がしたからだ。


 そしてそのまま何か押し切られるような形になってしまい、最後には毎日電話をするという約束になっていた。

 よくわからないままに話が進みまくった結果だ。

 だがまぁ、電話を切る際の委員長の声は少し明るくなっていたからこれでよかったのかもしれない。


 と、思ったのだけど――。


「――君、少し目を離した間に新たな揉め事作るのやめてくれない?」

「――っ!?」


 委員長とのやりとりを終えてスマホをポケットにしまうと、いつの間にか後ろに立っていた夜見さんに呆れた声を出されてしまった。


 うん、全く気配がしなかったぞ、この人……。


「よ、夜見さん……? いつからそこに……?」

「さぁ?」


 いつからいたのかわからなかったので尋ねると、夜見さんは考えを読み取らせない無表情になって首を傾げた。

 どうやらとぼけるつもりらしい。

 ただ、それで終わらせるつもりはないらしく、すぐに夜見さんは口を開いた。


「別に君が誰とどんな約束をしようと勝手だけど、後で一人悶えることになっても夜見は知らないから」

「えっと、何を怒ってるんですか……?」

「別に……」


 なんだかよくわからないけど、夜見さんはプイッとソッポを向いて部屋を出て行ってしまった。


 怒っているというか、拗ねているような態度だったけど、いったいどうしたのだろう?

 そして、俺が悶えることになっても知らないって、どういうことだ……?


 ――俺は夜見さんの態度と言葉に疑問を抱くが、この時はまさかその答えをすぐに思い知ることになるだなんて想像もしていないのだった。


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あとがき


いつも読んで頂き、ありがとうございます!

楽しんで頂けてますと幸いです(*´▽`*)


また、なろうさんで日間、週間、月間1位を獲得しました新作

『負けヒロインの相手をしていたらいつの間にか付き合っていると勘違いされ、勝ちヒロインのはずの幼馴染みが怒り修羅場になった』

の連載も開始しましたので、どうぞよろしくお願いします!!

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