第24話「消えた男」
「――では、これからも三人で仲良く頑張ってくださいね」
クララちゃんの一件があってから一週間が経った頃、私とアリサちゃん、そしてクララちゃんはとてもご機嫌な様子の社長さんとマネージャーさんによって呼び出されていた。
そしてクララちゃんの一件は若さゆえの過ちだったということで許され、これからも三人で活動をするようにと先程話があった。
昨日までは一切私の訴えを聞き入れてくれなかったのに、とんでもないほどの手の平返しだと思う。
実際私だけじゃなくてクララちゃんも凄く戸惑った様子だった。
アリサちゃんはあまり驚いている様子がないから、何か思い当たる節があるのかもしれない。
そして、いつも険しい表情をしている社長さんがニコニコ笑顔なことが怖かった。
何か裏があるとしか思えない。
だけど――。
「よかったね、クララちゃん……!」
今は、クララちゃんを許してくれたことを喜ぼうと思った。
SNSなどではまだクララちゃんのことを凄く叩く人たちばかりだけど、また頑張ってやっていればきっとみんなも許してくれると思う。
だから、また三人で頑張っていけばいい。
「ごめんね……! 本当にごめんね……!」
クララちゃんは今回のことを反省しているようで、泣きながら一生懸命謝ってくれた。
この子は危ういところがあるけれど、やっぱり根はとてもいい子なの。
だから私はクララちゃんのことを大切な友達だと思っている。
その後は、泣いて謝るクララちゃんをアリサちゃんと二人で宥めながら、マネージャさんから今後の話を聞いて終わった。
そうしてクララちゃんの一件は片が付いたのだけど、この時私は既にもう一つ問題というか、悩みを抱えていた。
それは、なぜかこの前のライブの騒動以来風早君が姿を見せなくなったということ。
この一週間学校に来ることはなく、私が送ったメッセージにも返信はない。
それどころか、委員長さんたちも何も聞いている様子はなく、みんな風早君のことを心配していた。
もしかしたらもう風早君には会えないかもしれない。
そんな予感が私の中にはあった。
◆
「――なんで連絡取れないのよ……!」
風早君が学校に来なくなってから三週間が経った頃、教室内に委員長さんの大きな声が鳴り響く。
普段優しい委員長さんがとても荒れているので、みんな遠巻きに様子を窺っていた。
そんな中、笹倉君だけは彼女に近寄って声をかけた。
「一応学校には休むって連絡が入っているらしいじゃないか。無事なのは確かだよ」
「だったらどうして私たちには連絡がないわけ!? 絶対におかしいでしょ!?」
委員長さんはとても機嫌が悪いようで、珍しくも八つ当たりのように笹倉君に怒鳴る。
そんな委員長さんに対して笹倉君は困ったように頬を指で掻いた後、ゆっくりと口を開いて優しい声を出した。
「今怒っても当の本人がいないんだから仕方ないでしょ?」
「でも――!」
「それに頼人のことだ、きっと必要だからそうしているんだよ。委員長ならわかるでしょ?」
「…………」
困ったような笑みを浮かべる笹倉君の言葉に思うところがあったのか、委員長さんはグッと悔しそうな表情をして黙り込むと、コクリと小さく頷いた。
風早君は必要もなくこんなふうに休んだりはしない。
そのことには私も同感だった。
風早君、本当にどうしちゃったんだろう……?
お話したいこといっぱいあるのに、全然連絡取れない。
早く彼が学校に来てくれないと、もう話すことはできないかもしれないのに……。
私は笹倉君たちの様子を眺めながら、胸の内に焦りを抱いていた。
だけど、私たちの思いとは裏腹に風早君が学校に来ないまま一ヵ月が経つ。
そして、衝撃的なことを担任の先生から伝えられた。
「風早君は一身上の都合で都内の学校に転校することが決まりました。既に手続きなどは終えられており、もう彼がこの学校に登校をすることはありません」
きっと、彼を慕う誰もが耳を疑ったと思う。
それくらい、この出来事は私たちにとって衝撃的なものだった。
委員長さんなんて魂が抜けたような表情をしているし、今まで冷静に努めていた笹倉君は額を押さえて頭が痛そうにしている。
江村君なんて何が起きたのかわからないとでも言うかのように、担任の先生に喰ってかかりながら質問をしていた。
他の子も――特に、女の子数人は委員長さんと同じように心ここにあらずというように動揺をしている。
中には泣き始める子もいた。
風早君が実は女の子に人気があったことは知っていたけど、思っていた以上に彼は人気者だったらしい。
もうクラスは完全にパニック状態だ。
風早君、本当にいったいどこで何をしているの……?
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