第23話「最後のチャンス」
「――最悪だ」
夜見さんの屋敷の前に放り出された俺は、いつの間にか降り始めた雨に打たれながら天を仰いでいた。
俺はいったい何をしにここに来たのだろうか。
昔からの付き合いがあるからって、彼女に力を貸してもらえると勝手に思い込んでしまっていた。
そんな甘えを抱いてしまった結果がこれである。
ネコトちゃんにあんなふうに期待を持たせることを言った結果がこれだなんて、笑い話にもなりはしない。
本当に何をしているんだ、俺は……。
俺はあまりの自分の不甲斐なさに怒りが込み上げてくるばかりだった。
雨に打たれることで体は冷えるものの、内側に秘めるこの感情はいっさい冷やされない。
結局、そのまま立ち尽くす他なかった。
――それからどれくらい時間が経った頃だろうか。
数時間経過した後、やっと頭が冷えた俺はゆっくりと目を開ける。
「失敗や自分の不甲斐なさに腹を立てていてもしょうがないよな……。とりあえず、ネコトちゃんの件をどうするか考えないと……」
俺は今しないといけないことを言葉にすることで自分へと言い聞かせる。
こうすると不思議と気持ちが整理できた。
「まずは他の人に当たるかどうかだが――これは、なしだよな……」
一応当てはなくはない。
父さんならいろんなツテを持っているから父さんに頼むのは一つの手だし、夜見さんのお父さんに頼むという手さえある。
だけど、他の人たちだと全て任せっきりになってしまうのだ。
そうなると何かネコトちゃんたちに不都合なことがあっても融通を利かしてもらうのは難しくなってしまう。
その点、夜見さんならこちらの意見も十分聞いてくれるというメリットがあった。
何より、あの人ならネコトちゃんたちを絶対に無下に扱わず大切にするという確証もある。
だから彼女以外にこの役を任せたくないのだ。
――それに、まだ希望が
あちらがこちらのことを知り尽くしているように、こちらだってあちらのことを知り尽くしている。
本当に夜見さんが俺ともう話をするつもりがないのだったら、逆に家まで強制送還をしていたはずだ。
それなのにわざわざ屋敷の前に放り出すだけで留めたということは、まだチャンスがあることを意味する。
おそらく、この時間内に夜見さんが望む答えを出せということなのだろう。
その答えになるヒントは既に先程のやりとりで提示されていたはずだ。
だから今しないといけないことは、その夜見さんが望んでいる答えを見つけ出すことだ。
……逆に、次夜見さんが現れるまでに答えを出せなければ、もうチャンスはないだろう。
俺は再度を目を閉じ、ゆっくりと今日の夜見さんとのやりとりを思い出す。
ヒントになりそうなものはないか――夜見さんが、いったい何に拘っていたのかを思考を巡らせて考える。
わざわざこんな時間を作ってくれたんだ、絶対にあの人はわかりやすいヒントを出していたはず。
そう思って今日のやりとりを思い出していた俺だが……そのヒントになりそうなものが、見つからなかった。
何度思い返してみても夜見さんが何かを俺に求めていた節がないのだ。
もしかして今回に限っては俺の思い過ごしなのだろうか……?
まだチャンスがあると思っているのも、そうあってほしいという俺の願望でしかないのか……?
ヒントが見つからなかった俺は、自分の読み違いかもしれないという不安に駆られる。
もう既に読み違いを起こしているだけにそう考えると自信がみるみるうちになくなってしまう。
だから俺は自分で行動に起こさないといけないと思い、夜見さんの屋敷に向き直そうとすると――
「その頑固さは、一年くらいじゃ直らなかったんだね」
――いつの間にか、幻想的な雰囲気を纏う女の子が一人で目の前に立っていた。
彼女は呆れたような――そして、懐かしむような表情をして俺の顔を見つめている。
「夜見さん……」
待ち人来たる――とまでは言わないが、夜見さんが現れたことにより俺は安堵した。
どうやら今回は読み違いをしていなかったらしい。
「そこまで君がするほど、アイドルネコトのことが大切なの?」
夜見さんは若干不満そうな表情で俺に尋ねてくる。
明らかにネコトちゃんのことが気に入らなさそうだった。
「大切といえば当然大切ですが……それ以上に、自分がした約束を果たしたいという思いがあります」
自分からした約束を果たせないというのは許されざる行いだ。
きっと優しいネコトちゃんは仕方がないことだと許してくれるだろうけど、俺自身が許せなかった。
だからそう簡単に諦めるわけにはいかないというのがあるのだ。
「だったら、君はどうするの? 君が予め用意していた材料では夜見は了承しない。他に何か手は思い付いた?」
「…………」
試すような視線を向けてくる夜見さんに対し俺は黙り込むことしかできない。
未だに夜見さんが求める答えが俺にはわからないので、答えようにも答えられないのだ。
本当に、いったいこの人は何を求めているんだ……?
俺は黙り込みながらジッと夜見さんを観察する。
そして、ふと違和感に気が付いた。
あれ……?
夜見さん、どうして一人なんだ?
彼女は普段危険がないように常に誰かを護衛に付けているはず。
それは例え敷地内だろうと変わらない。
だから一人で彼女が屋敷の外に出てくるなんてありえないのに、なぜか今彼女は一人でいた。
警戒心が高い彼女にしては珍しい行為だし、彼女が一人で出て行こうとしたら絶対に止める人は屋敷内にいる。
それなのにわざわざ一人で出てきたということは、これも何かしらのメッセージなのか?
俺はジッと夜見さんを見つめながら脳を目一杯稼働させる。
そして、今日のやりとりを合わせてある結論を導き出すことができた。
もしかして、夜見さんが求めていることって――いやいや、本当にありえるのか、そんなこと……?
だって、あの夜見さんだぞ?
普通ならありえないんだけど……。
しかし、折角出た答えだったが、内容が内容だけに俺は合っている自信がなかった。
正直に言ってこれは自惚れなんじゃないかと思うほどの答えだったからだ。
だけど――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます