第11話「目隠れ女子は興味津々」
「――えっ、もうチケットは買えないの? そんなぁ……」
委員長たちが落ち着いたのでライブチケットのことを伝えると、もう手に入らないことを知った委員長は落ち込んでしまった。
本当に行きたかったようだ。
「ふん、思い付きで観に行けるほど彼女たちのライブは安くないんだよ」
「むぅ……」
挑発的な湊の言葉に委員長が唇を尖らせる。
また喧嘩しそうな雰囲気だ。
「湊、もうそろそろやめておけよ。委員長がかわいそうだろ?」
さすがにそろそろ止めたほうがいいと思った俺は、委員長が言葉を発する前に湊に注意をした。
すると委員長の嬉しそうな表情が俺に向く。
庇ってもらえたのが嬉しかったのかもしれない。
「次の時は声をかけるからさ、一緒に行こうか?」
「あっ……うん!」
機嫌が直ったようなので誘ってみると、委員長はとても嬉しそうに頷いた。
無邪気な笑顔が顔の幼さに拍車をかけて余計に幼く見えてしまう。
委員長のこの笑顔は大人気で、特に女子はこの笑顔を見ようと委員長を甘やかしたりする。
そんな委員長の笑顔を見つめていると、翔太と湊が物言いたげな目で俺の顔を見つめて――いや、もはや睨んでいた。
そして、なぜか早乙女さんも交互に俺と委員長の顔を見ている。
「えっと、どうかした?」
とりあえず翔太たちの相手はめんどくさそうなので、俺は早乙女さんへと声をかけてみた。
すると早乙女さんはブンブンと首を横に振って何もないと主張をする。
表情は見えないけれどとても必死なご様子だ。
何か都合の悪いことでも聞いてしまっただろうか?
「大丈夫?」
コクコク――。
今度は一生懸命縦に振る。
一生懸命な姿は見ていて微笑ましいのだけど、なんだか無理に頷かせてしまっているような気がした。
こういうのはあまりよくないだろう。
「言いたいことがあるなら言っていいよ?」
なるべく言い出しやすい雰囲気を作るために俺は笑顔でそう言ってみる。
すると、早乙女さんは俺から顔を背けてしまった。
なぜだ。
思わずそう言いたくなるけれど、もう顔を背けられてしまった以上どうしようもない。
無理に話そうとすれば嫌われてしまうだけなので、俺は仕方なく諦めて何やらこちらを見上げる委員長に話しかけることにした。
「どうしたの?」
「うぅん、なんでもない」
「だったら、なんで俺の顔を見上げていたんだ?」
「気のせいだと思うの」
ふむ、俺が早乙女さんと話し始めてから俺が委員長に話しかけるまでの間ずっとこっちに視線を向けていた気がするのだけど、勘違いなのだろうか?
いや、どう考えても勘違いじゃないだろう。
「何か話したいことがあるんじゃないの?」
「じゃあ、風早君はそのネコトちゃんという子のどこが好きなの?」
じゃあってなんだ。
じゃあって。
まるでとってつけたような言い方だし、聞いてきた内容も唐突だ。
一応アイドルの話繋がりではあるけれど、どうしていきなり聞かれたのかがわからない。
後、結構勢いよく早乙女さんの顔がこっちを向いたのだけど、もしかしてこの子はこういう話が好きなのだろうか?
「えっと、どうしてそんなことを聞くんだ?」
早乙女さんのことが気になってしまうけれど、今こちらから話しかけてまた顔を背けられると困るので委員長に聞き返すことにした。
「別に、なんとなく?」
「あぁ、ただ単に思いついたから聞いてみた感じか」
「そういうことだね」
「ふっ」
「……なんで今笑ったのかな、笹倉君?」
委員長が笑顔で答えた後になぜか湊が鼻で笑ってしまい、そのせいで委員長は笑顔で湊を見つめる。
しかしその全身からはドス黒いオーラが出ているように錯覚するくらい、委員長の纏う雰囲気からは怒りが読み取れた。
それを見てやりすぎたと思ったのか、湊は気まずそうに目を逸らしてしまう。
さっきまでは言い合いをしていた二人だけど、基本的な力関係では委員長が上だ。
身長は低くて童顔、なおかつ他人想いの優しい彼女だけど、逆に言うとそんな彼女を敵に回すと周りからの批判が半端ない。
そして何より、本気で怒った時の委員長は結構怖いのだ。
普段は人懐っこい笑顔を見せる女の子だけど、機嫌が悪くなると今みたいにドス黒いオーラが見えそうな雰囲気を纏いながら笑みを浮かべる。
それが異常に怖く感じてしまっていた。
一年生の頃はすぐに怒るような子だったけれど、ある事をきっかけに今みたいに他人のことをよく考える子になった。
そしてその反動として、怒った時はこんな笑顔を見せる子になったのだ。
……その原因を知るというか、彼女がこんな笑顔を見せるようになった一因は俺にあるので少し委員長には悪いことをしてしまった、と今では反省をしている。
と、そんなことを考えていると湊が助けを求めるような目を俺に向けてきた。
どうやらさっさと委員長の質問に答えて気を逸らせと言っているようだ。
正直好きな女の子の話を誰かにするというのはあまり好きではない。
やはりそういう思いは自分の胸の中でだけに仕舞っておきたいものだ。
だから話すつもりはなかったのだけど――早乙女さんが、凄く興味を持っているかのように俺の顔を見てきているのでこのまま誤魔化すのも忍びなく思ってきた。
全身をソワソワとさせており、まだかな、まだかな、と急かしているように思えてしまう。
もしかして彼女もネコトちゃんのことが好きなのだろうか?
そして同じアイドルが好きな人間を見つけたから、その話を聞きたくしているのかな?
「早乙女さんってさ、ネコトちゃんのことが好きなの?」
気になったので、俺は早乙女さんに聞いてみた。
先程は話しかけないみたいなことを言っていたけれど、ネコトちゃん好き仲間を見つけたかもしれないと思った途端反射的に聞いてしまった感じだ。
しかし、早乙女さんは俺の質問に対して驚いた様子を見せ、その後すぐにブンブンと首を横に振った。
どうやら俺の早とちりだったらしい。
そのことを凄く残念に思ってしまうが、それでも早乙女さんの反応から一つだけわかったことがある。
それは、委員長とは違い早乙女さんはネコトちゃんのことを知っているということだ。
どういう相手か知らなければこの子なら小首を傾げるだろうからね。
まぁアイドルに関してなどは人それぞれ考え方があるだろうし、俺の思いを押し付けるようなことはしない。
ただ、今度早乙女さんをネコトちゃんのライブに連れて行ってみようとは思う。
なんだかネコトちゃんに対して否定的な態度を見せた早乙女さんを見て、俺は一人心の中でそう誓った。
――その後は、みんなで仲良く話しながらお昼を取った。
早乙女さんは相槌を打つだけで会話自体には参加しなかったけれど、それでもみんなと食べるのは楽しかったのかなんとなくご機嫌なようだ。
教室に戻る際もちゃんと俺たちに付いて来ているし、このメンバーになら今後溶け込めるかもしれない。
そんな彼女を見て俺は、彼女の居場所をここに作れたらいいな、と思うのだった。
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