第8話「目隠れ女子の思わぬ行動」

「――早乙女さんとなんのやりとりをしていたの?」


 昼休み――注文したメニューを受け取ってからテーブルに着くと、当たり前のように付いて来ていた委員長が話しかけてきた。

 教室を出ようとするとすぐに後ろを付いて来たから何か話があるとは思っていたが、どうやら早乙女さんの話をしたかったようだ。

 昨日も随分と気にしていたし、やはり委員長の性格的に気になってしまうのだろう。


「メモのやりとり、気が付いてたんだな」

「まぁ私は風早君たちよりも後ろの席だしね。授業中に何してるのとは思ったけど、相手が早乙女さんだったから見逃してあげたの」


 結構漫画とかで出てくる委員長キャラは頭が固くてなんでもかんでも注意することが多いけれど、俺たちの委員長はこういうふうに臨機応変に対処ができる子だ。

 もちろん無駄話とかであれば速攻注意をしてくるけれど、相手が他人とほとんど話さない早乙女さんだったから必要なことと見逃してくれたのだろう。

 というか、そもそも早乙女さんのことを頼んできたのは委員長のほうだしな。


「それで、なんのやりとりをしていたの?」

「あぁ――いや、それって言わないといけないことなのか?」

「言えないことなの?」


 早乙女さんと二人だけで話していた内容を話していいのかと抵抗を覚えたのだが、委員長には何かやましい会話をしているように思われたらしい。

 普段の優しい笑顔からちょっと強張った笑顔に変わってしまった。


「――委員長って独占欲強そうだよな?」

「そうかな? あぁ、まぁ、束縛はしそうなタイプだね」

「…………」


 委員長の後ろにいた翔太と湊が何やら内緒話を始めたのだけど、それにより委員長が俺から視線を外して二人のほうを振り返った。

 すると二人は何か必死に否定するようにブンブンと首を横に振る。

 大方委員長の悪口を言って本人に聞こえたというところか。


 まぁ委員長に非を打つところがあるかと言えば怪しいところだけどな。

 俺から見ても委員長は美少女の分類に入るくらいかわいいし、それだけでなく優しくて面倒見がよく頭もいいときている。

 完璧美少女というのは彼女のようなことを言うんだろう。


 ……あっ、そういえば運動が苦手だったかな?

 そう考えると完璧ではないけれど、運動ができるよりもできないほうがいいという意見もあるし、運動音痴はかわいいという人もいる。

 結局好みの問題だな。


「それで、なんのやりとりをしていたの?」


 委員長は翔太たちに興味を失ったのか、再度俺のほうを向き直し同じ質問を投げてきた。

 やはり早乙女さんのことを気にかけているだけあり内容が気になるようだ。


 しかし――。


「ごめん、言えないな」


 俺は委員長に内容を話さないことにした。

 というのも、内容は早乙女さんの声のことが関わったりするし、俺がなんとも思っていない内容でも早乙女さんは気にしてしまうことがあるかもしれないからだ。

 それに自分の知らないところで勝手に話されるのもいい気がしないだろう。

 いくら委員長が信頼出来るいい子だとしても、この線引きはしっかりとしないといけない。


 だけど、委員長はそれでは納得できないのか不満気な目を俺に向けてくる。


「そんな目をしないでほしいな。別にやましいやりとりとかをしてるわけじゃないんだからさ」


 証拠も見せず言葉だけで信じてもらえるかどうかは怪しいけれど、俺は委員長に一応無実を主張しておいた。

 すると、委員長は小さく頬を膨らませてソッポを向いてしまう。


《やはり言葉だけでは信じてもらえなかったか》、そう思ったのだけど、次に委員長から意外な言葉が聞こえてきた。


「そんなの、言われなくてもわかってるし」


 明らかにいつもの委員長の声ではなく、拗ねた時の子供のような声だった。

 だけどちゃんと俺の言葉は彼女に届いていたようだ。

 だったらなぜ拗ねているんだという考えは頭を過るけれど、委員長ももうこのことについて追及するつもりはなさそうなので、余計なことを言うのはやめることにした。


 そうしていると、何やら目の前に座った翔太と湊が物言いたげな目で俺たち――いや、俺の顔を見つめていることに気が付く。


「どうしたんだ?」

「いや、爆発すればいいのになって」

「ほんと、見せつけてくれちゃって……さっさと爆発すればいいのに」


 うん、この二人はいったい何を言っているんだ。

 なぜ俺がリア充みたいなことを言われないといけない。


「意味わからないことを言うなよ。俺が何をしたっていうんだ?」

「こういう何もわかってないふうな男って漫画などでよくいるよね。僕はいい加減古いと思ってるんだ」

「どちらにせよ爆発すればいい」


 俺が疑問を投げかけると、二人の目がジト目へと変わってしまった。

 よくわからないけど、男にされるジト目って全く嬉しくないということだけはよくわかった。


「委員長、この二人をどうにかしてくれ。なんだか変だ」

「えっ、私に言われても知らないんだけど。風早君が悪いからでしょ?」


 おっと、まさかの委員長が敵に回ってしまった。

 翔太たちが相手なら絶対に味方をしてくれると思っていたのに思わぬ計算違いだ。

 先程拗ねていたようだし、それが影響しているんだろうか?


「俺何かしたか?」

「だから、私に聞かれても知らないし」


 あっ、なんだかよくわからないけど駄目だ。

 委員長が聞く耳を持たない人間と化している。

 そんな機嫌を悪くするようなことを言ったかな?

 もしかして早乙女さんとしていたやりとりの内容を話さなかったことで仲間外れにされたと思っているとか?


 いや、でもそれだったら湊たちにも話していないのだから仲間外れにされたとは思わないはずだけど……。


 委員長が拗ねている理由に心当たりがない俺は首を傾げるしかなかった。


 ――そんな感じで少し微妙な空気が俺たちの中で流れていると、ふと食堂の入口へと視線を向けた翔太が思わぬことを口にする。


「あれ、早乙女さんじゃないか?」


 翔太の言葉に釣られ、俺や湊、そして委員長の視線が食堂の入り口へと向く。

 すると、確かにそこには前髪で自分の目を隠した小柄の女の子――早乙女さんの姿があった。

 彼女はキョロキョロと食堂の中を見回し、明らかに何かを探している感じだ。

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