第3話「これは……ラブレター……!?」

 委員長たちと一緒に教室に戻ると、何やら挙動不審な早乙女さんが俺の机を気にしたようにチラチラと見ていた。

 しかし、俺たちに気が付くとバッと本で自分の顔を隠してしまう。


「うん、やっぱり無理かもしれない」

「諦めるの早いよ……!」


 早乙女さんの様子を見て難しさを察した俺に対し、委員長が優しく背中を叩いてくる。

 まぁ諦めるつもりはなかったので問題はないのだけど、委員長は期待しているようなのでそちらの期待のほうが重たい。

 下手に話しかけると困らせるし、様子を見ながらという感じになるだろうな。


「とりあえず昼休みが終わるから席に戻ろうか」

「そうだね、僕たちがいると早乙女さんにプレッシャーを与えるかもしれないし」

「あぁ、わかったよ」


 俺の言葉を聞くと、湊と翔太は頷いて自分たちの席に戻って行く。

 しかし、委員長だけは俺の傍に残っていた。


「まだ何か話があったか?」

「えっと、やりすぎには注意してね?」


 やりすぎ?

 いったいどういうことだろう?


 俺は委員長の言葉の真意がわからずに首を傾げる。

 すると委員長は何かに気が付いたようにハッと目を見開き、ブンブンと首を横に振った。


「な、なんでもないの……! じゃ、がんばってね……!」


 それだけ言うと慌てたように委員長は自分の席に戻って行く。

 彼女は時々情緒不安定になるから心配だ。

 委員長としてクラスメイトたちのことに気を配っているし、負担が大きいのかもしれない。

 何かあればフォローできるくらいには気を配っておこう。


 まぁそれはさておき、問題はこっちをどうするかなんだよな……。


 俺は解決しないといけない問題の原因となる早乙女さんへと視線を向ける。

 すると、本の上から覗き見るようにしている彼女と目が合ったような気がした。

 合ったような気がするというのは、彼女の目が前髪で隠れているので確信を持てないということだ。

 だけど俺と目が合ったであろうタイミングですぐに本を盾に隠れてしまったので、きっと目が合っていたのだろう。


 というか先程から凄く避けられているようなんだけど本当に大丈夫なのか?

 やっぱり人選ミスな気がしてきた。


 俺は早乙女さんの様子にショックを受けながら自分の席に着く。

 すると、違和感を覚えた。

 言葉にはできないなのだけど、何かが席を離れるまでと違う気がしたのだ。

 よくわからず、俺は自分の席の周りを見てみた。

 そして、何かが机の中からはみ出していることに気が付く。


 いったいなんだろうと思い机の中からそれを取ってみると、猫のかわいらしいイラストが描かれた封筒だった。

 こんな物を入れた記憶はない。

 そもそも持っていないのだから当たり前だ。


 誰がこれを入れたのだろう?


 そんな疑問を抱きながら俺は封筒の表と裏を見てみる。

 しかし、生憎と差し出し人の名前は書かれていなかった。


 ただ、宛名として俺の名前が書かれていることから間違って入っていたわけではないだろう。

 字はバランスがよくとても綺麗なもので、丸っこくてかわいらしい印象を受ける。

 見た感じ女の子の字みたいなのだが、男がいたずらで女の子のふりをして書いている可能性も低くない。


 とりあえず仕方がないので、一旦封筒を開けて中身を見てみることにした。


 だけどやはり名前は書かれてはいない。

 それどころか、書かれているのは一文だけだった。


『放課後、屋上に来てほしいです』


「これは……ラブレター……!?」


 ガタンッ――!


 俺が小さく驚いた声を出すと、凄く大きな音が聞こえてきた。

 音がしたほうを見てみると、早乙女さんが痛そうに膝を押さえている。


 いったいどうしたのだろうか?


「えっと、大丈夫か……?」

「――っ!? …………!」


 心配して声をかけると、早乙女さんはコクコクと一生懸命に頷いた。

 大丈夫だと主張しているようだけど、やっぱり足は痛そうだ。

 見た感じ椅子に膝を当てたようなのだけど、どうしてそうなったのか不思議でしかない。

 しかしツッコミを入れると彼女は恥ずかしい思いをするだろうし、ここは見なかったことにするのが優しさだろう。


 それにしても、手紙で呼び出しか……。

 SNSが普及した今の時代にこれはかなり珍しいと思う。

 正直漫画やアニメの世界だけのものだと思っていた。


 とはいえ、今の一文だけでラブレターと判断したのはいくらなんでも自分に都合よく捉えすぎだ。

 何か他の人には言えない相談があるのかもしれないし、これが果たし状という可能性もある。


 ……いや、果たし状こそいつの時代だ、という話なのだが。


 一つ問題なのは、これを誰が入れていったのかということだ。

 早乙女さんはいつも自分の席でお弁当を食べているようだし、彼女に聞けば一発でわかるのだが……さすがに今の今で聞くわけにはいかないよな。

 仕方がない、相手が誰であれ屋上に行ってみたほうがいいだろう。


 俺は正体不明の持ち主から送られた手紙に従うことにした。

 敬語で書かれていることから一応礼儀はなっている相手だと思うし、さほど心配をする必要はないだろう。


 一つ気になるのは、未だチラチラと早乙女さんがこちらの様子を気にするように見てきていることなのだが、何か気になる部分でもあるのだろうか?

 さすがにこうも見られてしまうと俺も気になってしまう。


 だけどそう思って視線を向けてみると、やっぱりすぐに逸らされてしまった。

 本当に今日の早乙女さんはなんなのだろうか?

 凄く様子が変なのだけど、そのことに関して俺には全く思い当たる節がない。

 このままだと彼女が不登校にならないよう気にかけるどころか、俺が原因で不登校になってしまいかねない感じだ。


 さて、本当にどうしたものか……。


 結局俺は放課後まで答えを出すことができず、その後は一旦早乙女さんのことは後回しにして屋上に向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る