第35話 長男長女をめぐるあれこれ⑥

6/7話。

もう隠せない……

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「よ、よう、あずさ。ひ、久しぶり……」

「はじめまして。向井バレリオです。よろしくおねがいします、あずささん」


「はじめまして、バレリオさん。えっと、いろいろお話をする前に――ちょっと洋兄ちゃん、奥に行くよ⁉ 説明はかっちりきっちりしてもらうからね?」

「あ、はい。も、もちろんです」




 俺はバレリオだけを連れて、元の実家で今はあずさの家になっているこの家を訪ねてきていた。今回は新幹線で来た。峠越えは絶対にしたくないんでな。


 以前来たときにエレンとナイマの二人とも妻にしているとあずさには告白はしていたが、その時はまだバレリオは居なかったので今回が初対面だ。



「あのきれいな人だぁれ?」

「……妻だ」


「は? もう一度言ってみてくれるかなぁ~ あずさちゃん、聞き間違えちゃったかもしれないなぁ~」


「……三人目の妻――グボウっ」

 殴られた。


「洋兄ちゃん、なんでそんなに見境なく奥さんを増やしているの? 馬鹿なの?」

「い、いや。待ってくれ、あずさ。馬鹿なのは確かだけど、わざと増やそうとしてないんだよ?」


「ああ? わざとじゃなかったら何なの? エレンさんは⁉ ナイマちゃんは? なんて言っているの?」


「むしろ二人には推奨されました……ゴフッ」

 蹴られました。


「あずさ様……。申し訳ございません。旦那様を責めるのはそれぐらいにしていただけないでしょうか? 今のこの状況を招いたのはすべて私バレリオ・バビ・ラベラに責任があります」


 騒いでいることが聞こえたのか、奥の部屋までやってきて責めるなら自分にしろとバレリオが言い出した。


「いや、バレリオ。なんだかんだ言って俺がしっかりしていれば、子どもだってあんなに作らなかったわけだし、もっと早くにお前を呼んでいればこんな自体にもならなかったんだから俺が悪いんだ」


「あなた……」

「バレリオ……」


「おい! 小芝居はいいからちゃっちゃと要件と概要を話しなさい」

「「はい」」






「――というわけで、今度高校に上がる二人と中学に上がる二人に最低限の教育をお願いしたいんですよ? あずささん」


「なにが、というわけで、なんだかわからないけど? またなにか隠しているんでしょ? 毒を食らわば皿までよ。既に洋兄ちゃんは濡れぬ先こそ露をも厭えを地で行っているようだけど、ね。はぁ」


「なにも言えないです……もうビッチャビチャです」

「私もです!」


 バレリオは絶対にわかってない。濡れるとかビチャビチャって言葉に反応しているだけだと思う。しかしながらあながち間違いではない反応なので困るのですよ?


『濡れぬ先こそ露をも厭え』ってさ、雨などに濡れる前なんかは例え露の一滴にふれるのも嫌がるけど、一度濡れてしまうと次からは濡れることなど気にもとめなくなるっていう心理の例えだもんな。

 最初はほんのちょっとした出来心からなのに、そのうち不倫やら恋の深淵にはまり込んでいくのを厭わなくなるっていう男女間に使う慣用句だよな。


 最初はエレンだけだったのに、ナイマを第二の妻に迎えて、今ではバレリオまで妻に加えてしてしまった。

 えっちするのもどんどん深みにハマっていているのは自覚しているし……。

 四人でするのって俯瞰ふかんしてみるとかなりやばい感じだけど、今さら引き返せなかったりするんだよなぁ~


「ねえ、ちょっと聞いていいかな? 洋兄ちゃんは中学生の頃にこのバレリオさんと子ども作ったの? お子さんの年齢的にどう考えたっておかしいよね?」


「やっぱりあずさは計算が早いな。さすがは中高と学業優秀者だっただけはあるな。えっとな、俺二十歳ちょっと超えるまで童貞だったし、バレリオにも中坊のときには出会ってもいない。バレリオに出会ったのはここ何年かだ。でも、今度高校生の子も中学生の子も間違いなく俺の子どもだ。もちろん実子という意味でな」


 あずさはぜんぜん理解できないって顔しているな。当たり前だと思う。


 もしここであずさに突き放されてしまったら諦めよう。仕事を休むか、辞めるかして俺がつきっきりで一緒に子供らと勉強することにしよう。俺の学力じゃ心もとないが仕方あるまい。


「う~ん。よくまだわかんないけど、困っている子どもは実際にいるんだよね。はああ、仕方ないな、このあずさちゃんに頼ってきたことに免じて頼られてあげよう!」


「え、マ?」

「マ」


「ありがとう、あずさ……」


「その代わり、洋兄ちゃんちにいったら本当に本当に包み隠さず全部教えてね。洋兄ちゃんのこと私は信じているし、私のことも信じてもらいたいからね」


「もちろん。約束する」


 あずさの夫の祐治くんにも大まかに説明をして了解を得た。理解の速い旦那さんです。リスペクトしようと思います。嘘です……。

 なるべくだったら祐治くんまでは巻き込みたくないんだけど……。巻き込むんだろうな。ごめんね。










「ほら、お前たちご挨拶しろ。俺の幼馴染の坂嶺さかみねあずさだ。これからみっちりとお前たちの勉強を見てもらうんだからな! よーくお願いしておけよ! こいつ、可愛い顔しておっかねえんだからな⁉」


「洋兄ちゃん、可愛いっていうのは合っているけど、他のことは……あとでお話しましょうね?」


「あ、はい。以後、無駄口は叩きません……」


「あはは、父がすみません。俺は長男の向井洋嗣です。よろしくおねがいします」

「私は長女の向井佳洋です。ご迷惑おかけし申し訳ございませんがよろしくお願いします」


「ヒロくんの彼女で魔人族のサキュバスでカティウスシアです。呼びづらいと思うのでカティでお願いします」


「ん? 魔人族? ん? サキュバス?」


「僕はリカルドです。クォーターエルフです。ほぼ人間です。日本人の転生者なので日本語だけならなんとかなります。よろしくおねがいします」


「エルフ? 転生者? え? はい? 何? どゆこと???」


 ごめんあずさ。これでも話していないことがまだまだたくさんあるんですよ。うちのかなりおっきですけど大丈夫でしょうか?


 ぎぎぎと音が聞こえそうな感じで振り返ったあずさ。

「洋兄ちゃん?」

「あずさ、あずささん? あずさ様。ちゃんと約束通りぜんぶお話しますのでどうぞこちらへ……マジ申し訳ない」





 ソファーの真ん中に座ったあずさの前にずらりと揃った我が家族。


「ども、ご存知、洋一です」


「お久しぶり~ 第一夫人のエレンだよ~ で~す」


「ご無沙汰しております。第二夫人のナイマです。やっておりました。いわゆる魔女という種族です」


「我が愚息たちのためにご足労いただき感謝いたします。、現旦那様の第三婦人のバレリオです」



「……もうお腹いっぱいなんですけど? まだ続くの? 洋兄ちゃん」



「すまんな。まだ続くんだ……。えっと、俺とバレリオの間の子供が五人いる。紹介するわ」


「再びですが、こんにちは、お世話になります。長男の洋嗣です」

「同じく。本当にご迷惑おかけします。長女佳洋です」


「こんちわ! 次男の洋次郎でっす。九歳でっす」

「こんにちは~ えっと、喜洋だよ。しょーがっこう一年生で~す」

「……ひろみでしゅ。さんさいなの……。えっと、ねんしょうさんなの」


「それで、なんだろう。居候? まあ、家族っちゃ家族だな。さっきも挨拶したけど博嗣の彼女のカティウスシアと佳洋のともだちのリカルドだ」

 二人はペコリとお辞儀して挨拶。


「え~ そんなこんなで、よろしくおねがいします?」

「よ、洋兄ちゃん。今のお話に嘘とか冗談のたぐいは――」


「一切ございません。あずさだから包み隠さずぜんぶ伝えたぞ」


 異世界云々も勇者魔王剣聖、サキュバスにエルフ、子どもがいっぱいなどぜんぶ本当だと伝えた。


「にわかには信じられないけど……あれ? もしかしてだけどエレンさん。最後に洋兄ちゃんの実家の荷物片付けたりした? 漫画とかでよく見るマジックバッグとかあったりして?」


「ほう、あずさはなかなか鋭いね! バッグじゃないけどマジックボックスに思い出の品はぜんぶ入れてあるよ! ほら、こんなのとか」


 そう言うとエレンは空中から日本人形を取り出した。


 床の間に飾ってあったやつだ……。実家の荷物で持ってこられないやつのリストに入れてあったもの。持ってきてくれていたんだ……ばっか……エレン……俺、泣いちゃうよ?


「えへへ、ナイマと相談して内緒で持ってきていたんだよ。バレちゃったね……。あれ、洋一、泣かないでよ~」


「エレ~ン、ナイマ~! バレリオもぉ~ 愛しているよ!」


 感無量で三人を抱きしめてしまったし、三人もちょっと泣かせてしまった。


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