第34話 長男長女をめぐるあれこれ⑤

5/7話目。

中学生パパ?

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 二~三回ほどの道迷いはあったが、リカルドの前世での生家は思いの外早くに見つかった。リカルドの元のご両親は引っ越しをしていなかったようだ。


 自動車は少し離れた場所に停め、リカルドとカヨと父さんでその家に向かった。住宅街だったので、散歩している体にして父さんがついていれば何かあっても大丈夫だろうって。




 二時間ぐらい経ったところで戻ってきた際にはリカルドは号泣して父さんにおぶさっての帰還だった。どしたの?


「お父さんが泣かしたようなものよ」


「ぜんぜんわからんちん?」

 カヨの説明は端折りすぎてなにが起きたのかさっぱり分からなかった。


「俺が悪いのか? 悪いの? どちらかというとイイコトした気がするんだけど? どうなのさ、おい、リカルド。それとも基哉くんと呼ぼうか? おい、なんとか言ったらどうなんだ?」


 父さんがモトヤと言った途端、余計に泣き出すリカルド。もう始末に負えないので、自動車の後部座席に放り込んで落ち着くまで放置することにした。

 つってもカヨがつきっきりなんで、苦い顔して文句を言うもんだから、父さんは母さんたちにまた叱られていたっけ。



「それで洋一はリカルドくんになにをしたというの?」

 若干キレぎみでエレン母さんが父さんに詰め寄っていた。


「あ゛? 泣いて頼まれて連れてきたのにさ、あいつは両親さんのこと遠くで見ているだけでいいなんていうんだよ。何度も会いに来るわけにもいかないし今は転生した異世界人なんだからさ、ぶっちゃけ他人じゃん? だからさ――」

 少しだけ言い訳がましく父さんは話し出す。


「――なにやっても事実上無関係じゃん。そしたら折角の機会を有効に使えばいいんじゃねえかとグイグイ行っちゃったんだよな。そのほうが後腐れないかなぁ~って思ってね。と、いうことでやつの両親だっていう老夫婦のもとに突撃したんだわ、二人を引きずって……」


「お父さん、有無を言わさずって感じで抵抗する暇さえなかったわ……」


 父さんはなけなしのコミュニケーション能力対人スキルを駆使して老夫婦に話しかけて世間話から、二〇年前に亡くなった息子さんの話まで全部聞いてきたそうだ。


『基哉は他人に対してはホントなにもできない子だったけど、家族には優しくていい子だったのですよ……わたしたちがもっとしっかり見てやれればって今も悔しくて』

『あんな形で基哉をなくすなんて、儂らにバチが当たったと思っているのですよ。一生償いですが、果たして償いきれて基哉に許してもらえるかどうか?』


 リカルドの元ご両親の言葉は後悔ばかりだったそうだ。


「リカルドのやつも『おじいさん、おばあさん。息子さんは、し、幸せだったに違いありませんよ! 亡くなって二〇年も経っているのにずっと悲しんでくれているのですもの。何時までも悲しまないでください。息子さんも、ご両親が悲しんでいる姿は望んでいないはずです。ぜひ、残りの人生は面白おかしく息子さんが喜ぶようにあなた方も楽しんでください……』

 ――みたいなこと言って気丈に振る舞ってたのに角を曲がって実家が見えなくなってからはあのザマだよ。俺の背中あいつの涙と鼻水とよだれでビシャビシャだよ……」


『あ~あ、きもちわり~』なんて言いながら近くにあったユニ●に替えの服買ってくるからそれまでに泣き止ませとけって憎まれ口叩きながら父さんは行ってしまった。


「洋一様、自分に置き換えていますね」

「そうだね。洋一ならそうするだろうって行動だもんね」

「さすが私達の旦那様ですね」


「もう少しわかりやすくリカルドに言ってやれればよかったんじゃないの?」

 母さんたちに聞いてみる。


「ふっ、やれやれですね。ヒロツグちゃんはまだまだやっぱりおこちゃまですよね」

「ヒロツグももう少し勉強しなとだな。洋一を見習いなさい⁉」

「ふふふ、やっぱりお父さんには敵わないですね。頑張んないとカティちゃんまでお父さんにとられちゃいますよ?」


 ……。

 なんだろ、すごくバカにされた気がするし、リオ母さんに至っては『何をとんでもないことを言っているんですか』案件なんですけど⁉






 買った服をそのまま着替えてきた父さんと泣き止んだリカルド。ふっと口角を上げるだけの父さんに黙礼だけするリカルド。


 なんとなくなにも言わなくても通じ合っているような雰囲気醸し出しちゃって、実の息子の俺の立場が危ういような気がしなくもない。


「おう、じゃあ、飯食い行くか。食い終わったらせっかくだから観光でもしてそれから帰ろう。あ、途中寄る所あるから少し遠回りな」




 お腹いっぱいうなぎとすっぽんのご飯を食べて、初めて来た街を楽しんで日が傾き始める前には帰宅の途についた。あ、寄り道するんだっけ?




 自動車に乗って一時間ぐらい。

 父さん以外は疲れしまってウトウトと眠ってしまった。もちろん俺も。ごめん、父さん。


「おい、どうする? お前らが四月から通う学校がここなんだけど、手続きとか終わってるから、見ていくか?」


 父さんは書類を出すのに職員室という場所に行くらしいけど、俺、カティ、カヨ、リカルドは来月からここに通うらしいので見学しないかと誘ってくれている。


「私立皆乃自由学園中等部と高等部……。僕中学からやり直せるんだ!」


「そういえばリカルドは当然だろうけど日本語の読み書きはできるんだよね? 元日本人だもんね。私、そういうところが不安だからリカルド、教えてね♡」


 カヨはリカルドがビービー泣いていたときから付添の域を超えて、父さんの目を盗んではベタベタにくっついていたけど節度は守ってね? 膝にカティを乗せて抱いている俺がいうことじゃないけど……。


「リカルド。俺とカティの方もよろしく。見てきていいって父さんが言ってたからちょっと見に行こうか?」


 見学証というという札を首から下げて、校内を四人で見て回っている。母さんたちと弟妹たちは車の中で目も覚ましてなかったので置いてきた。


 ぱんふれっとと言われるのもを貰ったけど、リカルドしか読めないので、説明を聞くのはリカルド経由か付き添ってくれている若い教諭となっている。



 カヨやリカルドの通う中等部と俺とかティの通う高等部は同じ敷地内にあるが校舎というものが別々になるらしい。


「電車に慣れるまでは僕が先導しますので行き帰りは一緒の行動ですね」

「頼むよ、リカルド。迷っても今のところ自宅には自力で帰れそうにないからね」


 魔力探知の得意なカティでさえ自宅を見失う距離じゃ、俺なんてどこに向かってしまうかわかりゃしない。絶対に離れないようにしなくては!


「ヒロツグさん。そのうち慣れますって! 何時までも僕にくっついていられても困ります!」

 そうだな。父さんのいないところでのカヨとのイチャイチャタイムは重要だもんな⁉


「ち、違わないけど! 違うから! お兄ちゃんは余計なこと言わないでいいの!」

「あれ? 声に出てた?」


 マルズナでは戦いに明け暮れていて同世代の友だちなんて居なかった。

 ほんとリカルドくらい。


 カティウスシアは俺より二〇歳ぐらい年上みたいですけど本当の歳は教えてくれません。

『アタシは一五歳ですけど?』と怖い目で言われたのでそれ以上の追求はできませんでした。

 もし仮にカティが二〇歳上だとするとリオ母さんと同年齢ぐらいだし、エレン母さんより年上ってことになるので…………………勘ぐるのはやめよう。心に決めた!


 ナイマ母さんという実例があるので魔族や魔人族の方々の年齢は人間属系統のそれに合わせてはいけないんです。


「いでででで! なんで抓るんだよカティ!」

「なんだかすごく失礼なこと考えられている気がしたから!」


「馬鹿だな。カティのことで失礼なことなんか考えているわけ無いだろ? 俺が今考えていたのは今夜のことだよ」

 ちなみにこの一言が朝日を拝むまで寝かせてもらえなくなった引き金になっていたことを後日知ったのであった。父さんに八つ当たりしてごめんなさい。うなぎもすっぽんもまた食べたいです……。


「あの~ 君たち。見学そっちのけで僕という案内の教師がいるにも関わらずそれぞれがそれぞれでイチャつくのはどうかと思うんだけどね? な? どう思うかな? な? な?」


 その後、案内の先生には平謝りして校内をかるく一周見学させてもらってから自動車まで戻った。



「洋嗣、佳洋、カティウスシアちゃんにリカルド。見学してどうだった? 通えそうか?」


「父さん。俺、たくさん勉強していろいろな経験を積んでいつの日かマルズナの平和に貢献したい!」


「アタシはヒロくんのサポートをしながら子どもをいっぱい生むの! 次代の魔王はアタシに任せてください! マイナ様」


「私はまだよくわからないけど、リカルドと一緒にいろんなことを学んでいきたい。マルズナに帰るか、日本に留まるかもそのときに決めるね」


「再び学校に行かせていただきありがとうございます。今度は不登校にならず一生懸命勉強します。カヨのことも守っていくので見守ってください!」


「そんなことまで聞いてねえんだけどな。目標とか意気込みがあるっていうのはいいことだし、しかたねえ、しっかと見守ってやるからやってみろ」


 父さんも母さんたちもニッコニコだった。

 俺たちの新生活が始まる。













「お前たち、学校に通うようになっても俺たち親の話はするなよ。実親とはいえ俺とバレリオの話もするなよ? 今日手続きした事務員が余計なことに気づきやがった。気づいたせいでそいつ目が木のウロみたいになってたけどな」


「どういう?」

「洋嗣は一五歳だな?」


「うん」

「俺はいま二九歳だ。ここで問題です。二九引く一五は?」


「えっと……一四だね?」

「つまり計算上洋嗣は俺が一四歳のときに生まれた子どもってことだ。ちなみにリオのからすると一九歳のときの子だから一応、問題ないんだけどな。俺のほうが問題ありすぎだった……事実と違いすぎるこの設定間違いには全く気づかんかった」


「では、お父様。アタシとヒロくんは子どもを作っても無問題と?」

「え?」

「え?」


 そういうことではないんだよ?

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