第33話 長男長女をめぐるあれこれ④
4/7話目です。
リカルド回。
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父さんの休日二日目。何だかよくわかんないけど家族全員で出かけることになったらしい。
リカルド絡みらしいけど、後でカヨにどういうことか聞いてみよう。
父さんは車を借りに外出している。一〇人乗りの自動で動く馬いらずの馬車に乗って出かけるらしい。馬いらずなのに馬車ってなんだろう?
これ以上子供が増えたら運転免許の限定解除しかないな、みたいなことを父さんはぼやいていたけど子供が増えるかどうかは父さん次第だからね? わかっているのだろうか?
ちなみに限定解除については何のことか分からなかった。上限突破ってことなのかな?
俺とカティも子どもが欲しいな、とは思っていたんだけどこちらの世界基準では俺の年齢では早すぎるってことのようだ。
ただサキュバスのカティウスシアと父さんの子どもの俺だよ? 有り余る性欲が止められるわけがなく行為そのものまで禁止されたら困ってしまうって訴えたんだ。
そうしたらエレン母さんから『不妊の加護さえ外さなければいくらでもどうぞ』とお許しが出たので安全安心のえっちライフがおくれそうだね! 父さんからは既に黙認いただいているもんね!
『アンタはやっぱりお父さんの子だよ』とリオ母さんからため息交じりで言われたけど、母さんだって『やっぱり父さんの妻だよ』としか言いようのないことを毎晩してんじゃん! ――とは言えなかった。
そんなこと言ったら両手両足を未だ衰えぬ剣聖の技で切り落とされかねない。切ったあとは転生聖女の百重にくっつけてもらえばいいんだから大丈夫だって、とはナイマ母さんの言葉だ。
異常が日常とは言い得て妙だなと先だってのカティの言葉には改めて感心してしまう。
さて父さんが馬車を借りてくるまで少し時間があるようだから今のうちにカティと一緒にリカルドのなに絡みなのか聞いておこう。
「カヨ、リカルド。ちょっといいか? 今日の件だけど?」
「うん、お兄ちゃん、カティさん。リカルドにはちゃんと話をさせるね」
リカルド自身の話なのに主導権はリカルドではなくカヨに移っているんだ。我が妹ながら末恐ろしい。
「ほらリカルド、シャンとしなさい!」
「あ、はい。わかっり、ました。ヒロツグさん、カティウシアシアしゃん、僕は――」
「何回か伝えたはずだけど、私、カティウスシアね? 呼びにくいのは自覚しているから今後はカティでいいわ。あなた義弟になるみたいだし間違われるよりいいもの」
うん、それがいいよ。思いの外カティの名前の言い間違いは地雷なんだよね。俺も散々怒られたもん。
「あ、はい。すみません……。か、カティさん」
「ほら! カティ⁉ そんなこというからリカルドが緊張したじゃん! 駄目だよ、冗談だとしても」
「ああ、ほんとにごめん。冗談だからね? 怒ってないし場を和まそうと思って……」
余計なことをするカティにはあきれるが、リカルドの肩の力が抜けていくのがわかったので、目的は達成できたってことで話の先を促す。
「そういうことだから。リカルドもいわば義姉弟なんだし気にしないで? それより大事な話の方をよろしく、な?」
――曰く、リカルドは転生者ということで、彼がこの日本で死んだのが三〇歳のとき、死因は本人的に不明なのだが、たぶんスイミンジムコキュウショコウグンってやつからの心臓発作だと思うんだという。
いきなりさっぱりわからん。一応、三〇歳で死んだことはわかったので良しとしておこう。リカルドのやつ結構なおっさんだったんだな。
デ村に生まれてからは六歳まではなにも前世のことは思い出していなかったのだが、ある日原因不明の高熱を三日三晩続けた際に急に思い出したそうだ。
それでも誰にも転生者であることは言えずに村で過ごしていたそうだ。村ではちょっと他のやつとは違った考えを持った変わった子どもって扱いだった模様。そしてある時レジスタンスがデ村を訪れたときに同行していたカヨと意気投合する。
今まで過ごす中で少しだけは日本人ハーフのカヨに自分が転生者であることを匂わしていたようだけどカヨは昨日の告白まで全く気づかず。
今回自身が日本に来たことによって望郷の念が溢れてしまった。故郷への思いがあまりにも強くて、隠してきたことをすべて話してしまっても願いを叶えたくなったということらしい。
ところで時空の狭間を超えると時間の流れがここ日本とマルズナとはだいぶ変わってくるということは幼少期に父さんに聞いていた。だからあまり会いに来れなくてごめんなって父さんはよく謝っていた。
とある聖女様の場合など、転生時に時間を遡っていたかのようだったって聞いていたので、一二歳のリカルドが日本での死後八年ぐらい過ぎたあとマルズナで生を受けたと聞いてもすんなり受け入れられた。
「僕が日本で死んでからまだ二〇年しか経っていないってことは……。僕の日本での両親がまだ生きているかも知れないだろ……。今日は街を見るだけで……会えないけど……本当は勝手に死んだこと謝りたかった」
父さんが先日話してくれた、父さん自身の両親――僕たちの祖父母の話を一緒にリカルドも聞いていたら自らに当てはめて考えてしまって居ても経っても居られなくなったんだな。
「おう、借りてきたぞ。さっさと乗り込め」
父さんが馬車を借りて帰ってきたようだ。
みんないそいそと用意をして玄関を出ていく。
「あの、父さん。リカルドはご両親に会いたくて――」
「なんだ? 洋嗣、さっさとクソガキ連れてこいよ。あいつは俺の隣に座らせろよな。道案内が必要だからさ? さすがの俺もカーナビだけじゃあいつの実家なんぞわかんねえからよ」
「‼ 父さん、ありがとう。すぐ呼んでくる」
なんだ。父さんはぜんぶお見通しだったんだ。
なんだかんだと言いながらも父さんがリカルドの希望を聞き入れてあげたってことらしい。父さんは相変わらず素直じゃないな。街に遊びに行くだけなんて言ってわざわざ家族で出かけられるように大型馬車まで借りに行っているぐらいだ。
「全く……。洋一は優しいくせして口が悪くって不器用なんだからね?」
「エレン? なにか言ったか?」
「ううん。あっちについたら美味しいもの食べたいなって!」
「ああ、任せとけって! 今日は贅沢にうまいもん食わせてやっから期待しておけよ⁉」
ちなみに贅沢な食事というのはうなぎとすっぽんというものらしく、父さんの一月分の給金の殆どがあれだけで消えたそうだ。
「あれ? 無意識のうちに精力のつくものをチョイスしている俺って?」
何かに気づき、ぼやく父さん。
後にうなぎとすっぽん料理は我が家では『魔法いらず』と言われるようになったのは――詳しくは母さんたちとカティに聞いてくれ。
父さん、俺にフレンドリーファイヤはやめてね? あの日朝日が登るまでカティに寝かせてもらえなくなったのは忘れないからね?
さて、時間は我が家を出発して十分ぐらい経ったところ。馬の居ない馬車は低音のボボボという音と細かな振動を伝えては来るが、マルズナの馬車に比べてれば快適すぎるくらいだ。
だた、定員ギリギリみたいで後席は兄妹とお母さんたちで押し合いへし合いで狭いったらありゃしない。そのせいかこの乗り物に慣れていない俺とカヨはヘロヘロになってしまったよ。
「これはね、馬車ではないんですよヒロツグちゃん。自動車と言って、えんじんの力で走る乗り物で洋一様が操縦されているのですよ。何でもこなす洋一様って素敵ですね」
よくわからないがナイマ母さん曰く、この自動車というものを動かしているのは父さんのちかららしい。父さん、やっぱカッケーなって俺は思ったね!
父さんとリカルドは前の御者席で話をしているが、特に悪い雰囲気でもなかったので向こうは向こうに任せることにしておいた。父さんだもん、平気だよな!
ナンテ言っても気にはなるので、とりあえずこっそり様子だけうかがうことにした。
「何だか信頼感っていうプレッシャーが後部座席からグイグイ来ているような気もしないでもないが……。おいガキ……。じゃなかった、リカルド。いや、俺より年上だからリカルドさんの方がいいのか?」
「あの、すみません。前の歳ことは忘れてもらって、リカルドとお呼びいただければ助かります。カヨのお父さん。あ、やはり洋一さんのほうがよろしいでしょうか?」
「洋一さん呼びか……。う~ん逆に気持ちわりーな。やっぱりよ……」
首をひねっている父さん。
「お父さん」
「は、はい⁉」
「お前もお父さんて呼べ。ソッチのほうがなんやかんやスッキリする。この際大人な俺のほうが折れてやる」
『え゛っ⁉ もとに戻ってんじゃん!』そう言いながらカヨが呆れている。
「あ、ありがとうございます……。お、お父さん」
「ん。で、次はどっちに曲がるんだ?」
「あなた、もう少し優しく言ってあげてくださいな?」
御者席の一番隅に座っているリオ母さんが父さんをたしなめる。
「……ああ。わかったよ」
父さんと母さんたちはお互いに叱ったり叱られたり、教えたり教えられたりって感じでどちらが上でどちらが下とかの主従関係じゃないんだよね。大事なことは父さんの意見が一番だけど。
マルズナだとあまり見ない夫婦関係だと思うけど、すごくいい感じなのでカティとはこういう関係になりたいな……。って! 俺がカティと夫婦、だと?
「どうしたのヒロくん? まだ自動車に慣れないの? 顔が真っ赤だよ?」
「うん、カティ。俺は君のこと大事にするからね……」
「?」
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