第32話 長男長女をめぐるあれこれ③
3/7話目です。
佳洋メイン。
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おはようございます。カヨです。こちらの世界では佳洋と書いてカヨと呼ぶそうです。
お父さんの家名が向井なので私の名前は向井佳洋となるそうです。これは漢字というらしいですがトテモ難しいです。
キコクシジョというカテゴリーに私達を当てはめるそうなのでそこらへんは読み書きが不十分でも気にしなくていいとお父さんには言われています。
来月からチュウガッコウという施設に通うらしいですが、人間族のエンデルバにあった學舎のようなものと思っています。間違いないでしょうか?
さて、今日はお父さんが休みの日です。
なので、昨夜はお父さんたちの部屋では防音の魔法と防振の強化魔法が複数重ねがけされていました。漏れ出る魔力が強大かつガチガチすぎて逆に私は怖くてしばらく寝付けませんでした。あの人達はもう少し大人として考えていただきたいものです。
リカルドやカティさん、兄弟たちと朝食を食べ終えた頃、四人はお父さんの部屋から出てきましたが、お父さんもお母さんたちもテカテカのつるつるお肌です。朝日が反射して眩しいくらいでした。
実母リオ母さんに至っては日本での設定は三四歳だそうですが、既に向こう時間の時差のせいで実年齢はアラフォーのはずです。しかし、どう見たって今や二〇代半ばにしか見えません。確実に若返っています。カティさん曰く「異常です。でも日常です」と。
ちなみにお母さんの三四歳への拘りは、お父さんとの年齢差が五歳を超えるのは認められないから、だそうです。どうでもいいような気がします。
「お父さん、後でお話いいかな?」
「ん? いいぞ。寝てないけど、普通に寝たよりも頭も身体もスッキリしているからいつでもどんとこい」
私が声をかけるとお父さんはそう言って満足げな顔したお母さんたちとお風呂に向かっていってしまいました。特に匂いなどはしなかったけど、なぜかお父さんとお母さん全員が頭からなにからびしょ濡れだったのはなんなのでしょう?
カティさんが『クリーンだけでは乾かないからね。大人になれば分かるかもしれないし、分からなくてもいいことかもしれないわね』と意味深なことを言っていたのだけどなんのことだか分かる日が私にもくるのかしら?
テカテカしていたのはあの濡れているお陰なのかな? なんて思ったけどリカルドに『もうやめておけ』と言われたのでそれ以上聞くのはやめておいたの。
「ん、いいぞ。佳洋、何の話だ?」
お父さんに時間ができたようです。お母さんたちは弟妹を連れて買い物と公園で遊んでくると出かけてしまったみたい。
「ありがとう、お父さん」
「可愛い娘のお願いなんだから、礼には及ばないぞ⁉ いつだってお父さんはウェルカムだ!」
満面の笑みで私に笑いかけてくれるお父さん、素敵です。
「うん。今日は私の話じゃなくて、リカルドの件なのだけど……。リカルド?」
リカルドを私の横に呼ぶ。
「あ、あの……。おとう――」
「貴様にお父さんなどと呼ばれる筋合いはないぞ!!!!!!!!!! このクソガキがぁぁぁぁ!!!!!」
いきなりお父さんが荒ぶります。あまりにも唐突なのでさすがに私も引きます……。
「え? なに……? 信じられない! お父さんて……」
ぼそりと呟いた私の声にお父さんは反応したようで、あからさまに落ち込み始めました。
(ちっ、めんどくせ~)
お父さんがさめざめと泣き始めるのです。私の素の気持ちが顔に出てしまっていたようでした。失敗しっぱい。
「まま、お父さんも怒らないでリカルドの話ぐらい聞いて上げてよ? ね」
「ぐぬぬ。佳洋がそういうなら聞くだけは聞いてやろうか? ただお父さん呼びは許さん」
なんだっていいじゃんとは思うが、ここでまたへそを曲げられるのはもっとめんどくさいので口は挟まないことにします。
「じゃあ、なんて呼べばお父さんは気が済むの? おじさん? 洋一さん? それとも旦那様とか?」
「………。どれもめんどくさいな。佳洋のお父さん、でいいや。おい、クソガキ。それで呼べ」
めんどくさいのはお父さんだよ、と何度言おうと思ったことか………。
『佳洋の』がついただけで結局お父さん呼びなのだけどなにが違うのか私には理解できないですよ⁉
「父さん、クソガキじゃないよ。リカルド‼ 今度クソガキ言ったらお父さんとは口聞かないからね⁉」
あからさまな動揺を見せながらも、もう言わないと誓うお父さん。もうこんなやり取りを三〇分もやったので私も疲れたよ。
「それでク……リカルド。俺になんの用事だ?」
「あ、あの……。そのですね……」
「はっきり言え!」
あ、思わず強い口調でリカルドに言ってしまったわ。あはは。お父さんとリカルドが目を見開いているように見えるのは気の所為でしょう。
「あ、の。僕……西武線に乗って川越に行きたいです。行かせてください」
「あ゛? テレビかネットで見たのか?」
「いいえ……。あの……」
「はっきり言え!」
おっと。いけない、いけない。またしても私としたことが。
「川越に……僕の生まれた家があるんです。僕……じつは転生者なんです」
「「‼‼‼」」
初めて知りました! 道理でおかしなことばかりいう人だと思っていたのですよ! この前言っていたセーブとは西武線のことだった模様です。ところで西武線ってなんでしょう?
「あ、そう。ふ~ん。つーことはよ? ――おまえ本当の年齢はいくつなんだ?」
「……」
「言い方を変えようか? 日本人として享年何歳?」
「さ、三〇歳でした………」
私には話の内容が全く見えてこないのですが、代わりにお父さんの後ろに炎が見えています。とうとうこの世界で魔力が顕在化したのでしょうか?
「三〇足す一二は?」
リカルドがものすごい滝汗をかいています。俯いたまま顔を上げることができないようですね。だってお父さんの背中の炎は今では竜の形に変形していますもの。
「よ、よよよよよ、よんじゅう……に――です」
「流石だね、リカルドくん。暗算が得意なのかな? あはははは、正解―――このロリコン野郎がぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
お父さんお背中の竜がリカルドに襲いかかる。ドラゴンブレスってやつでしょうか? 初見です。
私は一瞬で魔法の防御障壁を二〇枚作り上げるが、作っているそばから破壊されていく。お父さんなにしてくれるの?
「お父さん! お父さん! 落ち着いて! やめて! リカルドが死んじゃう! やめて! お父さんのバカ! 嫌い!!」
ピタリと攻撃が止んだ。
私の張った防御障壁の向こう側で真っ白になったお父さんが気を失っていた。
「娘に嫌いって言われて意気消沈しただけだから大丈夫だよ」
真っ白になったお父さんは帰宅したナイマ母さんが夫婦の寝室に連れて行った。それで私はいまエレン母さんとお話しているところです。
リオ母さんも妹弟たちをお昼寝させたらこちらに来るはず。
「すみません。僕がおかしなことを言ってしまったので……」
「リカルドくんは悪くないわよ⁉ ぜんぶ洋一が暴走するからイケナイの。カヨちゃんのことになると暴走気味よね。妬けちゃうわ」
リオ母さんもナイマ母さんも加わってリカルドの話を聞くことになりました。お父さんは気を失ってそのまま寝ているそうです。
「へ~ じゃあ四二歳の精神じゃないんだね?」
「はい。覚醒当初は大人な気持ちも残っていたのですが徐々に身体の年齢に精神が合致していきましたので、今は一二歳の体に一二歳の精神です」
じゃあ問題ないよね、とはエレン母さんの弁。
「では、知識などはどうなんですか? 向こうは魔法が発達しているぶん科学は全くと言っていいほど研究されていませんよね。知識チート決め込んだんですか?」
「いいえ。少しぐらいは自分が楽になるような知識は使いましたけど、基本、僕、現代でいうところのヒキニートだったんで使える知識なかったんですよ……」
そうなんですね、と一気に興味をなくしたナイマ母さん。もう少し興味持ってあげて!
「で、ウチの娘に近づいたのはどういう理由なのかしら? いい機会だから聞いてみてもいいかしら?」
お父さんにも負けないぐらいの圧を発揮して聞いてくるリオ母さん。私が実子だけあって心配も一入なのは分かるし嬉しいけど、リカルドが震えるほどの威圧はいらないよ?
「あば、あばばばああ……ぐ、っぐぐ、偶然です……」
これは本当。私のほうが最初にリカルドに声をかけたんだしね。
「ち、沈滞の深林の東の外れにデ村ってところがあって、そこが僕の生まれ故郷です。母がハーフエルフで父が人間ですので、僕はエルフ族には半人間と言われて人間族にはエルフモドキと言われて蔑まれる存在でした」
デ村はそんな、言葉は悪いが、どっちつかずの半端者と言われている人たちが住んでいた村でした。そこにレジスタンスの勧誘で私が訪れたのでしたっけ。
「私だって言ってみれば半端者、でしょ? 異世界人の洋一お父さんと人間族のバレリオお母さんとのね。そんなこんなで意気投合しちゃって仲良くなったの。以上です」
「そうね。リカルドくんもカティちゃんもうちの子の魔力欲しさで付き合っているわけではなさそうなので安心はしていたけどね。お父さんがね……あそこまでヤキモチ焼きとは思わなかったわ」
お父さんの目が覚めたらお母さんたちみんなでリカルドの行きたい場所に連れて行ってくれるようにお願いしてくれるってことで落ち着いた。
それでも強情に拒否したら、私本当にお父さんのこと嫌いになるからねっ‼
私、リカルドが四二歳でも気にしないからね? だって、ナイマ母さんだって一〇〇歳超えだし、カティさんだってお兄ちゃんよりずっととしう……。ん? 悪寒がするんですけど?
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