第25話 洋一③

 本日もよろしくお願いいたします。

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 バサッとレジャーシートを広げると大きさは四畳半ぐらい。思いの外でかかった。


 俺たち三人で使うには余りある広さだけど、どうせ周りにも人がいないので構わず用意していく。


 おべんとうのお重はなんと三段! というかよく見つけたよな、お重。


 俺が大学入学の際、東京に来たとき、母親が『何もやってあげられない代わりに』って中身をパンパンに詰めた重箱を持たせてくれたんだっけ……


 あんときからずっと仕舞いっぱなしだったな。まあ、一人暮らしで友だちもロクにいない俺にお重なんて無用の長物以外の何物でもなかったけどな。

 それが、なんの因果か帰省するその日に出番を迎えるとは面白いもんだよ。


 そういえばナイマが生み出した霞状のゴーストはどうしたんだろうな? まあどうでもいいか? あれ? 普通はそういうの気にするものだっけ?


「はい、洋一はここに座って~ わたしはこっち」

「わたくしはこちらです」


 お重を正面に左右に美女を侍らせる構図は周囲に人がいた場合は非常に気持が落ち着かないこと請け合いだったに違いない。普通の感覚の持ち主なら間違いない。

 残念ながら俺はすでにそういった感覚が麻痺しているようで、エレンが『あ~ん』ってしてきても普通に食べちゃう。ナイマの口移しはさすがに断ったけどな!


 それにしても……


「美味いな。出来合いじゃないだろこれ。ほとんど手作りだよな?」

「えへへ、ありがとう。頑張ったかいがあるよ! あ、いま洋一がお箸にとった網脂ハンバーグの網が霞状ゴーストの成れの果てだよ!」


「えっ! これが! マジか?」


「洋一様。嘘です。信じないでください……あのゴーストはエレンの攻撃で霧散しましたから!」


 ワイワイガヤガヤとのんびり昼食を楽しんだ。







 あれ?

 なにしにここに来たんだっけ? ピクニック?




 あれ?

 ナイマを抱き枕にエレンの膝枕で気持ちよく昼寝までしちゃったけど?



「すっかり忘れてたけど、俺たちは俺の故郷に向かっている最中だったよな……」


 渋滞で一時間押して、よく考えてみれば昼食時間は計算に入れてもいなくって、ついでに昼寝までしたのでプラス二時間。只今家を出てから四時間ほど経過……?

 進んだ距離はナビの計算上一時間ぐらいの距離だったりする。つまりは故郷まであと三時間の童貞、じゃなくって道程。現在時刻は……なーんだ一四時前じゃん。よゆーよゆー! と。これをただの現実逃避というか正常性バイアスというかは議論の余地がある……よね?


「今の時期一七時でもちゃんと明るいし、問題ないよな? 言っても最初の計算じゃ今頃到着時刻なんだけどな! あははは! はぁ……」


 特に今日は誰とも約束などしていないので今日中にあっちに着ければ大丈夫だと思う。なにか用事があれば電話ぐらいかかってくるだろうしな。


 無問題無問題。さあ、行ってみようか!

「さて、行こうか?」


「……汗だくだから着替えたい」


 エレンは俺を膝枕してたはずだったけど、起きたときには俺の背中に張り付いていたからな。暑かったろうよ。抱かれたナイマもな。

 一番暑かったのは真ん中で挟まれた俺なんだけど、ね!


 川での水遊び用の更衣室なるものがあったので、そこでさっと着替えてとっとと出発することにする。なんやかんやで更に三〇分ほど無駄にした。

 今更なのでもう何も言うまい……


「ささ、もういい加減出発するぞ?」

「「はーい」」


 今度はナイマが助手席。二人とも後部座席で寝ていてもいいといっても聞かない。

 歌を歌ったりシリトリしたりと飽きる暇がない。


 二人の日本への馴染み方が半端ないことはよ~くわかった。わかってはいたけど再確認したって感じっつーのかね?

 二人は見た目もこんななので商店街のおじちゃんおばちゃんにたちにも覚え良くて、しかも二人ともすっごくお店の人たちに愛想が良いみたいで各商店のサービスが良すぎる。

 俺が一人で買い物に行ったっておまけのおの字もないのにエレンたちが、例えば肉三〇〇グラム注文したら一五〇グラムおまけして四五〇グラムも盛ってくれる肉屋の親父とかはさすがに大丈夫かよと思う。あとで奥さんと喧嘩するんだろうなっていつも考えているんだが、あながち間違っちゃいないと思うんだよね。親父が陳列棚に並ぶ日も近い?

 とはいえ、うちにとっておまけは大助かりなんで文句の一つもありませんけどね。感謝ですよ。

 そういえば、エレンが初めてたった一人で行ったお使いのときは大変だったけどね。某番組の親の気持ち、よ~くわかったよ。こっそりあとをつけたもん。


 閑話休題。


 車は山ン中の国道を恙無く進めるようになった。しばらく国道をそのままナビの言うとおりに進んでいたのだが、それこそ両側を山に囲われ民家もほぼ見なくなった頃それは訪れた。


「道幅が狭い……これ、すれ違えないよな? え? これ国道?」


 片側一車線ずつの道が突如なくなり、ガードレールと山肌に挟まれた車一台プラスアルファな幅しかない道路になってしまった。


「ナビは間違いなく現在地を示しているし、看板は国道○☓△号線とある……正しい道、だと?」


 道路には落石と思われる小石がバラバラと落ちているし、見える範囲でもガードレールが切れていたりベコベコだったりと若干の酷道っぷりが見え隠れ?


 頻繁ではないが仕事で車は運転するので普通の道ならなんてことはないが……。


「これは……気合い入れないと、な」


 ここまで来て迂回などそもそもできない。だって迂回路は〇〇林道って書いてあるんだもん! 絶対無理っす! クマーが出たらどうするの? クマーだよ?

 それにこの峠の向こうが目的地だと言うことはわかっている。縮尺を広げたナビのマップに燦然と輝くゴールフラッグ……なんて遠いんでしょう。とほ。


 只今の時刻は既に一七時。昼飯後に再確認して予定していた時刻よりも更に押してきた。日没は確か一九時ちょっと前だったはず。まだ平気だ。バイアスバイアス……。


「よし行くぞ!」

「わーい! しゅっぱーつ!」


「しゅっぱーーーっつ!」

 呑気でよろしいことで……


「でゅおおおおおお! 前からバイクが急に来たぁぁぁ!」

「うひゃひゃ!」


「なんでこんな道をマイ○ッハが正面から来るんだよ! てめ! どうせ中古だろ! 畜生! こっちが退くから先に行って! お願いシァッス」

「ゲラゲラ」


「はぁはぁ……ん? なんか後ろからものすごい速さで近づいてくるがあるんだけど? ナイマ、後ろ見てみてくんないか?」


 いま後部座席はナイマなので、後ろから高速接近してくる物体を確認してもらう。もう薄暗くなってきているので近づいてくるものが何なのかよく見えない。バイクか? それなら先に行かせるんだけど?


「ばあちゃん」

「ん⁉ なんだって?」


「だから、ばあちゃん、だよ?」

「なあ、ナイマ。わけ解んないこと言ってないでちゃんと答えてくれ。婆さんの乗ったバイクってことか?」


「ううん。ばあちゃんが走ってきてる――自分の足で」

「はい?」


 その瞬間、背筋に冷たいものが走りナイマの言うばあちゃんが俺の運転席の横に来た。もちろん助手席側じゃない方、な。


「わるいねぇ~ おさき、逝かせてもらいますよ~ ウケケケケ」

 一言そう言うとばあちゃんは俺の運転する車を追い抜いていった……背中には『ターボ』の張り紙。


「ねえ、魔物? あれ、魔物かな? でも人っぽいし魔人? ねえ、ナイマ、違う?」

「わかりませんけど。魔人ではないと思いますよ。ばあちゃんです、あれは」


 力いっぱい踏み込んだブレーキから足を外し、アクセルを踏む。ゆっくりと……先行したさっきのばばぁには絶対追いつかないように。





 いつの間にか道路の幅員は広くなり、片側一車線ずつのきれいなアスファルトの道に変わっていた。センターラインが目に優しい……

 看板に見える地名も見覚えがあるやつに変わっているし、もうちょっとで目的地に到着するはずだ。


「まず、スーパーマーケットで食料品を仕入れないとな?」

「え~ 洋一のおうちにはご飯ないの?」


「……ないな」

「ん? そうなのですか? お父様お母様はどうなさっているのですか?」


「…………どうだろうな。近所の人がなんかしてくれているとは聞いているけど、わからん」

「……?」


 ここまで連れてきておいてどう話せばいいか俺はいまだに迷ってる。着いてしまえば分かることなのにな。


 俺が故郷を離れてそろそろ一〇年になろうとしている。

「一〇年……か」


 グズグズ考えている暇があったら、やることやらなきゃならん。まずはやっぱり地元のスーパーマーケットに向かう。昔とだいぶ道も景色も変わったのでナビに再設定っと。

 飯と飲料と少しばかりの酒を買い込んで両親の家に向かう。

 家電製品は全部動くって聞いているから大丈夫だと思う。



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やっと。目的地近くまでたどり着きました。

運転に慣れてない人は、峠道にはホント気をつけてね。

慣れている人も慣れていない人も下の方にある☆を★に変えるといいことあるよ?

僕が押さなくても他の人が押すから大丈夫バイアスはいらないっす!




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