第26話 洋一④

旅行いきてーなぁ~

第四話です。

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 少し遠回りしてスーパーマーケットで夕飯用の弁当と明日の朝食うだけの食パンにジャムに惣菜パンやらなんやらを買ってなんとか両親の家についたのはすでに日もとっぷり暮れた二〇時少し前だった。

 今から夕飯を作ってくれというのも悪いし、朝もゆっくりさせたいので久しぶりの出来合い飯だ。たまにはいいだろう?


「まったく。ここまで来るのになんで一〇時間も費やしたんだろう……」

 渋滞の高速道路を使ってもここまで時間はかからなかったはず。


「虚無るわ〜 マジ虚無るわ」

 エレンもナイマも長すぎる狭い車での移動に疲れてしまったようでほんの少し前から二人して後部座席で眠ってしまっている。なんかものすご~く申し訳ないことした気分だ。


 そっと一人だけ運転席から降りて、手土産を片手に隣の家、坂嶺さんの宅を訪問する。


「こんばんは。遅くなりましたが無事着きました。あ、これ、つまらないものですが茶菓子です。どうぞお召し上がりください」

 大人のご挨拶。何度やっても慣れないな。


「お疲れさま、洋ちゃん。奥さんも一緒なんでしょ? まあ、今日は疲れているでしょうから明日は紹介してね? そおそお、冷蔵庫も電源入れてあるし、さっき電話もらったからエアコンも動かしてあるから早くご両親に挨拶してゆっくりしなさいね」


 坂嶺のおばさんはまくしたてるようにそう言うと早く帰ってゆっくりしなと促してくれる。

「では、あした。よろしくおねがいします」



 *†*:..。..。..:*†*:..。..。..:*†*:..。..。..:*†*



「……ただいま」

 数年ぶりの両親の家はあの時から何も変わっていなかった。


 坂嶺さんが手入れしていてくれていたのでホコリ一つ落ちていないきれいな状態のままだった。


「あれ? 洋一……どこにいるの?」

「おう、家の中にいるぞ。上がってこいよ。起こさないで悪かったな」

 エレンとナイマは、ソロリソロリとお邪魔しますと小声で挨拶しながら俺のところに来る。


「んん? お義父さんとお義母さんは? お出かけ中なの?」

「えっ、エレン。あの、あれ……」


 ナイマが先に気づいたようだ。指差す先には写真と小さな仏壇。


「あ、あの……わたしてれびのどらまで、見たことがあるんだけど……あの、その。四角い黒い箱と……写真って……もしかして?」


「ああ、わりい……話そうとは何回も思ったんだけど、言いそびれた。エレンの思っていることが正解。俺の両親は既に他界しているんだ」



 六年前の台風の大災害時に勤め先の介護施設で最後まで要介護者の避難を助けていて……最後は自分たちが間に合わなかった。


 その施設での犠牲者は五名。入所者の方二人と職員が三人で、そのうち二人が我が両親というわけ。


 職員入所者二〇〇名以上で犠牲は五人だけだったのは奇跡とまで言われたけど、俺にとっては大切だった二人を全て無くした悪夢でしかない。

 復興後、表彰がどうしただの慰霊碑がどうこうという話もあったけどぜんぶ断った。



「ごめん……洋一のご両親に会えるってはしゃいじゃった」

「ん? 会ったじゃん。これ、この写真と位牌が両親だし、そんなの気にすんなよ。エレンも、ナイマも、な? 親の話はまた後でしてやっから。知っておいてもらうと俺も嬉しいし、両親も喜ぶと思うんだよな」



 買ってきた弁当を温め直して食ったら、順番で風呂に入る。ルミエール絵野田の風呂より一軒屋のこの家の風呂のほうが狭いので、二人以上での入浴は不可能なんです。いくらなんでも狭すぎると今さらながら思ったりする。


 風呂上がりにビールをちびちびと飲む。なんとなく飲みたい気分だったので買ったんだ。


「ねえ、洋一様。ご両親の横の若い方の写真はどなたですか?」

「ああ、あの人は野神ひかるさん。なんだか俺のことすごくかわいがってくれた人なんだ。俺と一四~五歳しか歳が違わなかったけど、姉と言うには歳が離れ過ぎているしおばさん扱いも本人も怒るんで親類のお姉ちゃんって感じで接していたな」

 両親の死後、いつの間にか疎遠になってしまっていたけど、今でも元気で暮らしているだろうか?


 缶ビールも何本目かが空いた。エレンはコーラだ。絶対に飲ませない! ナイマは少し飲めるようなので甘い酒を少しだけ。


 あいだあいだで二人に回復の熱い抱擁はしてもらっていたけど、長時間の運転が疲れたのか? はたまた久しぶりの帰宅により感傷に浸ったのか知らないが俺もそれなりに酔ってしまったようだ。


「なあエレン、膝枕して?」

「え? いいわよ。どうぞ、おいで」


「なあ、ナイマ。手をつないでいいか?」

「ん。いくらでも」


 エレンは俺の髪をなで、ナイマは背中をトントンと軽く叩いてくれる……幼かった頃にもこんな事あったような気がするが思い出せないな。

 いい年した男が甘えているのもなんだけど、二人とも俺の妻だし気にする必要ないよな? どうせこのままGOなのでちょっとぐらいいいかな? なんてね。



 昨夜はしっとり優しく一度ずつだったけどすっごく温かくって目覚めはいつも以上にスッキリです! ちょっと物足りなかったので起きがけにも関わらずあっちももう一回スッキリしちゃったのは申し訳なく反省しております、はい。


 今日の俺は各種手続きのため東奔西走なので、二人は連れて行くわけにはいかず留守番になってしまうのでこうやって魔力を補充しておけば何かあったときは安心安全だな、という考えに基づいてはいたんだけどね。俺もけっきょく楽しんじゃったからなぁ……


「今日はなるべく早く終わらせて帰ってくるから二人ともわりぃけど待っていてくれな? だか――」

「おはようございまーす!」

 ん? 誰か来た⁉


「隣の坂嶺さんちのあずさちゃんでーす! おはよう! 洋兄ちゃんっ、ひっさしぶり~」


 坂嶺さんちの一人娘のあずさだった。俺の三コ下で妹のような存在――今度婿をもらって結婚だって――が縁側からやってきた。


「よぅ、あずさ。久しぶり、悪いな長いこと家の世話を任しちまって」

「いいんだよ~ 代わりに格安でこのおうち売ってくれたんだもん。お安い御用ってやつだね!」


 今日の手続きの一つはこの両親の家を隣の坂嶺さんちに売却すること。

 ずっとぐらついていた気持ちがエレンとナイマが来てくれたことで固まった。もうこの地には戻っては来ないって方に。


「でも新居がこんなボロでいいのか?」

「全然ボロじゃないし! つっか! それよりか! もっと大事なこと! そこの美人二人を紹介しなさい! 洋兄ちゃん!!!」


 なんで奥さん連れてくるって言って二人もいるんだとギャーギャーと朝からうるさい。


「相変わらずにぎやかだな……こっちがエレンで、こっちがナイマ――」


「はじめましてあずささん。わたしが洋一の第一夫人のエレンです。よろしくお願いいたしますね!」

「お初にお目にかかります。わたくしが洋一様の第二夫人のナイマです。以後お見知り置きお願いいたします」


「え? 第一夫人? 第二夫人? え? え? 洋兄ちゃん……どゆこと???」


 …………。はあ。


「じょ、冗談だって。エレンが妻で、ナイマは義妹。あずさは揶揄かわれただけ、だよ?」


「ふ、ふ~ん。そ、それにしてはナイマさんも洋兄ちゃんの腕に絡みついておっぱい押し付けているけど?」


 朝から女の子がおっぱい言うなよ……ま、朝からシてた俺には何も言えねえけど。

 すっごいジト目であずさに見られているけど、これ以上は余計なこと言えない。


「そ、そういえば朝イチからあずさはなんの要件だ?」

「あからさまに話をそらしたね? まあいいや。おいおいで。今日は、洋兄ちゃん午前中はお寺とかでしょ? その間そちらの奥様方と一緒に出かけられたらなぁ~って思ってきてみた」


 おいおいとはいえやっぱり聞かれんだな……ヤダな。

 それはさておきちょっと作戦会議。縁側から離れて奥の部屋に移動する。


「ねえ、洋一。あの娘洋一の愛人? やけに親しそうだけど?」

「洋一様。すごく怪しいです」

 はあ……ヤキモチですか? もっと妻を増やせだの言うくせに何故かヤキモチはすごいんだよな。まあ俺的にはなんだかんだ嬉しいけど。言わないけど!


「あの娘は隣の坂嶺さんちの娘で幼馴染なんだけど、今度結婚するそうだから、俺とはなにもないぞ?」


「そうなんですね!」

「それならあの女と一緒に遊びに行ってやってもいいかな?」


 エレンが偉そうなのでデコピンしておく。


 二人には余計なこと言わないように五寸釘千本分ぐらいは釘をさしてから送り出した。


 なんかあっても最悪あずさなら懐柔できるかもしれないし、という打算もあったり、なかったり?



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朝な馴染みのあずさちゃん登場! 波乱の幕開け?


は、ないので悪しからず。


ではまた明日。

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