第22話 日常? (下)

2/2話です。

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 その世界自体には名はなかった。


 いま俺のいる世界だって日本? 地球? 天の川銀河の一部? 言いようがあるようでないもんな。もしかしたらあるのかもしれないけど俺は知らんし知っていたところでどうってことはない。


 一口に異世界とは言うが彼女らが生活していた大陸、マルズナと呼ばれている大地の他には大陸が存在するのか? また、その世界にはどんな生物がいるのかさえほんの一部しかわからない、わかっていないんだと。

 アメリカ大陸発見前のヨーロッパみたいなもんかね? 大航海時代直前レベル? テキトーだけど。


「地図ってものは軍事防衛上の秘密だったからマルズナ大陸の細かいところはわからないんだけどざっくりいうと、北の方の土地はナイマの治めていたマンフレドニア魔国を宗主国にした魔族国家群があったね」


 沈滞の深林という数万年は変わっていないと言われているような森の半分が前人未到な地域を挟んで南側に人間族の国、エンデルバ王国がある。その他にも何とか王国となんたら聖国と有象無象の小国が無数にあるらしいが、俺じゃ覚えきれない。


「エンデルバ王国よりも更に南に行くと険しい山脈と不毛な土地が広がっていて人間族は住んでいないけど人外の国があるっていう話だよ。あ、人外っていっても人間族じゃないってだけで、大きく言うとわたしたちと一緒の人族なんだけどね」


「んんん? 人間族じゃないけど一緒の人族って何? 全然わかんないんだけど?」


「洋一様。簡単に言うと人族にはえっち大好きで子供をポコポコ産んで勢力を拡大するのが得意な人間族とそうではない種族に分かれているのですよ。その人間族でない種族のことを人間族は人外と言っているのです」


「んんんん? もっとわかんない。え? もしかしてエレンとナイマって違う種族なの?」

 ただの人種の違いぐらいにしか思ってなかった。


「そうだよ! わたしは人間族でナイマは魔人族だよ! 人間族だけえっち大好きみたいな言い方なんてひどいのぉ! そんなこというのなら今夜から洋一はえっち大好きな人間族の私が独占してもいいよね!」


「……うぐ、それはダメ。わたくしとエレンで半分こです」

 よっわぁ~ ナイマ、よわ! でもそんなに俺がいいの⁉ 嫌だとか仕方なくとか言われるのも凹むけどよ!


「大丈夫だから。俺が二人に差をつけるはずないだろ?」

 エロ勇者とエロ魔王が二人でニマニマしながら俺の胸に頭をぐりぐりしてくる。地味に痛いんだけど?


「じゃ、さ。エレンの人間族とナイマの魔人族の違いってなにさ?」


「まあ、元々は同じ種族だったって説が有力だけどね。わたしみたいにおっぱいがおっきいのが人間族で、ナイマみたいにちっぱいのがま――ゴフっ」


 ナイマの右フックがエレンのみぞおちに寸分たがわずに撃ち込まれる。


 エレン、自業自得。どうしようもない身体的特徴を貶したり見下したりしてはいけない。まあ、俺も心の中じゃそういうこと思うこともないとは言えないけどな。そうなんだよ、聖人君子じゃあるまいしゼロとは絶対言わない。だけど、ダメ、な? 

 あとで一緒に謝ってあげるからな。


「洋一様。おっぱいの大きさは関係ないですよ?」

「あ、おう……わかってる。それにナイマはちっぱくないぞ? 俺は好きだ」


「あ、ありがとうございます……も、もう! えっと、コホン。一般的には魔力量の違いになりますね。魔人族のほうが魔力量は膨大で、人間族は例外もありますが、魔力量は少なめです」

「ゴフゴフ……そ、その魔力の量が関係しているのだろうけど……人間族は寿命が短く子だくさん。魔人を代表とする魔族は反対に寿命が長く少子なんだよね……ごめんね、ナイマ」

 ちゃんと謝れたね。えらいえらい。二人の頭を撫でておく。平和バンザイ!



 この後も拙い説明をされたけど本人たちもよくわかってないし、話をしているうちに段々とエロい方に話が外れていくのでもう異世界については聞くのは止めることにした。もともとそんなに興味ねえしな。


 とりあえずわかったこと。

 あっちの世界の生物の区分けはざっくりジン類とケモノ類、要するに二足歩行の知的生命体とその他っつー適当な分け方みたいだ。


 ジン類も魔力の有無で大まかに分かれていて、魔力の乏しい人族と魔力の豊富な魔族に分かれ、更に細かな種族に分かれていき、あまりにも多種多様で細かいことは二人とも知らないと。

 俺だって隣の県どころか隣町の風習だって知らねえもんな。自分に関連のない他人のことなんかそれほど気にしちゃいない、そんなもんだよな……

 最大派閥は人間族で領土の拡大に人間族同士での争いも絶えないそうだ。次に多いのは魔人族だけど一気にその人口は減るらしい。人間族に対抗するためにナイマの家系――魔女の家系らしい――が魔王として魔族をまとめ上げていたとのこと。


「ナイマがいなくなって国は平気なのか?」

「たぶん大丈夫でしょう。魔国のあった土地は一般の人間族には魔素が強すぎて生きていけないでしょうから、占領は出来ないはずです。目的はわたくしの命だったはずですもの」


「そうなのか? エレン」

「わたしはただ、魔王城に攻め込んで魔王を倒してこいとしか言われてないんでわかんないな」

「……あっそ。残念っぷりは昔からなんだな。うん。わかったわかった」




 あっちの人間族もこっちの人間と同じくエロいことが大好きな種族だってことはわかった。対して魔人族はそうでもないって……あれ?


「でも、ナイマもかなりエロいこと大好きだよな?」

「それは……。洋一様が悪いのですよ⁉ だって……あんなに気持ちいいなんて知らなかったですから……」


 真っ赤になって俯くナイマがあざと可愛い。

 よくわかんないけど、人間族も魔人族もエロいことすりゃ気持ちいいし、溺れることもあるってことでいいよな。もう面倒だし、事実エロいの大好きなんだからそれでいいじゃん? ね。



 ♪*:・'゚♭.:*・♪'゚。.*#♪*:・'゚♭.:*・♪'゚。.*#



「んふっ、はぁはぁ…… Oh, yes! Oh, yes! クルっクルぅっ! はぅっぅ、動いて! 早く!はやくぅ~」




 日曜日。駅前のお店でナイマにもスマホを買い与えた。セットアップ後にナイマに手渡すと早速音声アシスタントを呼び出している。よ、呼び出してるの、か??


 いやぁ! 呼び出しかた違うし! まだお店なのにそんな艶めかしいこと言うなよ! いや、家だったらいいってわけでもないんだが……

 そんなことより、みんな見てるし! あっちの純情そうな高校生男子は耳まで真っ赤になって前かがみになってるよ⁉


「お、お客様……。音声アシスタントの呼び出しは『イェスぐるぐる』ですので、Oh, yes! でもクルぅクルぅでもビクンビクンでもないです。申し訳ございませんがよろしくおねがいします」


 窓口のお兄さんも顔を赤らめて前かがみなんですよね? うちの妻に何欲情してんじゃ‼ なんて怒る資格もないです。はい。あと言っていないのもひとつ含まれてますよ?


「ナイマ。呼び出しかた、違うって。気をつけような?」

「ん?」

 ナイマのキョトンとした顔で本気でわかってないことを確認した。あれ、本気で言っていたんだね。お家に帰ってからちゃんと教えないとね……


「うちでちゃんと教えますんで、大丈夫です。すんません」

「はい。お願いします。あとですね、非常に申し上げにくいのですが、もうひと方のお連れ様のほうも対処をお願いします」


 俺が使っている方のOSが搭載された展示品のスマホを手に取り騒いでいるエレン……。


「お尻! おっしりぃ~‼ あれれ? お尻ペンペン! なでなでおしりちゃん!」

 もうヤダ……そいつの呼び出し方はOh,Chiri、な?


 Oh,yes! 尻!尻!クルクル! って混ぜるな危険な感じだな……なんかホントすんません。



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Oh,yes! Coming! だね……。Oh,yesには『マジかよ!』とか『あ、そういや』って使い方もあるみたいだけどね。


では、また。

次話もちょこちょこ書いているよ!

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