第20話 せいじょの夜伽⑤
クライマックスです。洋一の近況にもびっくりすること請け合い。
では、せいじょの夜伽の章、最終話でございます。
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アタシは電車とバスを乗り継ぎ、郊外の一軒家に連れてこられた。
普通の日本人、いや地球人ならまったく気にならないだろうけど、転生者のアタシにはビシビシ感じる。ここの家はおかしい。
「日本列島程度なら一瞬で消え去るくらいの魔力にあふれてんだけど?」
「え? マジ? 最近ちょっとおかしいとは思ったけどあいつら何やってくれちゃってんだよ! ったく、小一時間は説教だな⁉」
ほら入れよ、と軽く招かれるがアタシはすざましい魔力禍に目が回りそう。
引きずられるように玄関に入ると奥から何者かが走ってくる気配。なんかやばいやつ来る!
「「「おとうさーん! おかえり!」」」
「洋一!」「洋一様!」「あなた!」
「「「おかえりなさい」」」
アタシは気を失った。
♂♀♂♀♂♀♂♀
頭上で話し声が聞こえる。
「んで、誰よ。この娘?」
「え? 洋一は知らないで連れてきたの? 本当に?」
「ホント知らねえよ! 駅で指を切ったらこの娘が舐ってその傷を治すから、お前らの知り合いかと思ってさ……あれ? まずった?」
「いや、洋一様は悪くはないのです。別にいいのですけどね……ね、エレン」
「ま、洋一だから……そういう人だし。リオちゃんは以前に会ったって言ってたよね⁉」
「え~お姉さま! 私に振るのですか? えっとですね、あなた。この方は……」
アタシは起き上がり挨拶をする。
「猪股百重です。前世では聖女マリノと名乗っていました。みなさまお久しぶりでございます」
実は呑気に挨拶している場合じゃないんだけど一々現状のわけ解んない状況に驚いている時間もアタシにはないんだよ!
アタシの目の前には異世界であれだけ殺し合った勇者エレンと魔王グソンが仲良さそうにしている風景がある。
剣聖バビは以前お店の前で会ったときよりも更に歳をとった感じだし、百合だったはずなのに子供が三人もいるし、しかも全員可愛いし!! それ以上に子どもなのに魔力異常だし!
ここまで連れてきてくれた男性は何故か柱の陰でアタシをみてガタガタ震えているし!
気になることは山ほどあるけど、あるけどぉ! 今はそれを聞いているときじゃない! 先ずは義彦さんをなんとかしないと!!!
「あとで全部話すので、アタシに魔力を分けてください。お願いします」
皆さんの前で土下座してお願いする。
「あ、いや、あのね。マリノ……じゃなかった。百重さんだっけ? 魔力を分けるのはいいんだけど、全部話さなくてもいいけど、使いみちは教えてよ?」
エレンがアタシの手を取って立ち上がらせながら言う。当たり前だよね。こっちの世界じゃ魔力は危険なものになるものね……
「いや、ね。危ないとか何とかじゃなくて、魔力の分け方に問題があるんで、わたしたち――というか、彼が納得できないとおいそれとはね……ねえ? 洋一?」
アタシと義彦さんのことをすべて話した。エレンもナイマ今はグソンではないらしい――と、バレリオは泣きながら聞いてくれた。
「純愛ね! わたし達と洋一みたいね!」
エレンはそう言ってくれるが、ちょっと違うと思う。言わなかったけど……
肝心の洋一さんは話を聞きながらも腕組みをしたたま難しい顔をしている。当然だと思う。
魔力の受け渡しの基本は、性交して洋一さんの精を受けること。次にいい方法が口内に出してもらい飲み込むこと。唾液っていうのも多少の効果はあるらしけど、あくまで多少らしい。
奥さんたちの目の前でそんなことを了承するのは
「だってよ、百重さんはその義彦さんのこと好きなんだろ? だから風俗だって現場に出なくなったわけだし、一途な思いがあるのに俺とセックスしちゃダメだろ?」
「え~?? やってあげなよ? ねえ、ナイマもリオちゃんもそう思うでしょ?」
なんだかエレンの言っていることがおかしいような気がするが気にしないことにする。アタシのことを思って言ってくれているんだとは思うんだけど……あれ?
奥さんが三人もいる洋一さんはただのハーレム野郎だと思っていたけど、素敵な男性だからこそあの三人が惹かれたんだということがやっとわかった。
……八方塞がりなのかな? やっぱり無理言って洋一さんにセックスしてもらわないとならないのだろう。
あれだけ男とやりまくったのに今はなぜか他の男に抱かれることに嫌悪感がある。そんなアタシに自分自身驚くがここは義彦さんのためにも我慢しよう。
「方法がないわけではありませんよ。わたくしに妙案があります」
ナイマがそう呟きニヤリと犬歯を覗かせる。それを見た洋一さんはガタガタブルブルと一層表情を青くする。
♂♀♂♀♂♀♂♀
小さいコップになみなみと注がれた生温くどす黒い血液。
向こうのベッドでは、裸で気を失った洋一さんにエレンにナイマにバレリオがこれまた全裸で抱きついている。お子様たちは既にご就寝。この姿は見てはいけない……
ナイマが素肌にタオルケットだけ引っ掛けて近づいてくる。
「飲まないの? 折角洋一様が体を張って血液を分けてくださったのだから、ぐいっと一気飲みして!」
人の生き血を一気飲みって⁉ ただ、この血から感じるすごい魔力に酔ってしまいそう……お酒で言えばスピリタスって感じかしら?
「マリノちゃ~ん! 一気飲みは止めておいたほうがいいわよ⁉ ナイマでさえいつも飲みすぎるとベロンベロンになるくらいだし」
でも早めに飲まないと気が抜けるからね、とビールじゃないんだから‼……彼女本当に勇者エレンなのかしら? それにナイマさん常飲しているの? ホント??
意を決して口をつける。口内に鉄臭い何とも言えない匂いが充満するが……意外とイケる。
あれ? 美味しい‼
「あ~あ。聖女様は結局一気に飲み干してしまったわね……洋一さんの血の魅力には抗えないからしょうがないですよね」
剣聖がなにか言っているが……もう……頭が……くら、くら、して………
翌朝までぐっすりと寝てしまったようだ。
「は⁉ 義彦さん!!!!」
「おはよ。マリ……じゃなくって百重さんだったね」
「お、おはよう、エレン。私寝ている場合じゃないのに!」
「ん、まあ、落ち着いて。自分の魔力を感じてみて? わかる?」
「これって?」
「ん、洋一の魔力。すごいでしょ? これならあんたの愛しの人が死んでいようと復活の呪文で生き返らせて更にお釣りで健康体までもってけるでしょ?」
言い方ぁぁぁ!
「ありがとう、エレン! アタシ……向こうの世界で貴女やナイマさんに酷いことしていたのに……」
「ん? 気にしなくていいよ。ナイマも洋一も気にしないし。当然リオちゃんもね!」
「あ、旦那さんは?」
「もうとっくに仕事行ったよ。猪股さんによろしくだって、さ」
ナイマに隠蔽と飛翔の魔法までかけてもらって
地上三千メートルまで一気に上昇し地上に向けてサーチの魔法を飛ばし義彦さんを探す……。
いない。
「もっと上に!」
再度サーチを掛ける。ほぼ日本列島中が見渡せる高さだから、絶対に見つかるはず!
……見つけた!
義彦さんめがけて一気に落下していく、摩擦で服が焦げだすが気にしている時間はない。
義彦さんは崖の端に向かって一直線に移動している! 復活の呪文なんて言うけど、完全な蘇生が出来る確率は二〇%もない!
だから、絶対に死んではいけないんだ!
自分でかけた飛翔魔法じゃないので制御が難しいが、火の玉になることも構わずアタシは一気に数千メートル下降した。
「ううう……そろそろ減速しないと逆に木っ端微塵になっちゃう!」
あと一〇〇メートル!
五〇メートル!
一五メートル!
義彦さんは崖から飛んだ……海向かって、真っ直ぐに。
「待ってぇぇぇ!!!!!! 義彦さーん!」
義彦さんは落下しながらもアタシの方を向いてくれた。
「も、百重さん? なんで?」
答える前にアタシは彼に抱きつき……落下の勢いそのまま、彼と一緒に海に飛び込んだ。
ある日。
「向井さん、すごいですね。奥さん三人にお子さん三人ですか?」
「んん? 違うぞ⁉ エレンは妻、ナイマは妻の妹、バレリオが姉ちゃんだ……そういう……設定だ。絶対に忘れるなよ⁉」
洋一さんは一番年上のナイマが妹で一番下だったバレリオが姉って適当すぎだけどなと笑ってる。
「あはは。じゃ、お子さんは? 奥様方が一人ずつ?」
「奥様方言うな! 間違ってないけど間違ってる! んで、子どもはみんなバレリオが産んでくれた。それと三人じゃなくて向こうにあと二人ばかり、長男と長女がいるんだが、なんかやんなきゃならないことがあるとかでこっちに来てないんだ」
洋一さんは向こうに行く度にあちらにいたバレリオに仕込んでいたので五人の子持ち。今では小さな子供とバレリオは、両親ともに一緒に暮らしたほうがいいという彼の強い思いからこっちの世界で暮らすことにしたそうだ。
なかなか、いいえ、とんでもなく自由にやっている。
「ねえ、エレンとナイマの子供は?」
「まだ、洋一と毎晩ガッツリ楽しみたいからもう少し後で」
「わたくしもいっしょです」
「もう子供はいいから、これからは私もガッツリいきますよ? エレンお姉さまに対してもね?」
「え? 勘弁してよ……リオちゃん」
「義彦も嫁さんがナンバーワン風俗嬢だったんじゃ凄く楽しめてんじゃねえの?」
「えへへ。実はすごかったですよ。僕、恥ずかしいことに何回か気を失ってしまいました」
義彦さんはアタシが風俗嬢だったことは気にしなかった。もちろん、魔法を使ったことも。
……アタシのお腹の中の大事な大事な新しい命。
亡くした家族は戻らないけど、新しい家族は作れるんだよね、義彦。
一緒に歩いて行こうね。
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これにてせいじょの夜伽の章は終わりです。
あと二章ぐらい書けば10万字ぐらいにはなるかな? 目安だしね。
つーてもあと二章分のテーマがなぁ〜
アイデアあったらコメントでお願いします。
お読みいただきありがとうございました。
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