第12話 ?聖?②
週末のお供に拾い食いされた勇者をどうぞ……
5話編成の2話目です。
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「それで、ナイマ。わたしのマジックボックスがどうしたの?」
「エレンが片っ端からマジックボックスに入れてしまえば荷造りも必要ないんじゃないかなって⁉」
「なるほど? ……どゆこと?」
エレンが触って『収納』を発すると勇者スキルのマジックボックスにモノが仕舞えるらしく、容量さえ余裕があればこっちで家財道具に触って収納して引越し先で放出すれば荷造りの必要もないらしい! 出し入れ自由は知ってたけどそこまで便利グッズだったんか!
「ん? わたしのマジックボックスにはまだまだ余裕があるよ。この建物ぐらいは入るんじゃないかな。いま入ってるベヒモスを捨てればもっと入るけど? ど~する?」
マンションは持っていかなくていいし、その怪しげな悪魔さんも出さなくていいです。そもそもどうしてそんなもの後生大事に取ってあるんだよ?
「え? 売れば素材ギルドあたりが高く買い取ってくれるかなぁ~って一応仕舞っておいたんだよ?」
「あっ! あの野良ベヒモスってエレンが退治してくれたんですね。誰かが捨てたのがあんなに大きくなって困っていたんですよ! あの子大食らいだったでしょ? 元の飼い主が飼いきれなくなったんだと思うの」
日に千の山に生える草を食べるベヒモス……エサ代が馬鹿にならないだろうな――ってそういう感想でいいのかね?
「まあ私一人で倒したわけではないけど……今となっては懐かしいわね」
「そいやさ、エレンはナイマを倒す旅は何人で回ってたん?」
「わたくしを倒す旅って言い方酷くない? ねえ、洋一様? ねえねえ??」
間違ってないんだしいいじゃん! ごめんよ!
「ふん‼ いいです、あとでちゃんとサービスしていただきますから!」
「えっと、何だっけ? ああ、旅をしていた人数だっけ? 多いときは一〇〇人超えの大隊だったけど、勇者パーティーとしては五人かな? 最後にナイマのところに乗り込んでいったのもわたしを含めた五人だよ――
――五人のパーティー結成は魔王城に乗り込む三年前ほどだったと思うな。
わたし、勇者エレン(当時二二歳)とよく話に出る聖女マリノ(同二〇歳)、剣聖のバレリオ・バビ・ラベラ(同一五歳)が女性陣。
剣聖バビだけは貴族の出だったから、領地名が『ラベラ』で、公称が剣聖『バビ』で真名が『バレリオ』ね。彼女、成人したばかりでわたしは妹みたいに可愛がっていたわ。
残りは戦士のレアンド(同おっさん)と魔術師のズラタン(同爺さん)の五人よ」
「剣聖のビビデバビデブーさんは一五歳で出征したんだ。一五なんてまだ子供なのになぁ……それにしても聖女、二〇歳だったんだ、うっ、寒気が!」
それにしても倒しに行った相手がまさか、今は俺の膝枕でデレデレしているコイツだとは思いもよらないだろうな……
「ナイマは? いつも一緒の人……魔人? っていた?」
「わたくしはいつも一人でしたから……」
なんかごめん?
「ビビデバビデブーじゃないよ。バレリオ・バビ・ラベラね。わたしはリオちゃんって呼んでたわ。あの子のことだけは気がかりね。洋一が言ったように最後別れたときもまだ一八歳になったばかりのお子様だったからね……」
聖女はいつもエレンのこと見下していたようだし、他はおっさんと爺さんだからな。消去法で気になるのはその娘しかいないだろうけどさ。
「ごめんね……」
「いえいえいえ! ナイマのことを責めているわけじゃないのよ! もう‼ ナイマとはとっくに家族なんだからそういうの言いっこなしでね⁉」
「ありがとうエレン……」
謝罪したり、感謝したりはせめて膝枕から起き上がって言おうぜ? な?
ともあれ、二人ともあっちの世界には未練はないし心配するあてもないというなら安心だな。余計なことに気をもむ必要がないって素晴らしい!
でもエレンは唯一勇者パーティーで自分のことをお姉さまと慕ってくれていたバレリオだけが心配といえば心配だというが……
「でも、彼女は貴族だし剣聖だから痩せていてもウダウダ言われないし、わたしとは違うから平気でしょう⁉ 今頃よく肥えているはずよ(羨ましくないわよ?)」
……なんか平気そう。
*†*:..。..。..:*†*:..。..。..:*†*:..。..。..:*†*
十一月のとある日、現在仕事で電車移動中。
同僚の佐伯さん(26歳・女性)と取引先に行く途中なのだが、ただいま佐伯さんはスマホで連絡業務遂行中なので俺はつり革に掴まったまま車窓をぼんやり眺めていた。
ターミナル駅で多数の乗客が降車して車内がだいぶ空いたせいなのか地方からの出張サラリーマンらしき男同士の会話が聞こえてくる。
「
「都内で最近伸びてるって評判の歓楽街ってやつけ?」
「そうそう。昨日ネットで見たっけ、せいじょの夜伽って店がいいらしいぞい」
「どうせお前の好みだからポチャ超えの肥え超え系だろ?」
「がはは、バレたか? 今夜行こうと思ったっけど……」
そんなワケないとは思いたいが、背筋がゾクゾクと悪寒がするんですけどっ!!!!!! どーしてでしょうか⁉
「イヤですね。公共の乗り物の中でする会話ではないですよね?」
佐伯さんは業務連絡が終わっていたようで、サラリーマンたちの会話も聞こえていたようだ。
「そうですね……ちょっと、いやかなり不快です」
不快な原因の主なのは『せいじょの夜伽』に心当たり有り過ぎだからなんですがね! 田舎リーマンのエロトークはとくに何とも思ってません! ごめんねごめんね~
「それに引き換え、向井さんは奥様一筋なのですよね?」
「ま、まあ……そうですね」
ウチはその奥様が二人いるのですがね! なんと元勇者と元魔王なんすよ! あははは……はぁ。
「素敵ですね……私にもそんな
「佐伯さんは美人だから直ぐにいい男が見つかりますよ」
冗談抜きで佐伯さんは美人だし、ばいんきゅっばいんなバディの持ち主様なので男性社員の中ではお噂で盛り上がっているそうですよ? ご時世、大っぴらには言えませんけどね。
「美人だなんて……お上手ね、向井さん。向井さん、貴方も会社でも人気者なのですよ⁉ 特に独身女性から……」
「え⁉ そ、そうなんですか……知りませんでした」
え? マジ⁉ 御冗談。エレンの幸運ステータスで中途入社しただけの男なんですけど? モテ要素皆目見当つきませんよ⁉ 皆様の目はある意味、節穴ですか⁉
その後どう答えたらいいのか、オロオロしていると佐伯さんはつり革に掴まっている俺の腕をちょこんと摘み、潤んだ瞳で何かを訴えかけるように見上げてくる、よ⁉ はい???
どしたの? どしたのどしたのどしたの⁉ な、何が起きているんでしょうか? 理解が追いついてこないので、いっそ恐怖心のほうが先に来ますけど? けどけど?
昔の俺ならこんな美人に擦り寄られたら小躍りするぐらい喜んでいただろうけど、今はない。ぜってー、ない。あの二人がいるから惑わされることはないです、よ? ホントよ?
「あ、この駅ですね。佐伯さん、ささっ、降りましょう」
ちょうど訪問先の会社の最寄り駅に到着したので、若干ぽやっとしている佐伯さんを引き連れ、そのまま先程のことなど何事も無かったように降車した。
その後はこれといって佐伯さんに誘われるようなことも一切なく訪問先での仕事をこなし、お互い反対方角に直帰することで事なきを得た。
「アレは何だったんだろうな?」
まあ、佐伯さんの方は事なきを得たと言っておくべきかな?
そんでもって、新居に帰宅したらさ――
今、俺は自宅の居間で張りつけにされている。ダジャレじゃないよ? マジだから……
最初は玄関に迎えに出てきてくれたエレンが何かに気づいたようだった。そんで、その様子を見ていたナイマにエレンは空かさず近づいていってナイマに何か指示してたんだよね。
次に玄関から居間にエレンに抱えられるように連れて行かれたかと思ったら、いきなり後ろから羽交い締めにされるんだよ。何事かと思うよね?
直後、ナイマがディープなキスで俺の唾液を吸い取ったかと思うとバチバチと青白い放電現象的な何かと空気の弾ける音がして、俺の四肢は大の字で壁に縫い付けられたのよ。だから! そういう趣味はないんだって!
「バインド魔法です。わたくしであれば、ヒト程度のならば少々の魔力で拘束できます。維持の魔力は洋一の血液から直接摂ってますので何時迄もこのままですよ?」
俺の腕に
「スンスン……洋一様の血液はやっぱり甘露なのですね……ちょ、直接いただいても?」
ナイマの目が赤いよ! 赤光を放っているよ! 血はやめて! 怖いの! ボク、採血注射もきらいなの……ぽてん。
なんで拘束されているのかも知らされぬまま、ワタクシ、恥ずかしながら気を失ったんですね、あはは……はぁ。
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ナイマは吸血鬼ではありません。
なんとなくそんな感じの魔人族さんです。
★評価とレビューお待ちしております。ほんとに待ってるからな?
では。
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