第2話 勇者②

全5話中の2話目になります。

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 テンション急上昇につき、もっと詳しくそこら辺の話を聞きたいたいのだが、明日も俺には仕事がある。


 月初なのでそれなりに業務量は多く、こんなことで休むわけにはいかない。壁に掛けてある時計の針はそろそろ一番高いところで長短針が交差しそうな頃合い。俺的に寝ないで仕事するのは流石にムリ。


「分かった。もっと細かくエレンには聞きたいところだけどもう二四時を過ぎてしまいそうだから風呂入って寝るぞ。それで……あのさ、気にしないで欲しいんだけど、えっと非常に言いにくいがエレン、結構匂うからな。身体は洗っておいてほしいところなんだ」


 今着ている貫頭衣もその下に着ていた下着なんだか何なのか知らないボロ布も汚かったからな。


 エレンは石化魔法でもかけられたように固まっていたが、外にいた時には余り気にならなかったけど室内に入ったら匂うんだよな。


 エレンが本当に魔王と戦っていたのなら風呂なんて二の次三の次だったのは想像できるし、それは仕方ないのだろうけど……ちょっとな。限度ってものがこの俺でもあるわけで……


 ポチッとな。

『お湯張りをします。浴槽の栓はしまっていますか?』

 はいはい。ちゃんとしめましたよ~


「はっ! 今の声は? やはり向井殿は魔導士なのでないのですが? あれは案内役ナヴィゲーダの声ではないのですか?」



 なんだよナヴィゲーダって……ただの電子合成音声だって!


 はあ、もう眠いしどうでも良くなってきた。

 早く風呂入って寝たい。


 エレンは風呂一つ入るのにも湯が出てるだの贅沢だの煩いし、石鹸もシャンプーも知らないしで、最後には面倒で頭の先から爪先まで全部俺が洗ってやった。


 折角の美人と全裸混浴だったのに余りにもエレンは汚いし、俺は眠くて眠くて仕方ないしで、いい思いなんて一つもなかった。もったいない! ホントもったいない!




 スマホの目覚ましアラームがピーピー鳴り響く。

 俺は枕元にあるであろうスマートフォンを目を閉じたまま手探りで見つけようとしていた。


 シュッ!! ザンッ!! ザクッ……


 鋭い風切り音のあとに何かが、硬いモノに当たる? 刺さる? 音がしてスマホのアラームは止まった。


 閉じていた目を恐る恐る開いてみると、俺のスマホには全長十数センチの金属製のハンドナイフが深々と刺さっていた。


「あぁ、あぁ……はぁ……」

 まだ二四回分割払いの四回しか払い終わってないのに……


 昨夜の出来事はやっぱり夢じゃなくってさ、現実だった模様なんだよね。


 ナイフを投げた犯人を恨めしく見てみると、リビングの外の通路で小さくなって固まっていた。


「む、向井殿……またも……申しわけない。突然その、四角いものが鳴き出したので、あの……つい、攻撃してしまって」


「はあ……反省してるようだし、今回は許すよ。エレンはまだこの世界に慣れていないのだから仕方ない、な」


 本当はさ、怒鳴りたい気分だし泣きたくもあるんだよ。でもさ、昨夜の話からして諦めるしかなさそうじゃない?


 お人好しって言われたらそれまでだけどさ。金も地位も能力もたいして持っていない俺がさ、そんな人の心まで無くしたらもう終わりじゃん。


「それよりなんでエレンはそんな所に居るんだ? 起きているんならこっち来てれば良いのに。あれ、もしかしてそこで寝たのか?」


 昨夜は風呂から上がったあとにエレンには以前間違って買った俺の穿けないSサイズのボクサーパンツとTシャツとジャージを着させてベッドに寝かせ、俺は絨毯の上にクッションを枕に毛布をかけて寝たんだよ。


 うちにはソファーなんて高級家具は無いからな。安物でも置く場所ないしさ。


 それなのにエレンはリビングの隅っこで膝抱えて座っているじゃん。


「主殿を差し置いて、わたしのような者が寝具を使うなど烏滸がましいと……」


 主従の関係は大事なのね。って何時俺がエレンの主人になったっつーの? 何のために俺が床で寝たのかわかんねえじゃん、もう!


 朝から言い争っている暇もないので二日前に特売で袋いっぱい買ってあった菓子パンと総菜パンを朝飯に食わせておいた。味だの見た目だのに一々エレンは騒いでいたが、放っておいて俺はシャワーを浴びに風呂に入る。


「今日と明日は俺も仕事に行かなくてはならない。だから、エレンはこの家からは外へは絶対に出るなよ! 絶対だ。フリじゃないからな?」


「そのフリというモノは何なのか分からないが、向井殿の命令ならば厳守致すつもりだ」


 いや、そんなに堅っ苦しく考えないで留守番位に思っていてくれないかな?



「これ、時計なんだが。この短い方の針が一周まわって同じところを指す七時ころには帰ってこれるようにするからな。外が暗くなったら、そこのカーテン。布がぶら下がっているやつ分かるか? アレを閉めといてくれ」


「向井殿。わたしとてカーテンぐらいは知っている。向こうの世界にもあったからな」


「左様ですか。エレン。お前もまだ疲れているだろうから、今度こそそっちの部屋のベッドで寝てて良いからな」


「くたびれた女では夜伽は務まらないと云うならしっかりと回復しておこう。うわっ、このベッドは王城のモノよりも柔らかではないか!」


 格安家具屋ヤトリのお値段ナリのベッドですけどね。それよりいい加減夜伽から離れてくれないかな? 俺とて女は嫌いじゃないが、弱みにつけ込んで言うこときかそうとは思わないからさ。


 エレンにはトイレの使い方や水道水の出し方、食料品の置き場所とあと幾つかの注意事項を伝えて俺は出勤する用意をしていく。


 食うものと出すところだけ最低限教えておけば急場は凌げるだろう。こっちからもエレンからも連絡が取れないのはもどかしいが仕方ない。

 本当はすごく心配だけどさすがに付きっきりは無理なのでなるべく早く帰ることを念頭に出勤した。





 仕事はきっちり定時で終わらせてさっさと帰宅する。未だ冷蔵庫には食い物はあったはずなので買い物もしない。

 エレンの下着や服などを俺一人で買いに行けるはずもないので今夜ネットで注文してしまうつもりだ。


 顔も合わさずに女物だろうとエロいものだろうと指先一つで購入できるとはエレンもさぞや驚くことだろうな。


 最寄り駅からも早足で帰宅を急いだ。残念ながら走れるほどの体力は生憎と持ち合わせていないんだな。


 玄関を開けると真っ暗。


「ただいま。そう言えば照明のスイッチ教えるの忘れていたな。エレン?」


 返事がない。ただの屍のようだ……じゃなくて、まさかいないのか?


 慌てて照明を灯すと隣の部屋のベッドがこんもりと膨らんでいる。


「なんだ。寝ているだけか……」

 エレンがちゃんといることにホッとしている自分にマジ驚き。


 俺が仕事している間に出て行ってくれればラッキーじゃね? とは思わないのは何故なんだろう。あんな美人な娘を放り出すのはもったいない、夜伽もあるしな……と、いうことにしておこう。


 エレンはスースーと寝息を立てて無防備な格好で寝ている。俺が帰宅したことさえ気づいていないようだ。


「朝飯のパンは食いっぱなしだし、カーテンも開けっぱかよ……つーことはずっと寝っぱなしってことか?」


 余程疲れているんだろうと思い無理にエレンを起こすことはやめた。十分に寝たあと自力で起きるまで放っておくことにする。


 食料棚の隅に転がっていた聞いたこともないメーカーのカップラーメンを啜って、静かにシャワーを浴びたら昨日と同じ様に絨毯の上に寝転んで寝ることにする。


「何をしているんだだろう、俺。こんな道端に落ちてた女勇者に気ぃ使ってさ……ばっか見てぇ」


 昼休みに携帯ショップで訝しげな目で見られながらも交換してきたスマホの再設定をしていたがもういいや。疲れた、寝る。


 エレンの服をネットで注文するの忘れて再度起き上がるが、サイズが分からなのでやっぱり寝ることにした。何だよ、チクショウ。


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3〜5話もよろしくおねがいします。

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