この前、女勇者拾ったんだけど、夜になると回復魔法連チャン俺にかけてくるんだよね。

403μぐらむ

第1話 勇者①

初めて書いた勇者もの?

勇者ものなのかな?

あれ?


エレン*https://kakuyomu.jp/users/155/news/16817330653534787262

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 俺さ。



 一昨日、仕事の帰りがけに女勇者拾ったんだわ。

 なに言っているかわかんないって?


 そんなもん俺も知らねぇよ。俺だってぜんぜんわかんないんだよ。

 当の本人が自分は勇者だって言うんだから間違いないっしょ? 違うのか?



 *†*:..。..。..:*†*:..。..。..:*†*:..。..。..:*†*



 一昨日は水曜日で月末だったんで珍しく二時間も残業しちゃったんだよな。


 うちの会社ホワイトとは言い難いけど、ブラックじゃないからオフホワイト企業って言われているんだわ。言っているのは俺だけだけど。

 就業時間は九時〜一八時で残業代も有給もちゃんとある。けれど給料は平均値以下ってレベル。仕事内容もその程度のレベルだから、まあ仕方ないね。


 最近じゃ、ある程度以上の給料を貰ってないと嫁どころか彼女だって出来ないって話みたいだな。多分に漏れず俺にも嫁どころか彼女さえいないけどな。チクショウ。


 会社の同僚以上の関係の男友だちの一人もいやしないし、ネットの向こう側にいるであろう誰かでさえ長続きしない関係しか築けない情けない男なんだよ、俺は。



 話は戻るけど、その日は家に帰ってから飯じゃ面倒だからって、会社の近くの居酒屋で同じく残業していた同期の池田、当然ながら嫁彼女なしと一杯引っ掛けながら飯にしたんだわ。

 そんときに何を食ったかまではさすがにもう忘れたよ。どうせワンコインのつまみと発泡酒と頭がガンガンする安焼酎だろうと思うけどな。




 なんだかんだで自宅のある最寄り駅に着いたのが二三時前後だったと思うんだよな。平日なのに結構呑んじゃってはっきりとは覚えてないんだけどな。

 人の悪口と仕事の愚痴は悪酔いさせる酒の肴にはもってこいだよな。


 そんで、フラフラしながらも割増料金まで払ってタクシーなんて乗る余裕は俺にはないからさ、歩いて二〇分の自宅まで駅から歩いていたんだわ。


 二三時も過ぎれば住宅街は静かなもんでね。たまにワンコに吠えられる程度だったんだけど、自宅まであと五分ぐらいのところで道路の真ん中で寝ている姉ちゃんがいるじゃない? むっちゃ犬に吠えられているしさ。なんか君子危うきに近寄らずって言うのが俺のモットーなんだけど、酔っていたせいかその寝ていた姉ちゃんに声かけてしまったんだわ。魔が差した、っていうやつな。




「ねえ、お嬢さん。大丈夫かい? こんなところで寝ていると危ないおっさんにつれてかれちゃうぜ?」


「う、ううん……はっ!! ここはどこだ?! 貴様何者だ?」


 何だこいつ? 昔はやったRPGの主人公みたいな格好のコスプレしてやがるってそのときは思ったな。


「ここ? 絵野田町二丁目だけど? で、俺は向井洋一、二六歳。しがないリーマン、独身彼女なしです。ついでに友達もいないですが、なにか?」


「えのだちょうにちょうめ? むかいよういち? 何だそれは? 聞いたことのない場所だ」


「いや。向井洋一は俺の名前だぞ。そんな地名あるわけねえだろう? 酔っ払ってんのかい、お嬢ちゃん?」


 俺も結構酔っているし、もうそろそろ眠いしで、会話が適当になりかけてきていた。


「そう、そうか。済まない。わたしはエンデルバ王国の勇者エレンだ。魔王グソンを倒した際にやつの最期の反撃魔法によりこの異世界に飛ばされてしまったようだ……クソっ」


「? えんで……まあいいや。早くお嬢ちゃんも帰ったほうがいいよ。もう遅い時間だし、犬っころうるさいし」


 さっきまで吠えていたけど今はウーウー唸ってやがる。飼い主が家の中から怒鳴っていたからいう事聞いたんだな。あの雑魚犬、見た目より賢いんだ。へ~


「……」

「それじゃ、俺はこれで。じゃね〜」


 手をフリフリして俺はその場を離れようとしたが、足が動かなかった。

 コスプレお嬢ちゃん……エレンだっけ、が俺の足をガッチリ掴んで離してくれない。


「なんだよ、離してくれよ~」

 さっきの口ぶりからしてエレンは酔っているのではなく、素で変なことを言っているようなので早々に俺はこいつから逃げたかった。


 チクショウ、やっぱり声なんてかけるんじゃなかったわ。


「た、頼みがあるのだが。向井殿、このわたしを助けていただけないだろうか? 勿論、何の報酬もなく助けろとはエンデルバの勇者の名にかけて言うつもりはない! わたしにできることなら何でも……夜伽であろうと、構わぬ」


 エレンはそう言うと両手を地につき頭を下げた。所謂土下座だ。


「イヤイヤイヤ!! 幾ら夜だからと言って天下の往来で土下座は止めて!? もう分かったから取り敢えず立って、ウチにおいで。もういいから! ほらっ」


 雑魚犬の飼い主がさっきからチラチラとカーテンの隙間から覗いているんだよね。

 もうこれ以上此処には居られないわ。


 本当は嫌だけど、モノすっっっっごく嫌だけど、俺はエレンを自宅に連れて行くことにしたんさ。


「本当に申しわけない……」

 エレンは勇者の格好の見た目とは真反対のしょぼんとして小さくなった態度で俺の後をトボトボ着いてきていた。


 なんかちょっとエレンが可哀想になってきてしまった。


「ま、気にすんなよ。これも何かの縁だし……」

 エレンにだけでなく自分にもそう言い聞かせてみた。



「ここの二階の端っこが俺んち」


 築四五年の三階建てボロマンションで一応俺の部屋は2LDKの角部屋。内装はリフォーム済みなので、思いの外住心地は良いんだぜ。


「この全てが向井殿の邸なのか?」

「ちげーよ。人の話を良く聞けよ。二階の角っこだけだよ。なんで無駄に部屋借りる必要があるんだよ」




 玄関を開けて灯りをつける。


 はあ、やっと帰ってきた。長い一日もやっと終わりに……ならないわな~

 俺の後ろでワナワナしている女のこと一時的に忘れていたわ。あまりにも帰宅できたことにホッとして忘れたかったんですぅ~


「炎が無いのに灯りが? もしや向井殿は魔導士……」

「まだその設定止めないの?」


 いい加減普通に会話してもらいたいんだけどさ。


「……」

「あ、履物はここで脱いでね。ここ日本だからそういう風習なんだ。分かる?」


 明るいところでエレンを見て初めて気づいた。彼女は根っからの日本人ではなく、ラテン系っぽい見た目をしていた。青黒い瞳に褐色の肌、天パーのようなくすんだ金の混じった黒髪。ついでにすごーく美人さん。


 だから日本の習慣は知らないのかもしれない。言葉はむっちゃくっちゃ流暢だけどさ。


「……分かった」

「ん、よろしく」


 俺はリビングの灯りをつけてからエレンに振り返る。


「それとさ……」

「何であろう?」

「へ?」


 ついさっきまでエレンが身につけていたのはボコボコになったへんてこ鎧とヘルメットだった。それを彼女は今身につけておらずノースリーブの小汚いTシャツ崩れと膝の擦り切れたステテコみたいなパンツの姿に変わっているんよ。ビビったね。


「エレン、いつ着替えたの? 俺がリビング行って振り返るまでほんの数秒間だった筈だよな?」

「ああ、ミスリルメイルはマジックボックスに片付けた。ここでは必要なさそうだからな」


「ミスリルメイル? マジックボックス?」

 ナニソレ?


「ミスリルメイルはエンデルバ王に戴いた勇者の装備だ。見ての通りボロボロだったがな。マジックボックスは魔力不要の勇者専用のスキルの一つなのだよ」

 ほら、といってエレンは何もない空間からこれまたあまりキレイとは言えない貫頭衣を出して見せた。


「え? エレンて本当に異世界の勇者なのか?」

「わたしは最初から向井殿にそう伝えていた筈だが? 伝わっていなかったのか? それは申しわけない事をしてしまった」


 なにもない空間から取り出した貫頭衣を着ながら謝ってくるがそんなのは今関係ない。それより……


「じゃあ、エレンは魔法とかも使えたりするのか???」

「ああ。しかし魔法は余り得意ではないし、今は魔王との戦いの直後なので、そもそも魔力が枯渇していて使えないが……」


 マジかよ⁉ 本物なのか?


 エレンの使える魔法は所謂バフ系とデバブ系が主だという。その他には回復系と解毒系は使えるが、怪我や病気を治す魔法は使えない。そういうのは聖女とか司祭とかの神聖魔法なんだってさ。聖女ってマジ居るんだね!


 つか、魔法って本当にあるんだ! エレンも使えるってすげ〜な! 見てみたいけどエレンの魔力がゼロなんだ。


 こっちの世界じゃ魔力なんてものは無いからもう無理なんだろうな。もったいない!


そんな感じで女勇者を小汚い我が家に招き入れたんだ。



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沢山の方々に読んでいただいているようです。ありがとうございます。

本話5話構成の短編になります。


お気に召しましたら評価いただきますと喜びます。★★★

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