第13話 日課
目を覚ますとカーテンの隙間からは光がもれていて、窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。
時計を見ると10時近い。いつの間にか朝になっていたようだ。
今日は、あの夢は見なかった。もちろん、倉敷さんと会えるはずもなく。
なぜなんだ。めちゃくちゃ残念だ。
ただ、どうやら体の調子は良くなっているようだった。
俺は自室を出て、1階に降りていく。
今日は土曜日なので、家族が家にいるはずだ。
リビングに行くと、母さんに出迎えられた。
「あら智也。今日はずいぶん早起きじゃない」
まあ確かに、俺のわりには早起きだ。
もっとも、朝早いと言いつつ10時近いから世間一般的にはそんなでもないんだけど。
「熱はもう大丈夫なの?」
「うん下がった」
体温計でちゃんと測ったわけじゃないけど、この調子からしてたぶん下がってるだろう。
でも体はともかく、倉敷さんと会えなかったからちょっと鬱だ。
「本当に? なんだか元気ないけど……。ほら、体温計で測って」
母さんは薬箱から体温計を出し、俺に差し出してくる。
俺はそれを受け取り自分の体温を測ってみた。平熱だ。
「……なら大丈夫そうね。朝ごはん、食べる?」
「食べる」
朝食後も特に何をするでもなくソファーに座ってぼーっとしていた。
まだ病み上がりで無理ができないということもあるけど、なんとなくやる気が起きない。
やはり、倉敷さん成分が足りないせいだろう。
ここは寝なおして、あの世界に行ってこようか。
ちょうど体も本調子じゃないし、それがいいんじゃね?
でも昨日一日中寝ていたせいか、全然眠くない。
仕方がないので俺は、スマホでもいじっていることにした。
電源を入れてみると、どうやら香川さんからメッセージが届いていたようだ。
〈おはよう〉
〈調子はどう?〉
〈よくなったかな〉
8時くらいに送ってきたようだ。
しかし、結構頻繁に送って来るなあ。昨日やり取りしたばっかじゃん。
俺なんて向こうから連絡がこない限りメッセージ送ることなんてほとんどないぞ。
まあそもそも、家族以外でこの連絡先知ってるの香川さんだけだけどな。
〈おはよう〉
〈もうよくなった〉
適当にそうメッセージを送っておく。
――ピロピロ――
早っ。もう返信が来た。
もしかして、常時スマホを手に持ってるとか?
まさか、依存症とか言うやつじゃないだろうな……。
〈ならよかった〉
〈それなら明後日学校行けるね〉
いや行かんし。
香川さん、やっぱり学校の回し者なんじゃねえの。
ここは適当にはぐらかしておこう。
〈もしかしたらぶり返すかもだから〉
〈冗談冗談〉
〈でも体よくなったようで安心した〉
すぐに既読になって返信が来た。
なんだよ冗談かよ。びっくりしたじゃないか。
〈それはそうと〉
〈http://………………〉
〈これ私のアカウント〉
〈よかったらフォローしてね〉
〈一般向けにも描いてるから〉
なんだこれ。漫画投稿サイトのアカウントじゃん。ていうか一般向けにもって……。
そういや昨日、自分でも漫画描いてるみたいなこと言ってたな。
俺はURLをクリックしてみる。ユーザー名YUINAとある。
イラストや漫画がたくさん投稿されていた。
しかも相当上手い。プロでも普通にいけんじゃね。
でも、投稿された作品をちょっとさかのぼって見てみると、最初の方は今と全然違ってちょっと絵の上手い小学生が一生懸命描いたような感じだ。
それもそのはず。投稿日をよく見てみると、今から5年以上前のものだ。
つまり、小学生の時には既にWEBで同人作家として活動していたということか。
結構前から長くやってたんだな。学校ではそんな素振りは全然見せてなかったけど。
というか、俺が知らなかっただけで実はみんな知ってたんだろうなあ。
…………。
それとも、
『あと、今話したことはクラスのみんなには内緒にしておいてね』
昨日言ってたあれは、割と本気だったとか?
……まあ、俺から他に漏れることはまずないし、本気だった可能性も否定はできないけどねぇ……。
俺は香川さん……じゃなかったYUINAが描いた二次創作の漫画を読んでみる。
…………。
やべぇ……。マジキュンキュンするぜ。
なにこのシズク。超完成度高いですけど。割とガチで。
スグルへの一途な思いが、これでもかってくらいに素直じゃないお姉さんな感じに描かれていてめっちゃ萌える。
いやこれ、あの美麗作画のアニメで見てみたいわー。
俺は感動のあまり思わずメッセージを送る。
〈漫画読んだ〉
〈軽く言って神〉
〈これからはYUINA大先生と呼ばせてください〉
〈勘弁してよー〉
〈普通に結菜でいいから!〉
〈では結菜先生と〉
〈だから先生はいいって!〉
そんなご謙遜を。
しかし、同い年の奴でここまでできるのか。
俺も頑張らなければ。
よし、俺も漫画描いて投稿するぞ。
いや、いきなり漫画はハードル高いか……。
じゃあ、とりあえずイラストをその辺のメモ帳に描いてみるか
……3時間後。
自信作が完成した。
もちろんカラーだ。小学生の時に使ってたクレヨンを使った。
〈俺も投稿するぞ〉
俺は完成したばかりの自信作の写真を撮って結菜先生に送る。
――ピロピロ――
〈……〉
〈いいんじゃないかな〉
おい。何だその間は。
〈漫画投稿サイトじゃレベル高すぎて通用しないってか〉
〈うん。通用しないね〉
そんな強キャラと化した主人公がパワーインフレに付いていけなくなったかつてのライバルキャラに戦力外通告するみたいな。
いやまあでも、よく見てみればモブキャラくらいの存在感でしかないな……。
第一スキャナもないし、写真で投稿とかイラスト投稿舐めてんだろ。
やっぱやめようイラストは。
――ピロピロ――
〈なら小説なんていいんじゃない?〉
〈美作君中学のとき休み時間によく書いてたでしょ〉
その手があったか。
当時思いっきり中二病に罹患していた俺は、周りの目も気にせずひとりでいろいろ書きまくってたのだ。
日直のとき日誌のコメント欄でこっそり連載してみたり。
周りからめったくそに馬鹿にされたからすぐやめたけどな!
それ以来、人に読ませることはなくなったんだっけ。
公開するとか今となってはなんか恥ずかしい……ぽっ。
でも、俺が小説書いてたとかよく覚えてたな結菜先生。
――ピロピロ――
〈美作君ならできるよ〉
なんか謎の持ち上げ来た。
いやぁ、そこまで言うのなら。
〈ご期待に応えて差し上げましょう〉
〈そうこなくっちゃ〉
〈じゃあ今度進捗状況聞かせてね〉
……なんか結菜先生、編集者ぽくね?
まあ細かいことはいいか。
ということで、俺に毎日の日課ができた。
中学以来、人に読ませることのなかったラノベ執筆。
どうせなら目指せ書籍化!
いやアニメ化!
いやいやパチンコ化!!
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