第12話 重なる夢と現

 俺は来た道を戻りつつ考える。

 しかし倉敷さんは、なんで不登校のことなんて聞いてきたんだろう。

 雰囲気からして興味本位ってわけじゃなさそうだったし……。

 あと、どうでもいいけど1回目のモテ期終わったな。しかも超あっさりと。

 やはり家まで送るべきだった!



 ほどなくして帰宅した俺は、特に何をするでもなくソファーに座ってぼーっとしていた。

 しかし、やることがないな。スマホも圏外だし……。

 倉敷さんは、こんな世界でひとりっきりでずっと生きてきたというのか?


 なんだかなあ……。


 正直、彼女が何者なのかはわからない。

 どうせ夢なんだから俺の妄想の産物か何かだろうか。

 いや、実は異世界人という線も捨てがたいな。

 ……と言うことは、ここは異世界か!?

 異世界って言うと、もうちょいナーロッパ的なものを想像していたけど、ほとんど現実に近いところもあるのね。

 そして、そこから論理的に導かれる答えがひとつある。

 俺は今、超絶チーレムでTUEEEはずだ!

 ……今のは獄炎魔法ヘルブレイズではない。火球魔法ファイアボールだ……。

 いやそれいい。マジいいわー。

 そうなったらもう現実なんて用済みだよね。

 俺の有能さに気づいて現実に戻って来いなんて今さら言ってももう遅い。俺はこの世界でチーレム無双しますので、お前らは現実で勝手に野垂れ死ね。

 いやぁ、一度は言ってみたいセリフだ。

 ……でも、他に誰もいないんじゃ無双も何もないよな?

 やっぱ、ざまぁされる役がいないとな。

 どうせならいじめっ子のあいつらもここに来ればいいのに。もちろんガチな最弱設定で。

 あと、ダンジョンな。街中にダンジョンができれば俺TUEEEな見せ場も増える。

 そしてヒロインな倉敷さんとチーレム無双三昧だ!

 そうと決まれば善は急げだ。今から獄炎魔法ヘルブレイズ級の威力がある火球魔法ファイアボールの練習に励もう。

 ……なんて息巻いてソファーから立ち上がると、


「……あれ……?」


 急に目の前が白くなっていき、体の力が抜けていく。

 おいおい嘘だろ。俺の自宅から始めるチーレム無双生活はこれからだというのに……。

 ………………。

 …………。

 ……。



「おーい智也、起きてるかー? 夕ご飯だぞー!」


 姉ちゃんの声が聞こえる。

 どうやら俺は現実で目覚めたようだ。

 あともうちょっとで俺のチーレム無双生活が始まったのにー!

 まあ、続きはまた今夜ってことで。


 1日休んでいたためか、だいぶ体の調子は戻ったようだ。

 とはいえまだ治りきっているわけじゃないので、俺は自室で病院食だ。

 第一、腹もたいして減ってないし。

 俺がベッドの上でおかゆを食べてると、スマホの着信音がピロピロ鳴った。

 なんだと思ってみてみると、SNSで誰かから友達申請が来てるようだ。

 名前をみると、かがわゆいなと書いてある。

 かがわゆいな……ああ、香川さんか。

 おかしいな。俺のIDを教えたりはしていないはずだけど。

 まあいいや。とりあえず承認しよう。


 ――ピロピロ――


 早速何かメッセージが届いたようだ。


〈香川です。さっきは急に押しかけちゃってごめん〉

〈楓先輩にID聞いて友達申請しちゃいました〉

〈もしよかったらお気軽に連絡ください〉


 姉ちゃんめ……。俺に断りなく余計なことを。

 しかし、どうしたものか。既読スルーというのもあれだしな。

 俺はとりあえず適当に返信することにする。


〈さっきはどうも〉


 ……で、あとは……?

 うむ、書くことがない。まあいいか。とりあえずこれだけ送信っと。


 ――ピロピロ――


 もう返信が来た。随分と早いんだな香川さん。


〈こちらこそ〉

〈もし美作君がよかったらだけど〉

〈これから学校帰りに毎日寄らせてもらってもいいかな〉


 えっ、毎日!?

 毎日かあ……。うーん。

 たぶんあれだよなあ。先生とかにいろいろ言われてんだろうなあ。クラス委員長だし家近いしで様子見てこい的な。

 ……いいや。大丈夫ってことで。


〈わざわざ悪いからお気遣いなく〉


 いや、あれだ。これは決して香川さんに来てほしくないとかじゃなくてだな……ほら、わざわざ仕事増やすのもね?


 ――ピロピロ――


〈そんなこといわないで〉

〈ね?〉


 食い下がるんかい。そこは引けよ。

 ……あー、もうしゃーない。


〈まあいいけど〉


〈ありがとう〉

〈じゃあ、また月曜日にね〉

〈おやすみ〉


 それと、最後にスタンプが送信されてきた。名前は知らんが熊のやつ。

 はぁ……これから香川さんが毎日来るのか……。

 まあ、女子が来てくれるのは悪い気はしないけどさ。香川さんもよく見れば結構美人だし、笑えば可愛い……。


 ……いや、何を考えているんだ。夢だろうと異世界人だろうと、俺の天使は倉敷さんだ。


 ………………。

 まあ、それはそうと。夢を早くネタ帳に記録しなければ。

 俺は食べ終わったおかゆをベッド脇の台に置き、机へと向かいノートを開く。

 えーっと。今回は川沿いで散歩……。倉敷さんはいつものストレートじゃなくてサイドテールでうなじがそそる……。

 俺は淡々とさっき夢に見た内容をノートに記していく。

 そして……、


『どうして、学校に来る気になれたの……?』

 

 あのセリフが思い起こされる。

 あれは、どういう意図で発せられた言葉だったんだろう。

 ……あの時は口ごもっちゃってうまく返答できなかったけど、もう少しちゃんと話を聞いておくべきだったかな。

 ……そのとき。


〈これから学校帰りに毎日寄らせてもらってもいいかな〉


 本当になぜかはわからない。

 突如として俺の脳裏によぎった倉敷さんの笑顔と香川さんのそれが、ダブって見えた。


 ……そういえば香川さんと倉敷さんって、なんとなく似てるような……?

 確かに、ちょっと雰囲気も近いかも……。


 いやいや、さすがに他人の空似だろ。

 それに倉敷さんは夢の中の登場人物で、もっと言えばほら、異世界人で。


 …………。


 考えるのはやめよう。

 とりあえず、ネタ帳書き終わったら歯磨いて寝よう。

 そしてまた倉敷さんに会いに行こう。

 …………。

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