第10話 デートのお誘い?

 気が付くと俺は白い天井を見上げていた。

 周囲を見ると、そこは自宅の自室。どうやら俺はベッドに横たわっているようだ。

 でも、指一本動かすことができない。体が言うことをきかない

 俺は香川さんが帰った後、夕食までの間しばし寝ることにしたのだが、どうやらまたあの夢を見始めているようだ。

 しかし最近ホントよく見るな、これ。

 まあいいか。とりあえず、起きよう。はぁぁぁぁぁ!

 俺は当たり前のようにむっくりと起き上がる。

 さてと、どうするか。

 時計を確認してみる。9時だ。

 外の明るさからして、朝のってことのようだな。

 じゃあ、学校でも行ってみるか。倉敷さんがいるかもしれないし。

 ……一応、制服を着ていくか?

 俺は長らく制服を封印してきたクローゼットの方を見る。

 …………いや、いいか。私服で。



 服を着替えた俺は一階のリビングへとやってきた。

 そこで、ソファーの上に置いてあったものに目に留まる。

 俺のスマホだ。

 自室の中を探し回ってもなかったのだが、こんなところにあった。

 この世界は現実とそっくりな割に、こういう細かいところでちょっとした違いがあるのだ。

 そう言えば、ちゃんと動くのかなスマホ。

 とりあえず電源を付けてみる。普通に起動したものの、圏外だった。

 何か重大な情報でも提供してくれるかもと期待していただけに、ちょっと拍子抜けだ。

 そんなことを考えている俺の視界の隅に映っている家電製品がひとつ。

 テレビだ。

 じゃあ、これはどうなんだろう。ちょっとつけてみよう。

 俺はテレビの電源を入れてみる。すると、ザーザーと砂嵐が映った。

 そう言えば俺が小さな子供だった時のテレビには、たまにこんなのが映っていた記憶がある。でも、今のテレビには砂嵐は起こらないはずだ。

 まあ、それは現実での話で、この世界ではやっぱり勝手が違うようだな。

 ……しかし、なんとなく気味が悪いな。そのうち異界からのメッセージ的なものが受信されんじゃないかこれ。

 ちょっと背筋に寒々しいものが走る。これは消しとこう。

 


 俺は玄関から外に出る。

 蒸し暑い。たしかこの世界では、今は9月だったか。

 この世界なら無免許もくそもないだろうし、親の車でも運転していこうか。クーラーガンガン効かせて。

 でも、鍵がどこにあるのかもわからん。自分のスマホの置き位置さえ現実と勝手が違うのに、どうやって探せばいいのか。

 ……いろいろ考えるとめんどくさいな。普通に歩いて行こう。



 ほどなくして上ヶ崎高校に到着する。

 確か倉敷さんは図書室にいるはずだ。俺は校舎に入ると、まっすぐ図書室へと向かう。

 相変わらずしんと静まり返った廊下を通って図書室にたどり着いたものの、扉を開けても誰の姿も見えなかった。

 おかしいな。この時間なら倉敷さんがいるはずなのに。

 もしかして教室の方か?

 俺は1年10組の教室に向かった。しかし、10組の教室にもいない。

 どうしたんだろう、ここでもないってことは学食とか体育館とか?

 

 その後、学校中を探してみたがどこにも倉敷さんはいなかった。

 もしかしたら、今日は学校には来ていないのかもしれない。

 あるいはそれとも、倉敷碧なんて全部俺の妄想に過ぎなかったとか?

 いずれにしろ会えなかったのは残念だ。

 ……倉敷さんがいないのなら学校なんていても仕方がない。他の場所に行こう。

 とは言え、街の中に何か変わったものがあるわけではない。人が一人もいないだけで、それ以外はほとんど現実と同じだからな。

 まあ、ちょっとした気分転換ということで街の中を散歩でもするか。

 俺は学校からほど近い川沿いの遊歩道を歩くことにした。

 猫だの鳥だの生き物の姿は見えないが、川のせせらぎの音は普通に聞こえてくる。あと、ちょっとだけ涼しい。

 はぁ……。でもやっぱ、なんだなあ。倉敷さんに会えると思ってたんだけど。

 ……と俺が項垂れていると、そこに、


「みーまさっか君っ!」


 突然後ろから声をかけられた。


「えっ……倉敷さん!?」


 振り返ってみると、そこには小悪魔的な笑顔を浮かべた倉敷さんが立っていた。

 それも私服だ。白いTシャツにデニムパンツ……だったっけ? そんな感じの名前の短パン。それに髪型はいつものストレートではなくサイドテールにしている。

 一言で言おう。可愛い。軽くマジ天使。

 それにしてもなんでこんなところに。それも私服で?


「学校はどうしたの!?」

「学校?」


 何のことだとばかりに首をかしげる倉敷さん。


「学校って言ったって、今日は土曜日じゃない。学校休みだよ」

「あれ、そうだったっけ……」


 あー、そういえばそんなことも言われてたような……。

 ていうか、家でスマホ画面見たときに日時表示されてたろ。気付けよ俺。


「もしかして美作君、今日が平日だと間違えて学校行っちゃったとか?」

「そ、そんなわけないって! だって俺私服だろ。はははっ」

「ふふっ、そういうことにしといてあげる。それより、こんなところで奇遇だね。美作君も散歩してるの?」

「あ、うんうん、そんなとこ」


 本当は君に会いに来たのさ。

 ……なんて言いたいのはやまやまだが、このセリフを言うにはもうちょっとオサレな格好をすべきだな。

 よれよれのTシャツにいつ洗ったのかわからんジーパンだもんな。

 

「ふぅん。じゃあ、せっかくだし一緒に歩いてみる?」


 笑顔の倉敷さんがそう言った。

 こ、これは!

 もしやこれはデデデデ、デートのお誘いと受け取ってもよろしいのか!?


「……どしたの美作君? なんかちょっと固まってない……?」

「い、いや、そんなことない。よし、い、一緒に、散歩しようか!」

「うん!」


 こうして、この美作智也の一世一代の勝負が始まった。

 ……何のだ、というツッコミは無しにしていただきたい。

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