第102話 おぉ、排尿。

「紙オムツに排尿してみてください」


 研修でそう言われたものの抵抗があった月猫である。

 が、「体感したほうがいいですよ」というコメントを頂き、挑戦致しました! 


 紙オムツカバーに使っている方はオムツ交換の練習に使いたいので、尿取りパッドだけを自分の下着に挟んでスタンバイ。

 すると、尿意は来ても尿が出ない。いや、出せない。私の中の何かが『ここにしてはいけない』と、激しく抵抗しているのだ。


 結局、一回目の波では排尿できず、水を飲んで次の尿意を待つ。そしてとうとう、大きな波がやって来た。

「したい! う~ん、でも出せない。 したい! う~ん、でも無理」

 もうトイレで普通にしようかと思ったが、そこはグッと堪えて紙オムツにするぞ~と踏ん張る。


 そして高齢者の方と同じように寝ながら排尿してみようと、床にペットシーツを敷いてスタンバイしてみた。

 尿意は爆発寸前だ!


「出ろ! 出るんだ! 尿~~~」


 ……出ない。

 嘘でしょ。

 いつもなら、尿を我慢できない私が我慢している。

 どうした、私の体?


 仕方がない、トイレで立ったまましよう。

 パットから尿が漏れたら大変だと思い、ズボンを降ろし便器前に仁王立ちしてみた。


 意識を尿道に全集中し、くぅ~と変な感じになりながら、ようやく排尿。

 だが、膀胱に尿が溜まり過ぎていたので、尿量が多い(@ ̄□ ̄@;)!!

 太ももに感じる生温かいモノ。パットと鼠径部の隙間からも尿が流れ始めたのだ。


「はぁぁぁぁぁ~~~。このままだと、床が汚れるぅぅぅぅ~~~~」

 ということで、パットをしたまま便器に座る。もちろん、尿は止まらない。


「ふぅ。床は汚れなかったぜ。パンツはずぶ濡れだがな…… 情けない……」


 大きなパットだから、私の尿を全て吸収してくれると思っていたが、意外とそうでもなかった。しかも、凄く重い。(当たり前か)


 この経験でわかったことは、排尿後、パットの交換を早くしないと気持ち悪いということ。そして、トイレで排尿・排便ができないというのは、情けないとか虚しいとか悲しいとか諦めとか、いろんなに支配されるということ。

 

 私だって、自分の体がこんなに紙オムツで排尿することを拒むとは、思いもしなかった。結局、寝たままは体験できなかったし……


 戦後すぐの頃の介護の話を祖母に聞いたことがある。

「ばあ様二人寝たきりになってよ。おらんどは、朝早くから夕方ばげまで畑仕事してるからな、褥瘡できで、そこから蛆わいでひでぇもんだったんだ」


 幼い私は「えっ! 蛆!」なんて、寝たきりのばあ様の気持ちより蛆の方に反応していた。

 今なら想像できる。


 動けない体。糞尿にまみれ、褥瘡部分に蛆がわき死へと向かう恐怖と悲しみ。

 一体どれほど、絶望の時間を過ごしたのだろうかと……


 今、介護施設があちこちにあるのは、とてもありがたいことなのだと思う。だからこそ、介護保険制度が崩壊しないことを祈る。



 


 

  


 

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