第6話 女二人で……


 私の呟きを聞いた桂子が

 突然、左腕をぎゅっと掴んだ。

 そして、すがるような目で

「ねっ、しよう」

 そう言った。


 ……えっ? 

 するって何を?

 ま・さ・か――


 いやいやいや、あり得ない。

 少しおしっこを漏らしてしまった私の体は

 残りの尿意を我慢できる程度に回復していた。

 今さら道端にしゃがみ込み『おしっこ』をするなんて……


 そんなことしたら、恥の上塗りではないか。

 

「アパートまでもう少しだし、もう大丈夫」


 そう言った私を、桂子は泣き出しそうな顔で見つめる。

 そして、また呟いた。


「ねっ、しよう」


 ここでようやく桂子の心境を理解した。


 そうか、桂子もおしっこが我慢の限界なんだ……

 でも、どうする?

 前を歩く4人が振り返ったら

 おしっこをしている姿を見られるぞ。

 さすがにそれは嫌だ!

 でも、桂子も切羽詰まっているし……


 プライドか?(もう、漏らしているけど)

 友情か?

 究極の選択だ!!!


 私は決断した。

 「わかった。あそこでしよう」

 空地の草むらに二人、前を歩く4人に気づかれないように入る。

 悲しいことに身を隠すようにしゃがんだとて、冬を過ぎたばかりの草むらはスカスカで二人のお尻は周りに丸見え状態。


 どうか、どうか

 前を歩く4人が振り返りませんように……


 神様に祈った。

 心から祈った。


 なのに

 恵美子が振り返る。

「ぎゃー、あんたたち何してんの~?」

 深夜に響く大きな声。

 つられて、三人も振り返った。


 あぁ、終わった。

 でも私のおしっこは、止まらない。

 桂子のおしっこも長かった……


 これから先、ずっと、ずっと飲み会の後におしっこを漏らし、空き地でした女の話が語り継がれる事であろう……


 これが私の忘れたい記憶である。

 

 

 

 

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