第5話 忘れたい記憶。

 今回のお話は

 梅ちゃんではなく

 私の忘れたい記憶です。


 ♢    ♢


 こんな話は、心のうちに秘めて、秘めて

 誰にも打ち明けず死んだ方がいいのかもしれない。


 でも、年を重ねると誰かに聞いて欲しくなる。

 二十歳の私に起きた忌まわしいあの出来事を……


 三月。

 短大を卒業しバラバラになる私たち6人は

 夜の街に飲みに出かけた。


 酒を飲み、歌い、しゃべり

 とにかく楽しかった。


 店を出る頃、トイレに行きたくなったが

 みんなを泊めてくれる友だちの家は

 タクシーですぐの距離にある。

 『まぁ、大丈夫』

 と判断し店を出た。


 ……が、タクシーが捕まらない。

 タクシーが通りを走ってもいない。


 酔っぱらったみんなは

「歩いていこうぜ」

 なんて盛り上がっていた。


 私は

『やばい、アパートまで持つかな』

と自分の尿意を心配する。


前を楽しそうに歩く4人。

おしっこを我慢し、口数を少なくして歩く私。

そして、私の隣に桂子(仮名)


前を歩く四人の話を聞きながら

アパートまでもう少しという所で

事件は起きた。


恵美子(仮名)の話が面白すぎた。

思わず大爆笑する私に、悲劇が……


おしっこを我慢している時に

腹圧をかけてはいけない。

それが漏らさないための絶対条件だ!


なのに、思わず笑ってしまった。

そして、生温かいものが太ももを流れ落ちる。

慌てておしっこを止めたが、後の祭り。

漏れたものは戻らない。

時も戻らない。


あぁ、泣きたい。

あぁ、恥ずかしい。

あぁ、このまま消えてしまいたい。


いろんな思いが交錯する。


でも、この状況を隠し通すことができないと判断した私は

隣を歩く桂子に

「おしっこ漏らした……」

そう呟いた。


 続く。

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