第4話 こんな日に。

 刺すような日差しが連日続いていたが、今日は雨が降っている。

「こんな日に出かけてなくても」僕は恨みがましく言った。

 

「なんか、平日だけど休みの日みたい。」彼女は傘をひらひらと回しながら空を見ていた。

「結構濡れてるんですけど」

僕は彼女の背中に訴えていた。

「なに?」と振り返って更に傘を早く回した。他人ごとなら可愛い笑顔だろうが僕にはちょっと意地悪な素の部分がわかるだけにちょっと腹立たしい。

 雨に濡れること以外は心地よい日なのに。


 それから、電車に乗り十五分ほどで街に着いたときには傘は邪魔になり、僕が二本持っている。

 前を歩く彼女は僕の顔を見て、傘を見る。三度目には僕が「ちゃんと持ってる」と言うと「かして」と傘を一本手に取るとぶらぶらさせながら彼女は歩いていた。

 空は曇ったまま気温も上がらず街を歩くには程良かった。心斎橋から難波に向かって商店街のウインドウを右左と眺めて歩いた。

 人通りが多く感じるようになると彼女は僕の左側少し後ろに並んだ。


 彼女はどこかを見るとはなく「人魚って映画とかでお風呂に入ってるときがあるけど海水でなくてもいいのかな?お塩とか入れてるのかな?」と、難しい顔をして話はじめた。

さらに「でも、海に住んでるのとか、湖に住んでるのもいるから人魚は淡水魚と、海水魚のどっちにもいるのかな?うなぎとか、鮭みたいにどっちでも大丈夫なのかな?」

 彼女は濡れた足元を見ながら考えていた。

  

 僕は「海水だろうが淡水だろうがどっちでも大丈夫。人魚は……」そう言いかけて「どうなんだろうね」と疑問に同意しておく事にした。


 こんな日に出かけて来たんだから。

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彼女の観察記 はる @hARu1212

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