第20話 消える

 パラキシアでの強敵その3


「この短期間で2回も死にかけてるからもう勘弁かんべんしてほしいわ」


「どうする?逃げる?」


 カルミアが小声で提案してきた。


「いや、多分無理だと思う。召喚魔法か、認識阻害にんしきそがい系の固有スキルか…どっちにしても逃げきれないんじゃないかな」


「まぁ、そう考えるのは当たり前だよね。ちなみに惜しいけどどっちでもないよ。逃げれないのは正解だけど」


「親切にどうも」


「私の召喚魔法でトウジだけなら逃がせると思うけど…」


「二度とそんなこと言うなよ。したら許さないから」


「…ごめん」


 初めて見せたトウジの怒りの表情にカルミアが驚き、謝る。


「そろそろいいかな。君たちの寸劇を見にきたわけじゃないんだよ」


「…カルミア、ウル太郎呼んで」


 敵が1人の時、あまり多いとむしろ統率が難しくなるため、ウル太郎だけを呼ぶ。


「わかった」


 直後、ウル太郎が召喚される。その両手に一対の長い爪の形をした武器、シルバークロウを装備して。


「何回見てもかっこいいなそれ」


 これは亀の素材を売った金で新しく買ったものだ。二本足で立つウル太郎には、素手より武器があった方がいいと思って買ってみたら使いやすいと喜んでいた。


「よし、準備万端。じゃあいくぞ」


 冬志も背中の剣、真っ黒に輝く剣を抜き、臨戦りんせん体制に入る。


 その間、わずか2秒。


「僕を相手にするなら普通もうちょっと仲間を呼ぶべきだよね。そんな当たり前のこともわからないの?」


「こう見えて対個人戦の最強メンバーなんですけど」


「それは悪いことを言ったね。…後ろに敵いるよ」


 男が後ろを指差す。カルミアのみが後ろを確認して、冬志たちは男から視線を外さない。


「グラ」


 男の言う通り敵はいたらしく、カルミアが火魔法で倒す。


「そうそう。それが正解だよ。全員後ろ向いてたらその時点で君たちの負けだったよ」


 男が嬉しそうに笑い、拍手をする。


「もう敵はいないし、そろそろ始めよう」


 そう言った直後、瞬きした瞬間に男の姿が目の前から消える。


「透明になるスキル…!カルミア、やつの位置わかる?!」


「わからない!反応が見つからないの!」


 どういうことだ。なぜ反応がない…


「それより、どうやって見つける…?足音とか…」


 直後、背中に激痛が走り、うずくまる。


「よそ見しちゃだめだって言ったじゃないか。敵を見失うと一方的に攻撃されるのは当たり前だよね」


 背中を薄く切られたのだ。


 突然冬志の背後に現れた男にカルミアたちが驚く。


 それ以上に、足音もせず、ウル太郎の嗅覚きゅうかくにも引っ掛からずに近づかれたことに驚きを隠せない。


厄介やっかいだなぁ、まったく」


「ほら、僕はここだよ。ちゃんと相手を見なよ」


 声が聞こえ、男の方を見る。


 こちらを見下ろしている男は、またしても瞬きの間に消えていなくなる。


 痛みをこらえて立ち上がる。『闘争心』を発動し、痛みをやわらげる。前回のような事にはなりたくないが、そうは言ってられない。


「ここだって言ってるでしょ。人をバカにするもんじゃないよ」


 背後からそんな笑いをふくんだ声が聞こえ、すぐ後ろを見る。男は見当たらない。


「…きゃっ」


 カルミアが短い悲鳴ひめいをあげる。


 そちらを向くと、男が後ろからカルミアに抱きついていた。


「何度もよそ見はダメだって言ってるのに…ちゃんと反省をいかさないからこんなことになるんだよ」

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