第12話 パラキシアの勇者

「あ、悪魔あくまって…」


 まさか、俺のうわさがここまで広がってるのか?


「あらぁ、お仲間が増えちゃって。勇者が応戦おうせんに来たんじゃ流石さすがの私も引くしかないわね。それじゃあ、バイバイ。カルミアちゃんと、男の子。これからもカルミアちゃんと仲良くしてあげてね」


「え、ちょっと待て…あー…」


 女はそう言い残し、黒いけ目に消えていった。


「お前たち、大丈夫だったか?」


「あ、うん大丈夫。ありがとう」


 勇者を名乗った男が弓を背中に背負い、こちらへ来る。顔立ちはよく、背丈は175cm程だ。第一印象はさわやかなイメージだった。


 …だっただけだ。


 カルミアにお礼を言われた瞬間、男は固まり、


「僕の名前は梶遼馬かじりょうま。あなたの名前は?」


「えっと、私はカルミアで、こっちはトウ…」


「カルミアか、いい名前だ。僕のもといた世界ではカルミアは優美ゆうびな女性という意味がある。まさにあなたに相応ふさわしい名前だ。あなたのご両親はいいセンスの持ち主だろう」


「せんす…?」


「はいはい、ナンパはそこまでにしてくれませんか」


「…何?君。邪魔しないでくれる?空気も読めないの?」


「相手の気持ちも読みとれないよりはマシだから」


「誰のおかげで今生きてると思ってるんだよあのままだと君は死んでて、そこに僕が助けにはいったんだよ」


「それはありがたいと思ってるよ。でも」


「?」


「その子に悪さはさせない」


 冬志の周りの温度が急激に下がる。


 代わりにカルミアの周りの温度が急激に上がる。


「っ!まったく、人聞きの悪い言い方はやめてくれ。心配しなくても取って食ったりしないよ。僕の目的は君と同じだからね。勇者くん」


「知ってたのか」


「まあ、4大国の間で必要な情報は共有されてるからね。王様が呼んでるから城に出向いてくれ」


「…わかった」


 ヘリコニアでの王様の態度を考えると、正直行きたくないが、仕方ない。疲れきって傷だらけの魔物たちに回復薬で治療し、人気のない場所で休ませる。


「俺も帰って休みたい…」


 異世界来て一番濃い1日だったんじゃないだろうか…


 *


「まずは、礼を言おう。魔王の手先を撃退してくれたこと、感謝する。ヘリコニアの勇者」


「あぁ…はい。どういたしまして」


 その手先がうちの仲間を狙ってきたなんて言えない


「時にお主、ヘリコニアでの噂。あれは本当か?」


「噂って…あ」


 夜中の悪魔の噂の事だろう


「いや、違います。現に今、昼間でもピンピン活動してますし」


 そう言う冬志の顔は青く、汗とめまい、倦怠感けんたいかんが襲っている。完全に熱中症だ。今にも倒れそうになってる。


「ちょっとトウジ、大丈夫?」


「大丈夫。ちょっとめまいと頭痛がするだけ」


「大丈夫じゃないでしょうそれ!申し訳ありません国王陛下こくおうへいか。今日は帰らせていただきます」


 カルミアの肩を借り、城を後にする。


「そうか、すまない事をした。あぁ、用件は手紙に書いて宿に送っておく」


「ありがとうございます」


 *


 1週間後


「やっと回復したね」


「うん、ありがとう」


 1週間ずっと看病してくれたカルミアには本当に頭が上がらない。


「…それで、手紙の内容は?」


 あの日の翌日に届いた手紙の内容は、まだ二人とも確認していない。カルミアが封を切り、手紙を取り出す。


「えっと、『お主を見込んで頼みたいことがある。この国の周りには5つの村がある。2日前からその内3つの村の近くで突如とつじょ魔物が大量に出現するようになった。食料の輸送も難しく、リョウマ殿と協力し、できればあと2週間程でなんとかしてほしい。』…」


 一瞬時間が止まる


「えっと…俺、何日倒れてたっけ」


「1週間」


 二人が顔を見合わせる。


「あと1週間じゃねえか!」

「あと1週間じゃない!」


 急いで準備をして部屋を飛び出した。

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