第7話 新しい勇者が派遣されてきた

「お前が先に召喚された、マミヤトウジか」


(…あっ、関わると面倒なタイプだ)


 王様といい、チンピラといい、からんできたやつにまともだった試しがほとんどない。というか今回の場合、おそらくその王様が関係してるだろう。


「そうですけど、初対面の人に『お前』はないんじゃないですかね」


 俺も大概たいがいだったわ。


「そんなことはどうでもいい。俺は勇者としてこの世界に呼ばれた。小倉啓一おぐらけいいちという…お前、魔王を倒す気はあるのか?」


「まあ、ありますよ。家に帰りたいし」


「そうか、じゃあ代わりに俺が魔王を倒してやるよ」


 じゃあの意味知ってんのかコイツ。ちょっと腹立ってきたな。


「いえ、結構です。俺はこの人と自分たちの手で魔王を倒す約束をしてるんで。」


 それにしても…


「その大層たいそうな装備どうしたんですか?召喚されたの俺より後だと思うんですが」


 おそらく今日か昨日召喚されたばかりだろう。俺の話を王か誰かに聞いて会いにきたんじゃないだろうか


「ん?これは召喚された時に国王殿からゆずり受けたものだ」


 わぁ、随分ずいぶん歓迎されたんですね。


「それで、何の要件ですか。まさかさっきの事伝えるためだけにこんな時間まで張ってた訳じゃないですよね」


 隣でカルミアが笑いを堪えている。それを見て勇者様、顔を真っ赤にして、


「もちろんだ。お前、街で噂されているぞ。夜中の悪魔と言っているのか」


「いや俺が言い出したんじゃないんですけど…」


「とにかくだ。一応勇者として召喚された者がそんな噂を立てられるとは…恥ずかしくないのか」


「いや別に。言わせておけばいいじゃないですか」


「こんな奴が勇者に選ばれたのか…おい、勝負しろ。」


 来たばかりだろうに、血の気が多いな。城の人らに煽てられたか、元々の性格か。どうでもいいや。


「いいけど。ルールはどうする?」


「最初に降参した方の負けでいいだろ」


「わかった。木剣持ってくるから待ってて」


「武器はそのままで」


 …あぁ、こいつ相当拗こじらせてるな。


「いいよ」


 ギルドの外はそれなりの広場がある。幸いまだ周りを歩いてる人はいない。また変な噂増えるのは嫌だし、今のうちにぱぱっと終わらせちゃおう。


 外に出ると、勇者は背中に背負っていた大剣をさやから抜き、こちらに構えた。トウジも腰に提げている直剣を引き抜き構える。ある程度の距離を保ち相手の出方をうかがう。


 初めに動いたのは勇者だ。大剣を高くかかげて走って来る。隙だらけだ。相手が振り下ろすタイミングで横に避ける。勇者が反動で動けない間に距離を詰め、押し倒そうと左手を伸ばす…が、


「なっ…んだそれ!」


 勇者の着ていた鎧が突然光だし、10センチほどもある長い針が無数にトウジへ放たれた。かろうじて避けるが、伸ばしていた左腕に2本突き刺さる。


 引き抜こうとするが、どうやら返しがあるらしく、無理に引くと激痛が走る。


「まったく悪趣味な鎧着てんな。それを託したやつ性格悪そう」


 と嫌味を吐くと、


「国王に対する侮辱ぶじょく…お前こそ随分性格が悪いな」


「その国王に対する厚い信頼なんなの。何吹き込まれたんだよ」


 今度はこちらから攻撃を仕掛ける。体勢を低くし、最高速で近づく。鎧が光り、針が飛んでくる。それを全てかわす。かすりはするが、刺さらない。勇者の表情に驚きと焦りが見える。どうやら針を連続して飛ばすにはクールタイムがいるようだ。


 勇者を押し倒し、スライムをテイムした時にちゃっかり手に入れていたスキル『粘性ねんせい』を発動。物理攻撃を無効化する。全身がスライム状になるため動きが遅くなるのが欠点だが、


つかんだ後なら関係ないな」


 再び飛んでくる無数の針はスライム状の体にダメージを与えられない。勇者の首元に刃を近づける。


「お前の負け」


「くっ…なんだそれ、ずるいだろ!」


「そんな装備着て言われても…あ、」


 日が昇り始めた。


「とにかく、もう絡んでくるなよ!」


 そう言い残し、急いで宿に帰ったのだった。


 *


「もう、置いていかないでよ」


 宿に着き少しして、カルミアが荷物をぶら下げ帰ってきた。


「…なにそれ」


「戦利品」


「まさか、あの勇者のやつ?」


「そ」


 お金や回復薬などをたんまり剥ぎ取って来たらしい。


「どうせなら装備も貰っとけばよかったのに」


「だって君も私もあんな重い物持って戦えないでしょう」


「…それもそうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る