愛しているからこそ -6-
そうして翌日。
俺たちは再び教会を訪れた。
雪は止んだが道路が雪に埋もれていて歩きにくい。
今日で終わりにしたいものだ。
……ただ、結末は望んだものではないだろうが。
「アサギさん、荷物、重たくないですか?」
「あぁ、平気だ」
今日は朝からいろいろと準備をしてきた。
ちょっとした料理が数種類、俺の持つ大きめのバスケットの中に入っている。
あとは、どう納得させるかだな。
教会へ着いて、門番に話を通せば、いつものように司祭のもとへと案内してくれる。
初日に通された大きめの部屋だ。
たたっ斬られたテーブルは別物に置き換えられていた。
「ようこそ。雪の中、大変だっただろう? さぁ、暖炉のそばで温まってくれ」
「何度もすまない。そろそろケリを付けたいと、こちらも思っているのだがね」
ザックハリー司祭とハルス司祭がそれぞれツヅリ、俺へと声をかける。
ザックハリー司祭はツヅリの方が、ハルス司祭は俺の方が話しやすいようだ。
「今、温かいハーブティーを用意させるよ」
「それには及びません」
ザックハリー司祭の申し出を断って、俺は大きなバスケットをテーブルの上に置く。
「今日は、こちらが用意した物を摘まみながら話を聞いてください」
言いながら、俺はバスケットの中からベーグルサンドを取り出す。
ハムとレタスとトマト、そしてタマゴサラダを挟んだミックスサンドだ。
「こちらのベーグルサンドは、塩を少し振って召し上がってください。美味しさが際立ちますので」
そして、小瓶に入った塩をサンドイッチの隣に置く。
ザックハリー司祭は、俺の動きを眺めながら、眉間にシワを寄せていた。
何をするつもりかと、訝しんでいるのだろう。
なんてことはない。ただの食事会だ。
「いただこうかな。昨日のスモークチキンも美味しかったからね」
「僕は、ブルーベリージャムの方が好みだな」
「でしたら、こちらのバラのジャムサンドをどうぞ」
小さくカットしたベーグルに、バラの花弁が入ったジャムを添えて差し出す。
「ただし、こちらのジャムは香りを楽しむためのものですので甘みはほとんどありません。必要なら、こちらの砂糖を振りかけて甘みを調節してください」
そして、ジャムの隣に砂糖の入った小瓶を置く。
両司祭は、それぞれに塩、砂糖を振りかけて食べ、美味しいと言ってくれた。
「では次に、フライドサツマイモです」
「アサギ君、食事はもういいから、本題に――」
「えっ!?」
食事を止めようとしたザックハリー司祭の言葉に、ツヅリが悲しそうな声を漏らす。
「もう、おしまいですか……おイモ、とても美味しいですのに……」
「う……いや、まぁ……食べながらでも、話は出来るかな」
「はい。美味しいものを食べながらですと、会話も弾みますよね」
ツヅリからサツマイモを取り上げるなど、たとえ神でも不可能なのだ。
「サツマイモには元来の甘さがあります。ですが、それでは足りないと思う場合は、塩、または砂糖を振ってお召し上がりください」
「甘いものに塩を?」
「甘いものにさらに砂糖を?」
両司祭が表情を曇らせる。
塩に懸念を表したのがザックハリー司祭で、砂糖に表情を曇らせたのはハルス司祭だ。
「どちらも、サツマイモを甘くする調味料ですよ」
「いや、しかし……」
「一方はあり得ないだろう?」
互いに、片方はありだが、もう片方はあり得ないというスタンスだ。
どちらも、ありなんだがな。
「では、こうしましょう」
双方が難色を示しているので、俺は折衷案を採用する。
新しい空の瓶を取り出し、その中に砂糖と塩を同量ずつ入れ、ブレンドする。
「なっ!?」
「何をしているんだ、アサギ君!?」
司祭二人が俺の暴挙を止める。
だが、少し遅く、空だった小瓶には白い調味料がたっぷりと入っていた。
「では、こちらを振りかけて召し上がってください」
「……美味しいのかい?」
「さぁ? たぶん、美味しくないでしょうね」
試しに自分で使ってみる。
サツマイモのフライに砂糖塩を振りかけてみるが……甘さとしょっぱさがケンカして舌の上でやかましい。
サツマイモのよさを完全に殺してしまっている。
「これはダメだ。口直しにハーブティーをいただきますね」
と、持参したハーブティーをカップに注ぎ、砂糖塩を振りかけて飲む。
……うん、吐きそう。
「……塩が、邪魔です」
「当たり前じゃないか。何がしたいんだい、アサギ君は?」
「甘いものだけじゃなくて、サラダも用意したんです。振りかけてみましょう」
レタスとキュウリとプチトマト、そしてポテトサラダが入ったグリーンサラダに砂糖塩を振りかけてみれば、案の定――
「砂糖が邪魔ですね」
「言われなくても分かっている。何がしたいのだ、君は?」
ザックハリー司祭に続いて、ハルス司祭まで呆れ顔になってしまった。
そう、まったくもって分かりきっていることだ。
呆れてしまうよな。
「あなた方がやっているのは、こういうことなんですよ」
砂糖と塩が混ざった小瓶を、両司祭の前、ちょうど真ん中の位置へ置く。
「混ぜちゃダメなんです、あなた方は」
二人の言動を思い返せば自ずと分かる。
「あなた方はそれぞれ、砂糖と塩の概念なんですから」
「砂糖と塩の――」
「――概念?」
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