第15話 貴女の実力を見せてもらおう
「エルトニクス、大声を出すんじゃありません!」
そ、そんなこと言われても……。
いや、待った! 確かにいわゆる「ゴリウー(ゴリラ的ウーマン)」を「ゴリラ」と見間違いかもしれない。
アマゾネスなんて枕詞は付くけど、どう考えてもエルフの女王がゴリラな訳がないし。
改めて僕は女王に視線を向ける。
牙はゴリラ。筋肉はゴリラ。燃える瞳は原始のゴリラ……あとバナナ食べてる!
「やっぱりゴリラだよ、これぇ!!」
再び僕の声が木霊した。
「だから静かになさい。女王様が興奮するでしょう……」
僕のツッコミを、カートさん静かにが制する。
でも、その物言いはゴリラだって認めてますよね……。
「女王様は、禁じられた力の使い手です。あの方を怒らせれば、私でも貴方を庇う事はできませんよ」
僕の問いを無視して、カートさんが注意を促す。
でも禁じられた力って……なんだろう、それは?
僕の家系にある『勇者の力』みたいなものなんだろうか?
「生存競争の厳しい『緑の帯』で、我らの種族を守れたのは全てその力のおかげ……ですが、その為に何度となく力を使用した結果、女王様はあの姿となられました」
え、それって呪いの類いじゃ……。
でも、なるほど……生粋のゴリラという訳じゃないんだ。
そうして見ると、なにやら女王さまが神秘的なゴリラに見えてくるから人っていい加減だな。
「随分と騒がしい人間を捕らえて来ましたね、カート隊長」
玉座の斜め後ろに控えていた、眼鏡のアマゾネス・エルフが歩み出てカートさんに声をかける。
その彼女は、服装が他のエルフよりもキッチリしていて、『出来る秘書』といった雰囲気を醸し出していた。
くいっと眼鏡を上げると、秘書風エルフは僕の事を値踏みするようにじろじろと眺めてから眉をひそめる。
「……おかしいですね。女王様はどう思われましたか?」
「ホッ、ウホホッ、ホッホッ!」
「やはりそうですか……」
女王さまと秘書さんは、何かを確認するように言葉(?)を交わす。
というか、あれで意思の疎通はできているんだろうか?
「カート隊長、その女装少年はなんですか?
秘書さんの言葉に、僕の腰に下がっていた
(私が主様の力を隠蔽してるのも見抜けない癖に、なにあの言い方! ちょームカつく!)
憤慨したハミィの声が念話で流れ込んで来るけど、押さえて様子を見るように伝えておく。
下手に警戒されるよりは、油断してもらっていた方がいいからね。
「この者は、私の部隊の愛玩用として連れて帰って来ました。一応、女王様にお目通しをと思いまして」
そうなの!?
まぁ、僕の見た目からして戦力として目をつけられたとは思わないけど、流石にペット扱いで拐われたというのはショックだ。
「ホホッ、ウホッ!」
「『カート隊長は、相変わらず独特の趣味をお持ちだ』とおっしゃっています」
女王の言葉を秘書さんが訳する。
「ウホッ」
「『愛玩用として飼うのは構わないけれど、しっかり躾はするように』とのことです」
「はっ!」
気合いの入った返事を返しながら、カートさんは頭を下げた。
そして、ゆらりと僕の方を見る……。
怖い、すっごく目が怖い!
補食されそうな小動物の気分に襲われた僕は、伸びてくるカートさんの手を払って距離を取る!
「……なんのつもりですか、エル。おとなしくしていれば、優しくしてあげますよ?」
一瞬、怒りのような物を見せたカートさんだったが、言葉の後半は諭すような響きになった。
どうせ逃げられはしないと思っているから、余裕なんだと思う。
だけど、向こうのペースに飲まれっぱなしではいけない。
「……はっきり言って不愉快です」
「不愉快?」
「そうです! こんな格好をさせられてますけど、僕だって男なんだから、ペット扱いなんで我慢できるわけないじゃないですか!」
僕の言葉に、その場にいたエルフ達は意外そうな顔をする。
そして、ニヤリと笑った。
「そうですか、
この森の中で、自分達のペットにならないなら死ぬしか道はないのだよと、暗にプレッシャーを掛けてきているのが感じられる。
しかし、それを逆手に取れば……。
「僕と勝負してください! そして、僕が勝ったら自由にさせてもらいます!」
勝負を持ちかけられたエルフ達は、はじめはキョトンとしていたものの、やがて口元を隠してクスクス笑い始めた。
でも、そうなるだろうね。
向こうからすれば、ウサギが獅子に挑戦してきた様にしか見えなかっただろうから。
「わざわざ痛い目を見なくてもよいでしょうに……ですが、それで自分の立場が理解できるというならいいでしょう」
わがままを聞く年長者みたいに頷いて、カートさんは両手を広げて見せた。
「私の部隊から十人を選抜します。その十人を全て倒せたら、貴方を自分の身にしてあげましょう」
よし!乗ってきた!
これでのらりくらりと試合を続けておけば、だいぶ時間を稼ぐ事ができるぞ!
「オホホホッ、ホホッ!」
「『どうせなら広い所で皆にも見せてやろう、闘技場を開放する』との事です」
闘技場、そんなのもあるのか。
「ふふ、皆の前で誰がご主人様か、じっくり教えてあげましょう。そして……」
「貴方の真の力を見せてくださいね」
……やっぱり、この人は僕が隠している力に、薄々気がついてるようだった。
──移動した先の闘技場。
そこは、巨大な木の切り株を利用して作られていた。
直径二十メートルほどもある、この円形舞台の元となったのは一体どれくらいな木だったんだろう……想像するとロマンを掻き立てられる。
でも、どうやらこの舞台上はそれほど夢のある場所じゃないらしい。
僕に向ける客席からの視線は残忍な期待に満ち、あちこちに血痕がこびりついた、
警戒し、かつ気負い過ぎないように精神を集中させる。だけど、そんな僕を現実に引き戻すように、闘技場の客席から喚声が上がった!
歓声のその先には……
「お待たせしました、エル。こちらが私の部隊の精鋭達です」
そう告げるカートさんを筆頭に、合計十人のアマゾネス・エルフがズラリと並ぶ。
一応は僕を殺さない為の配慮なんだろう、全員が木で出来た山刀を持ち、どうやら接近戦のみで戦うみたいだ。
「貴方は剣を抜いてもいいですよ」
そうカートさんは言うと、ハミィが呼応して飛び出そうとするのて慌てて止めた。
別に、殺し合いをする訳じゃないんだからさ!
「オホホホッホホッ!」
「『よくぞ集まってくれました、皆の衆。これより、拐われてきた女装少年が自らの自由を勝ち取る為に、カート隊長率いる舞台十人に戦いを挑みます!』」
相変わらず女王様の言葉を秘書さんが訳しているけど、そこまで長い台詞言ってないよね?
「『女装少年がどこまで奮戦するか、それともどんな痴態をさらすのか、是非とも楽しんでいくといい!』……以上です」
秘書さんの言葉が終わると同時に、再び喚声が上がる!
そうしてその喚声に推されるように、向こうの十人の中から一人が僕の方に歩み出してきた。
パッと見、僕とあまり変わらないくらいの女の子に見える。
長い髪をツインテールにまとめた彼女は、カートさんに向き直ると大きな声で疑問をぶつけた。
「カート隊長! もしも私が彼に勝ったら、『ファースト・ペロペロ』の権利をもらっていいですか?」
「構いません、存分にペロペロしなさい」
どんな拷問だか知らないけれど、僕の預かり知らない所で勝手に約束しないで欲しい。
しかし、負ければ奴隷……いや、ペットか……。
万が一、そうなったら僕は何も言えなくなるのだから、ここは気合いをいれて頑張ろう。
始めっ! というカートさんの合図と同時に、ツインテールが模擬山刀を振り上げて弾丸のように突っ込んでくる!
「もらっ……」
た! と言い切る前に、彼女の体は僕の横をすり抜けて舞台の端までフラフラと進み、場外に落て気を失う。
その不自然な動きに客席の一部からも、ざわめきが上がった。
「静粛に」
しかし、カートさんが一声かけると、会場がピタリと静寂に包まれる。
「今のはすれ違いざまの一撃ですね。油断もあったとは言え、まさか
彼女の解説に、再び会場にどよめきうねる。
だけどカートさんは、そんな会場の様子や、自分の部下が負けた事よりも僕に興味があるようだった。
「やはり、貴方はただ者ではなかった……」
小さく呟いたと同時に、彼女の口の端から唾液が流れる。
「もっと……もっと見せてください。貴方の本当の力を。そして、全て出しきって……私の足下にひれ伏してください」
尋常じゃないサディスティックな光を目に湛え、彼女は次の
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