第16話 思いでお金は得られない

俺は金持ちが嫌いだ。あいつらはすごいマネーアクションが使える癖にそれを自分たちの私腹を肥やすためにしか使わねえ。あいつらがマネーアクションをみんなのために使ってくれればもっと良い世界になるのに。もっと早く素晴らしい世界になったかもしれなないのに。そうなっていれば、そんな世界に一刻も早くなっていればあいつが死なない世界になっていたかもしれないのに。


俺は金持ちが嫌いだ。だがそれ以上に、ヒューマンタグが低い下劣な人間たちが大嫌いだ。


ヒューマンタグが人間の価値を完璧に反映できるのかはわからない。だが一つだけはっきりしていることがある。ヒューマンタグが低い奴らにはロクな奴がいないと言うことだ。


人間の本質は変わらない。生まれてからずっと同じままだ。


それから俺は不良になった。男は手当たり次第に痛めつけ、女はホテルに連れ込んでビデオを撮った。


やっていることはあのクソどもと同じ。そんなことはわかっている。


それでも俺には力がねえ。俺のヒューマンタグは平均より少し高いだけ。それだけで社会を変える何かが出来るわけがねえ。


だから、俺は自分の手を汚した。ヒューマンタグが低い奴らを痛い目に合わせて自分の立場をわきまえさせるために、ヒューマンタグの高い奴らに社会の下劣な部分を見せるために。


意味がないことなのは分かっている。どれだけ痛い目に合わせても人間の本質が変わるなんてことがないことも。それでも、もう二度と、同じことが起こらない世界にするために。


俺は蟻のような小さな抵抗を続けた。


そして俺は出会った。こんな俺でも世界を変えられるかもしれない、俺を救世主にしてくれるかもしれない希望のアプリに。


グリードアプリ。


これさえあれば、これさえあれば……


手を汚すことに恐怖なんてなかった。それよりも俺はうれしかった。


もう蟻のような抵抗をしなくて済むことに。俺はもう俺じゃない誰かに期待しなくても済む。


誰でもない、この俺の手であの子の、美紀の世界を……


だが所詮、蟻は、蟻だった。


世界を変えるなんて大それたこと、平均より少しヒューマンタグが高いだけの俺にできるわけがなかった。


人間の本質は、何年たっても変わることなんてないのだ。


どれだけ本人が変わりたいと願い努力しても…………………………





「……………………」


彼女と待ち合わせをした時と同じ、澄み渡るほどきれいな青空を最後に、俺の意識は無くなった。


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