第17話 上には上がいる。それを知らないやつを成金という
「ふーむ、良い感じに荒んだ目をした青年だったのですがね。これが才能の差と言うやつですか。いくら反骨精神が強くても強大な実力差の前には無力……というわけですかね。」
久しぶりにいい逸材を見つけたと思ったのですが、どうやら見込み違いだったようですね。せっかくグリードアプリを与えたと言うのに、高校生相手に手も足も出ずに敗北してしまうとは。
「さて私たちの情報を漏らされる前に始末しておきますか」
私は自らの腕を青年……えっと名前は何でしたっけ、確かあだ名で呼ばれていたようですが、ザコ、いや、違いますね、えーと……
公園近くの廃ビル屋上でスマホをかざしたまましばらく青年の名前を思い出そうとしていると背後から突然足音が、コツコツと、少しずつ大きくなっていきました。
「しゃしゃしゃ」
甲高くも下品、いや失礼、豪快な笑い声に振り向くと彼女に全くもって似合わない修道着を着た女が子供のような笑顔をして立っていました。
子供のような笑顔と言うとかわいらしいように聞こえますが、子供とは周りの大人が思っているよりもかなり残虐なものです。我が子は天使などと言う親バカがいますが嬉々とした顔でアリの巣にバケツ一杯の水を流し込む子供のどこが天使なのでしょう。ただの好奇心のために何百、いえ何千もの命を大河の底に沈めてしまうものなど悪魔としか思えません。あくまでなければ邪神です。
私の眼下に広がる光景を笑顔で見下ろすこの女の顔もまさに美術館で展示されている絵画の悪魔そっくりです。
「しゃしゃしゃしゃ、ドル・ボックス、お前の目は節穴か」
「どういう意味ですかな、ユーロ・ギフト様」
一応、私より先輩である彼女に敬語で話しかけるも彼女は年上の敬語になど興味もなければ、気遣う気も年長者への敬いもなく、そのまま話を続けた。
「ありゃ、なかなかの逸材だぜ」
「彼の事ですか」
私は再び、足元に視線を落とした。
「しかし、彼は高校生相手に手も足も出ずに敗北したのですよ。確かに彼の淀みながらも何か大きな物に対する強い怒りを秘めた目は感じさせるものがありましたが。実力がこれでは……」
「ただの高校生じゃねえ」
「たしかに金髪の二つ結びの女の子が着ているのはこの地区で有名な城ヶ丘高校の制服ですが、彼が負けたのはあのセガ高の男の子ですよ。セガ高は東地区では城ヶ丘高校に次いで有名な高校ですが平均ヒューマンタグは高くはありません。そんな少年に彼は敗北したのですよ」
ユーロ・ギフトがブツ君の戦いをどこまで見ていたのかは知りませんが、私は最初から最後まで、ずっとここでブツ君たちの戦いを見ていたのです。確かに城ヶ丘高校の制服を着た女の子のおごりにつけこんだ超高速移動の先読み攻撃は見事でしたが、その後に来たセガ高の少年に彼は為す術もなく敗北してしまいました。金髪の彼女にも一矢報いたとはいえほとんどサンドバックでしたし、彼女におごりが無ければブツ君は瞬殺されていたことは明白。
私にはブツ君を逸材と言うユーロ・ギフト様の気持ちが全く分かりませんでした。しかし、ユーロ・ギフトの口調は至って真剣でした。
「ありゃ、化けもんだ。あんな化けもんどもを相手に、あいつは生きてるんだ。それだけで十分逸材だ」
「まさか、あなたがそこまで言うとは」
いつも人を小ばかにしたようなユーロ・ギフトが真剣な顔をしているのも珍しいことだが、それ以上に私を驚かせたのは、このチームプレー絶対不適合者の超絶自己中娘が足元にいる少女と少年を自分と同格の化け物と称したことだ。
彼女がそんな風に称するなんて仲間の中でも数少ない人間だけです。
……私ですら、ユーロ・ギフトにそういわれたことはありません。
彼女の発言を聞き、私は今すぐにでも足元の彼らと一戦交えたい衝動に駆られますが、今はそれよりもやる優先することがあります。
「あなたがそこまでおっしゃるなら、ここは私がブツ君を回収してきましょうか」
ユーロ・ギフトは手の施しようがないほどの性格破綻者ですが、彼女の人を見る目、特に人の才能を見抜く目はどんなえせ占い師よりも確かです。彼女がブツ君に才能があると言うなら、それは間違いないのでしょう。それならば、私はなんとしてもブツ君を回収しなければなりません。有能な人材をみすみす見捨てるのは、組織にとって裏切りよりも重い大罪なのですから。
「ああ、そうしてくれ。私もちょいと手を貸してやるからよ」
「わかりました……では、グリードアクション発動、ブラックボックス」
私の発動したグリードアクションによりブツ君の体が黒いキューブ中に閉じ込められると同時にユーロ・ギフトも自分のスマホをブツ君、の近くで警察官たちに取り押さえられている小太りのグリードにかざしてグリードアクションを発動しました。
「グリードアクション発動、遺伝子操作」
ユーロ・ギフトは私を化け物と称したことはありません。確かに彼女からしてみれば私のような規則や命令に忠実な勤め人はつまらない人間にしか見えないのでしょう。しかし、私は彼女と出会って一度として彼女を良識ある人間と思ったことはありません。
私からすれば、彼女はこの世に存在するどんな生き物よりも規格外でねじが外れている。
彼女は私が会った人の中で一番の、
化け物です。
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