第12話 お金持ちかどうかはその人を助ける理由にはならない。

「へ」


目の前で起こった出来事にさすがの私も困惑した。


アクセルライトを使った完璧な不意打ちをグリードに防がれた私は空中で為す術なくあの粗末な鉤爪に体を引き裂かれるところだった。でも、グリードの爪が私に触れる直前、突然グリードのお腹が爆発した。その衝撃でグリードが吹き飛ばされ、私も爆風に流されて地面そのまま尻餅をついた。


「なにが、起こったの」


一瞬本当に私のために神様が何かしらの奇跡を起こして超法規的措置で助けてくれたのかと思ったけど、その後聞こえた気の抜けたような声に、否定された。


「ま、ま、間に合ったぁ~」


戦場、というかもう地獄と錯覚するぐらいすごい惨状になっている公園に場違い、いや本来の公園だったらとてもよく合っている穏やかで優しそうな少年君がそこにいた。


「あ、あなたは」


カールした黒髪に女の子と間違えてしまいそうになるほど中性的な顔立ち。私はあまり人との顔を覚えるのが得意ではないのだけれども、さすがについさっきまで屋上近くの階段で話をしていた少年君の事は覚えていた。いや、忘れていても思い出さないわけがない、だって私は彼と今朝とても衝撃的な出会いを方をしたんですもの。ちょうど今目の前で起こってる状況と本当にそっくりな状況で。


「一文、君」


倒れる私に向かって歩いてくる彼に思わず私は上ずった声を上げてしまった。


そんな私の声に彼は微笑みだけで返すと私の前に立ちはだかり、グリードに向かってスマホを握った腕を伸ばした。


グリードのお腹はすでに半分くらいがあの一文君が起こしたであろう謎の爆発で吹き飛ばされて残されたお腹もかなりの部分が焦げて黒くなっていた。


「グラァ」


立ち上がったグリードはしばらく一文君を見たまま何の行動も起こさなかった。


私だったら、あれだけの傷を負ったらこの場は逃走する。たぶんあの醜い姿はグリードアクションによるものだろうから、アクションの発動をやめてしまえば消失してしまったお腹も元に戻る。


先にお金を払って発動するマネーアクションと違ってグリードポイントは後払い制。だからマネーアクションと違ってグリードアクションはポイントがゼロでも発動することが出来る。だけどもしグリードアクション発動後に払うグリードポイントが無ければロスト、ポイントを失い体中が真っ黒に炭化して死んでしまう。


だから、グリードは是が非でもグリードポイントを集めなければいけないんだけど、これだけやれば……


「ポイントは十分なはず」


きっとこのグリードはどうにかして一文君の気を反らして一直線に逃走する。


そう思ったんだけど、


「グラァァァァァァ」


グリードは何のためらいもなくまっすぐに突進してきた。


「うそ」


一瞬ただの自殺行為かと思ったけど、違う。そうじゃない。グリードは一文君がもうあの爆発を二度とできないと思ってるんだ。


「グガァァァァァァァァァァ」


お腹を半分消し飛ばされてるのにグリードの獣の様な叫びは私へ向けていたものよりはるかに大きく、憎しみで満ち溢れていた。


あれだけの火力を持ったマネーアクション、いったいどれだけの値段が設定されてるのか。私ならともかく普通の高校生がそう何度も撃てるわけがない。彼の通ってる高校は東地区じゃ有名な高校だけど平均ヒューマンタグはそこまで高い高校じゃない。


殺気の一撃は多分庶民的な彼が使えるマネーアクションの中で一番高価な彼のとっておき。それでもこのグリードを倒すには火力が足らなかったんだ。もう、彼にできることなんて何も……


「グラァァァァァ」


「っ」


一文君へグリードの鉤爪が振り上げられた瞬間、私は私を庇うように私の前に立つ一文君の前に躍り出た。そして、一文君がしていたように私も握ったスマホをグリードの脳天を突き刺すように向けた。


一文君がどうして私を助けてくれたのかわからないけど。もしかしたら、私をおとりにグリードの隙をついて一気呵成に漁夫の利を得ようとしたのかもしれないけど。それでも私が彼に助けられたのは間違いない。


朝のも含めると二回目。別に頼んでいないし、自分でどうにかすることもできた。けれど、


「金持さん」


助けてくれたのは事実。この私が借りた恩を返さずにいるなんてそんなの金持グループ次期党首の恥。


お金は借りない、でも恩は借りたら絶対に返す


「マネーアクション、え――」


私が持つ中で一番強力なマネーアクションを発動しようとしたその時、


「グラァ……」


グリードの巨体が何か硬い壁に勢いよく弾き飛ばされるように空中を吹き飛ばされた。


「え………………」


まるで自分の突進をそのまま自分が受けたかのように吹き飛ばされたグリードはそのまま気絶してしまった。


「………………か、かくほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


何が起こったのかわからず茫然とする私を置いて、残った数少ない警察官さんたちが一挙にグリード確保のため群がり始めた。


この時使われたマネーアクションが一文君の空気をベッドのマットレスのように程よい硬さと弾力性のある物へ変えてしまうエアークッションであり、これのおかげで朝の自転車事故でもお互いに大きなケガがなかったということを私が知るのはもう少し後のことだった。


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