第10話 お金で心を割り切らせることはできても、怒りを捨てさせることはできない

「グラアァァァァ」


グリードは周りの警察官さんたちに構わず、無謀にも私に向かって突貫してきた。威嚇のつもりなのか明らかに届かないのに鉤爪を振り回しているのが、私には余計滑稽に見える。


はあ、その下品な爪で私に勝てると思っているのかしら。


私は手に持った光の弓矢を向かってくるグリードへ構える。すると、弓矢を形作っている光子とは別の行使が新たに出現して今度は矢の形となった。私が弦を引くと自然にやも後ろに引かれる。


目の前に突然現れた光の矢、しかし、グリードはそんなことを気に留めることなく突進を敢行。この程度の矢、化け物の自分には痛くもかゆくもないと思っているみたい。


私はどんどん視界の中で大きくなっていく化け物に引くことなく、頭部へと狙いを定め、そして


「ふん」


「グギャアア」


私の放った矢は通常の矢では考えられないほど速いスピードで化け物の右目を貫いた。


マネーアクション、フォトンアロー(\五万)。光の粒子を集めて高速で飛ぶ矢を生成。さすがに光の速度とはいかないけど、それでも常人の反射能力では避けることはおろか、矢が飛んでいるところすら見えないくらいに高速で飛ぶ。


私の場合弓と矢が別々のマネーアクションになってるけどもちろん弓と矢が一緒のマネーアクションもこの世界には存在している。一応、弓と矢が別々になっている方が弓矢としての能力は高いとされてるんだけど……まあ、大抵の人は弓と矢がセットになってるマネーアクションの方を好む。別々だとそれぞれにお金がかかっちゃうから。


右の視界を失った、グリードはその丸太みたいに巨大な腕で頭を庇った。庇いながら、再び突貫を敢行してきた。


普通私みたいな弓使いや警察官さんたちみたいな銃使いのように遠距離を得意とするマネーアクションを使う相手には無暗の攻撃するよりもその場で守りに徹する方が賢明な行動とされる。なぜなら、得てしてそういう遠距離のマネーアクションは他のマネーアクションに比べて燃費が悪く、威力も大したことない。もちろん警察官さんたちの持ってるマネーアクションポリスガン(\五万)でも人の体は簡単に貫通できるけど、撃たれても即死するほどの威力があるわけじゃない。脆い生身の人間も即死させられないのに、このゴツイ化け物に致命傷を阿多会えるなんて夢のまた夢の話。まあ、当たったら痛いし、たくさんの人で周りを囲んで一斉射撃したら話は別かもだけど、普通はその場で蹲って相手の球切れ、財政破綻を狙うのが遠距離のマネーアクションを使う相手と戦う時の定石。


まあ、私なんて弓とやが別々だから、コスパはかなり悪いしね。


だから普通はその場で蹲って私の球切れを狙うはずだけど、このグリードは迷わず短期決戦で私を仕留めに罹ってきた。


「ふふ、なかなか賢い選択をするじゃない」


確かにその場で守りを固めるのが定石ではあるんだけどそれが通用するのはそこら辺の俗物たちだけ。私にその戦術は通用しない。だって……私、お金持ちだから。いちいち矢が一本いくらだからあと何本しか打てないなんてみみっちい計算をする必要がない。撃ちたいときに撃ちたいだけ撃てばいいの。


だから、その場で防御に徹しても私にいいように矢を叩き込まれるだけ。むしろ私に一方的にやられてる姿を見せられれば、今は統率を失っている警察官さんたちも冷静さを取り戻して立ち直すかもしれない。そんなことすれば四方八方から鉛の銃弾を撃ち込まれてジ・エンド。


「ふん」


足を止めようと右足の一際大きなぶつぶつを射抜くとニキビみたいな水疱の中から蛙の体液みたいな緑色の液体が大量に出てきた。


気持ち悪。


あんな気持ち悪いの触れることはおろか視界にすら入ってほしくはないわ。


私は心の中からわき上がった嫌悪感に任せてフォトンアローを立て続けに何度も放った。


「グッ」


しかし、グリードが足を止めることはなかった。すでに体は十本以上の矢に射抜かれぼろぼろになっていっているのに私の矢をまったくかわそうとせず、ただただ正面にいる私に向かって突進をしてくる。射抜かれていない左目から猛烈な殺意を放って。


しぶといわね。


さらに私は矢をグリード目掛けて放つも顔周辺は腕にガードされて届かず、体もあのぶつぶつに守られてそこまで深い傷を与えることはできていない。


「く、嘘でしょ」


客観的に見れば無謀としか思えない捨て身の特攻。私の矢に言いように撃たれてほとんどサンドバック状態だったのにグリードの足は止めることなく、むしろ足の回転スピードを上げてとうとう私の視界をその醜い緑と赤い体液まみれの体で埋め尽くした。


「グガァァァァァ」


勝ったと言わんばかりの咆哮を上げグリードはその凶暴な鉤爪を私に振り下ろした。


「すごいじゃない。誉めてあげるわ」


傍から見れば遠回しな降伏宣言だけど、そうじゃない。これは文字通りの称賛。私の矢に撃たれながらここまでたどり着いたこの哀れな化け物への心からの賛美。


私に褒められるなんてこれほどの幸福はないでしょ。よかったじゃない、あなたの人生どうだったかは知らないけど最後にいいことがあって………………だから、


振り下ろされた鉤爪が私に触れる直前、私の体が光の粒子となってその場から消えた。


マネーアクション、アクセルライト(\五万)


「もう未練はないでしょ」


私はアクセルライトでグリードの背後へ移動。哀れな化け物を天に返すエンジェルのように空中に現れた私はグリードの後頭部へダーマを構えた。


いくら自我があるグリードは大参事を引き起こすことが多いって言っても、さすがに生まれたばかりのヒヨコじゃ私の相手にはならなかったようね。


「これでチェックメイトよ」


私がダーマの弦を引いた瞬間、


「え………………うそ、でしょ」


私の行動を先読みしたかのようにグリードは腕を後頭部に回し私のフォトンアローをそのぶつぶつの体で受け止めた。


必殺の一撃に失敗し私は一瞬動揺した。その隙を見逃さず、グリードは勢いよく振り向くとその鉤爪を私に振るった。


「フォトン……」


だめ、間に合わない。


私の体が鉤爪の陰に飲み込まれる。


嘘でしょ。私、死ぬの…………こんなところで。


振り下ろされる鉤爪、重力に引かれる体、そのすべてのスピードがスローになっていく中私の頭だけが時間の流れに逆らうように高速で動いていく。


フォトンシールドは間に合わない。他のマネーアクションも発動している間にやられる。アクセルライトで逃げる。だめ、これは自分の視界の中を高速で自由に動ける能力。視界を鉤爪に奪われたらどこにも移動できない。じゃあ、ダーマは、フォトンアローは…………


嘘でしょ。私は選ばれたのよ。神に愛された女の子なのよ。生まれた瞬間この世のすべてを持っていた才能もお金もみんながうらやむ容姿だって。


そんな私が、こんなバウンティネームさえ付けられていないモブグリードにやられるなんて……


鉤爪はゆっくりと私の心が折れていくのを愉しんでいるみたいにゆっくりと私に近づいてくる。


ねえ、嘘でしょ。私にはやることがあるのよ。私を必要とする人間なんてこの世にたくさんいるわ。どうして、どうして、私よりも価値のない人間なんてこの世にいっぱいいるでしょ。私が死んだら世界の損失なのよ……


誰か、助けなさいよ。ねえ、


私の願いはグリードに怯えて狼狽えている警察官さんたちには届かない。


神様、


脳裏に家族の姿が浮かぶ。


誰でもいいから、


小さい自分に笑いかけてくれる母、それを見ながら微笑む札木。


私を助けなさいよ


その中で父だけは私たち家族に背を向けていた。


……誰か……助けて


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