第9話 金の力
私が現場に訪れると、そこは既に地獄絵図だった。
グリードが現れたのは聞いてたけど、まさか二体もいるなんてね。
私の目の前にいるのは体格以外は生き写しのようなグリードが二体。全身を気持ち悪い吹き出物みたいなのが覆っている。見ため毒とか病気とか持ってそうだけど、見た感じ武器はあの鉤爪だけで他に武器になりそうなものはないわね。
街中に流れてるアナウンスでじゃコンビニにグリードが現れたってことだったけど、今私がいるのはコンビニの近くの公園。たぶん、警察と争ってる間にこっちに誘導されたのね。こっちの方が邪魔になりそうなものが何もないし、化け物たちを周りから囲むこともできるしね。
たぶんさっきまでそんな感じで化け物たちを抑えていたんだろうけど……
「見る影もないぐらい崩されちゃってるわね」
陣形が崩されちゃったら、ポテンシャルで負けてる化け物たちを警察官さんたちがどうにかできるわけはないわね。化け物との圧倒的な力の差を前に警察官さんたちのほとんどがすでに戦意を喪失して持ち場を放棄しちゃっている。
ヒューマンタグ制度が取り入られてから、今までにあった旧人類的な社会システムは一新、今の画期的未来システムが次々と導入されていった。それによって昔は面接重視であった就職も大きくその形を変えて現在ではヒューマンタグが最重要視される項目になっている。大学入試もヒューマンタグを入学要件に設定しているところがほとんどになっていて、これによって然る能力を持ったものがその能力に見合った環境で自分の能力を遺憾なく発揮できる画期的な社会になった、というのがこのヒューマンタグ制度に関する世間、というかみんなの見解になっている。
警察官さんたちもその例にもれずヒューマンタグ三十万以上が就職必要要件とされている。ヒューマンタグが三十万を超えるっていう条件は結構厳しいみたいで現在では撤廃されたけど昔行われていた旧人類的システムである公務員試験よりも難しいと言われている。まあ、三十万のヒューマンタグは四十代の平均ヒューマンタグらしいから、確かに簡単な要件とは言えないわね。でも逆に言えば、ヒューマンタグさえ満たしていればその人の本質、性格面を見られることは今のご時世ほとんどない。前科とかあれば話は別だろうけど、まず見られないわね。
つまり現在の警察官さんたちの多くは素養こそヒューマンタグで警察官になるのに十分な素養を持っていることが担保されているんだけれどヒューマンタグはあくまでその人の才能や実績しか反映してくれない。だからその人が警察官としての持っておくべき素質があるのかは警察官になるうえでの要件には入っていないことになる。
「グガァァァ」
「うわああああああ」
目に涙を浮かべながら多くの警察官さんたちが自分の職場を離れて自分の命大事に化け物たちに背を向けて公園の中を逃げまわっていた。中にはその場に残って怪物と対峙する警察官も何人かはいるけれど、マネーアクション、ポリスガン(\五万)程度じゃ化け物に傷一つけられず像に群がる蟻のように簡単に蹴散らされていた。
さて、目の前にいるグリードは二体。どっちを先に片づけようかしらね。
小さい方はすでにスタミナ切れを起こしてるみたいで、逃げ回る警察官を後ろから追いかけまわしてるけど全然距離を縮められていない。むしろ、残り少ない活動時間を追いかけっこに浪費させられてるから良いようにあしらわれているみたいになっている。逃げてる警察官さんたちの顔は必死そのものだけど。
普通ならやっぱり弱ってる小柄のグリードを狙うのが定石なんだろうけど、あの様子を見てると心配しなくてももうじき活動限界を迎えてポイント全ロスで消滅しちゃいそうだから、ほっといてもよさそうに見えるわね。それよりも問題は、
「グアァァァァ」
「待ちなさい」
「グルァ」
私の声に反応するようにグリード(大)が私の方へ振り向いた。
すでに彼の体は人の体を成していない。ゲームとかによく出てくるゴブリンとかオークみたいな生理的気持ち悪さを感じさせる外見。それでも、その目は私がよく見る人間と同じ目をしていた。欲望に飲まれそれ以外の感情や人を不要と切り捨てる利己的で冷たい目。
「ずいぶん好き勝手暴れてくれたみたいじゃない。自分よりも弱い者達をいじめて楽しかったかしら」
「グルッ」
私の言葉に辺り構わず鉤爪を振るっていたグリードの動きが止まった。
どうやら、このグリードは自我が残ってるタイプみたいね。もう一体の方は分からないけど。
今まで確認されてる中で人の言葉を離せるグリードは存在していない。それでも、人の言葉を理解する、もしくはしているような行動をとるグリードはしばしば確認されている。そういうグリードは得てして、
「グラァァァァァァァァァァァァ」
人類に甚大な被害をだすことが極めて多い。
私の言葉にグリードは内に秘めた感情を爆発させた。
元々気性が荒い奴がグリードになったのか、それとも何かグリード本体に怒りを思い出させるような外見的特徴が私にあったのかわからないけど、私の方に怒りをぶつけてくれたのはありがたいわね。逃げ惑ってる警察官さんたちを庇いながら戦わなくて済みそう…………
私の外見が彼の気持ちを逆なでしたのは嘘ね。私みたいな超絶美少女が他にいるわけないわ。
「マネーアクション、ゴーダ(\三十万)」
口頭でマネーアクションを発動するとすぐに私の手元に光子が集まりはじめた。光子たちが集まっていくにつれて光子本体が持つ光が凝縮していき、神々しい光を放つ弓矢を形どった。
「残念だけどお楽しみの時間は終わりよ。今からの主役はこの私よ」
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