第7話 化け物(グリード)
くそ、くそ、どうしてこうなっちまったんだ。なんで俺がこんな目に合わなきゃいけねえんだ。くそ……
「おいきさま、おとなしくしろ」「両手を上げて床に跪くんだ、はやく」「一歩も動くんじゃないぞ、一歩でも動いたら一斉に発砲して蜂の巣にしてやるからな」
俺を取り囲む察たちの怒号がパニックを起こす俺の頭を余計にイラつかせる。
うるせえ。俺たちだって別に好きで暴れてるんじゃねえんだ。
辺りを見回すと今の俺より少し小さい中くらいの体格をした化け物が活動限界を迎えてその場で気を失っていた。そして俺の半分の体躯もない小柄なもう一匹の化け物はおぼつかない足取りで察どもを追っかけ回している。
それを見た俺の心はさらに焦りを感じた。
いくらこのすごい力があっても活動限界を迎えちまったらもう逃げることはできねえ。もう一人もだんだん動きが鈍くなってきている。活動限界が近い証拠だ。察たちに捕まるのも時間の問題だろう。
俺なら助けてやれないこともないが、今はそんな段じゃない。活動限界に近づく前に一刻も早く察どもをぶち殺して、この場からいなくならなきゃいけないんだ。そんな暇はどこにもない。
それに、
「うわ、なんだ」
あいつらはもうすぐ死ぬ。
「体がどんどん炭みたいに黒くなっていくぞ」
俺の良く知る奴ら――今は全身が腐って醜いニキビのようなぶつぶつが出来ている異形の化け物――の一人が警察に取り押さえられながら全身を真っ黒に炭化させた。
「こいつ、ポイントが全損(ロスト)していたんだ」
炭化した体は誰かが触れなくても自然とぼろぼろと崩れていき、黒い灰を空気中に飛ばしていった。ついさっきまで俺の横を歩いていた奴が生きた証を何も残さず、跡形もなく消えてしまった。
「死んだ、のか」
察と俺たちを静寂の外套が包み込む。
「グ、グアァァァァァ」
チュウヤの死を目の当たりにした俺は人のものとは思えない雄叫びを上げ、静寂の外套を破り捨てた。
「ひぃ」
地面の揺れを錯覚するほど大きな雄叫びを受け、一人の察が足元をふらつかせた。
「ウガァァァァァ」
「く、くるな」
俺は自分を取り囲む包囲網にできたわずかな綻びを見逃さなかった。左前方を固める察たち数人に向かって一メートルはあるだろう鋭利な鉤爪を横殴りに振った。
「ぐぁあ」
一番右にいた察は鉤爪に肉を引き裂かれ、臓物をぶちまけた。そのおかげで残った奴らは鉤爪の餌食にならなかったが、勢いよく吹き飛ばされて包囲網が崩れた。俺は無理やりこじ開けた道に突進する勢いでダッシュし、包囲網から脱出した。
肉のどろっとした感触が爪から伝わって気持ち悪い。
俺は今人生最悪の状況にいる。だがこれはチャンスでもあるんだ。マンガやラノベの主人公が第一話でよく出くわす乗り越えなきゃいけない試練って言うやつに俺は今ぶち当たっている。
この状況さえ乗り切れば、この状況さえどうにか切り抜けることが出来れば。
「グアァァァ」
「うわあああ」「こっちに向かってきたぞ」「慌てるな陣形を立て直すんだ」
俺は全知全能、この世界を支配するほどの最強の力を得ることが出来るんだ。
俺は標的を決めず手当たり次第に察たちが固まっているところへ突進、鉤爪を振りまくって察どもを物言わぬ肉塊にしていった。
今回たまたまだ、たまたま運が悪かっただけなんだ。あいつの口車に乗って、良いように騙されただけだ。
俺はあんなへまはしない。
俺は賢い、俺は他の馬鹿どもとは違う。俺は選ばれたんだ。
ここさえ乗り切れば、ここさえ乗り切れれば………………
手当たり次第に振り回される鉤爪により多くの察どもがもの言わぬ肉塊へとその姿を変えていく。現場は怒号と悲鳴が飛び交いこの世のものと思えない狂喜の世界。弱者が強者に蹂躙されていき、抵抗しようにもすべては無駄な足掻き、あきらめて泣き言を言っても、許しを乞うても強者の鉤爪は容赦なく弱者たちへ振るわれていく。
そんな阿鼻驚嘆な世界の中で女の凛とした声がはっきりと聞こえた。
「待ちなさい」
「グルァ」
声のした方を見るそこには、ついさっき出会った城ヶ丘高校のエンブレムを白い制服の胸ポケットにつけた金髪ツインテールの女の姿があった。
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