第5話 やっとスタート

「はあ、やっと着いたー」


朝からいろいろ突拍子もない出来事の数々に襲われた私だけど、ようやく世ヶ谷高校に到着することが出来た。ちなみに現在の時刻は七時三十分…………


「ま、間に合ったんだから全然オーケーよオーケー。何も焦ることなんてないわ」


「ん、なにかいったかしら」


やば、私声に出してたみたい。


私の前を歩きながら校舎や学校の行事の事なんかを説明をしてくれているマイル先生が首をかしげながら振り返った。


「あ、いえ、なんでもないです」


それに慌てた私は勢いよく手を振ってごまかした。普通の人なら勢いよく手を振られたらびっくりしてあまり関わらないようにするものだけど、マイル先生は見た感じの通りおっとりしている人らしく、全く動じていない。


マイル先生はしばらく私の顔を見つめた後、そうと言って再び一クラスにどれだけの生徒がいてみんなかわいいなどという話を始めた。


私こういう天然、っていう感じの人苦手なのよね。話が合わないというかペースが合わないというか。


この先生が私の担任になるのか。


身長が私よりも低くて小動物みたいなゆるふわ系。年も生徒と近そうだし職員室から教室に向かうまでの短い間にできるだけ私にこの学校について教えてくれるぐらい親切な人。たぶんこの世ヶ谷高校の人気先生なんでしょうね。


胸おっきいし。


「はいはい、みなさん。静かにしてください。今から転入性のご紹介を始めますよ」



「え、転入生」「だれだれだれだれ」「どんな子かな」「超絶イケメンだったらいいな」「かわいい子ですか」


転入生というワードに教室のざわめきがさらに上がる。これ言わずにやった方が静かだったんじゃにかしら。ってか転入生なんだから知ってるわけないでしょ。はじめましてじゃなかったら怖いわよ。


「はいはい、今から紹介しますから、ちゃんと席に座って大人しくしていてくださいね……モネさん、どうぞ」


マイル先生に促され私はしばらく一緒に学校生活を送ることになる教室、二〇二教室へと入った。


私が入った瞬間騒がしかった教室が一瞬で静寂に包まれ、みんな私の一挙手一頭足に注目している。


こういうのは財閥のお嬢様だから結構体感しているんだけど。やっぱり


「初めまして金持 モネ(かねもち もね)です。今まではここから少し遠いところにある城ヶ丘高校に通っていたんですがわけあってこちらの高校に編入することになりました。どうぞよろしくおねがいします。」


自己紹介が終わってもみんな黙ったまま私の方を見てただ茫然としている。


さいっこう。ああ、この瞬間。生きてるって実感するわ。


教室にいるみんなが、私以外の有象無象たちが私の高貴なオーラと美しい美貌に言葉を失っている。さっきまで普通に話していたマイル先生も、私から目が離せなくなっている。


ふふ、知っているわよ。マイル先生がどうして私の方を全然見ないで前を歩きながら学校の説明をしていたのかも。じっと見ていると心を奪われそうになるからでしょ。時間を忘れてずっと私のことを見つめていたくなっちゃうからでしょ。


初めて職員室に言った瞬間先生たちもみんな私の美しさに目を奪われていたわ。もちろんマイル先生も。その後会ったあたまがつるつるの校長先生も更年期障害で常にいらいらしてそうな教頭先生も私の美しさに言葉を失っていたわ。


ごめんなさいね、美しくて。


「……」


もうみんな五分も私の美貌に目を奪われて続けている。


そろそろいいかしらね。私は少し顔に力を入れて少しだけオーラと美貌を削った。簡単にいうと、わざとすこしだけブスになるような表情にしたの。私は普段わざとブスになるよう表情菌に力を入れている。そうしないと見んな私に見とれちゃって私以外の時が泊まっちゃうからね。見慣れている札木とかは大丈夫なんだけど。


はあ、美しいってほんとに罪なことだわ。


まあ、わざとブスになる表情をしても私が美しいことには変わりないんだけどね。私はいつものように表情筋に力を入れて少しぶすになるように顔を作りかえようとしたその時


「すいません、遅れまし――だっぶ」


「きゃ」


急いで教室に入ってきた生徒とぶつかりその場で尻餅をついてしまった。


「あたた、すいま……へ」


「いえ、別に……え」


突然の衝撃で閉じた目を開くと目の前には、童顔でくせっ毛の黒髪少年の顔が。さっきブツと呼ばれていたチンピラ君を自転車で突き飛ばした少年君の顔がドアップで私の視界にあった。


「へ……」


あろうことかこの少年君は世界遺産級の美女である私を公然の面前で押し倒していた。俗物では触れることすら許されない私の体に触れて、この少年君は、この少年君は


思い返せば、私の人生男の人に体を触れられたことも、顔をコンアマ時価で見たこともなかった。みんな、遠巻きで私の美しさに見とれるか、朝のチンピラ君たちみたいに生理的に気持ち悪い誘いをかけてくるしかなかった。


それも当然、私はこの世界一の財閥のお嬢様。何かあれば家族ともども極刑。そんなこと知らなくて近寄ってきても私のマネーアクションでみんな追っ払っていた。


この日私は初めて、男に人の顔を目の前で見て触れられた。そして


「きゃあああああああああ」


初めて男の人に平手打ちをした。


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