第4話 白馬より水牛に乗っているほうが私的には忘れられない光景になるわ

「……」


「一応聞くけど、あなたもやる」


目の前の白い制服を着た金髪ツインテールの言葉に俺、物島 大輔(ぶつじま だいすけ)は何も答えずに相手の出方を伺っていた。


「あら、あなたのお仲間は気絶した友達のために勇敢にもこの私に真正面から殴り掛かってきたのだけれど、あなたはそうしないの。」


挑発かそれともこれがこの女の素なのか俺には分からない。だが、チュウヤをあっさり倒したのを見ると手を出さないのが得策そうだな。


「……いや、俺たちの負けだ。悪かった、もう二度とこんなことはしないから、今回だけは見逃してくれないか」


「意外ね。でも得策よ。今回は私の寛大な心で許してあげるわ。感謝しなさい。」


そう言って、女は俺たちに背を向けて歩き出してしまった。


俺も男、女にああもいいように言われて思うところがないわけではない。心の底ではあの女を無理やりホテルに連れ込んで泣かしてやりたいと思っている。だが、仲間、というほど心を許しているわけじゃないが高校から付き合いのあるこいつらが瞬殺されたのを見るにこいつは俺たちよりも高いヒューマンタグを持っている。ヒューマンタグが高い=強いマネーアクションを使えると言う訳じゃないがただの高校生が\五万もするアクセルをああも簡単に使えるわけがない。しかもあいつが使ったのはアクセルの上位互換、それに加えてもう一つのマネーアクションも使っている。


もちろん才能や実績も関係するんだが一般的にヒューマンタグは成長により上がっていく。


通常小学生までなら月一万、中学生になると三万、そして高校生なら五万だ。


金髪ツインテールが来ているのはどちらも真っ白な白に縦の黒い線が入ったシックな雰囲気のある上着とスカート。これだけじゃこいつがまだ高校生なのか大学生なのかわからないが、俺はこの女が高校生と間違いなく断言できる。上着の胸ポケットに入っていた学校の校舎のようなエンブレム。間違いない、あれは東地区で一番有名な進学校城ヶ丘(じょうがおか)高校の制服だ。


あそこの生徒なら、確かに一般よりも高いヒューマンタグを持っていることもアクセルの上位互換を持っていることもうなずける。俺のヒューマンタグは一般的な大学生と同じ十万。しかも、今は生活費やら地べたに気絶してるこいつらとの付き合いで六万ぐらいしか残っていない。


とてもじゃないがここで争うのは得策じゃない。ここは大人しく撤退――


気絶している奴らを担いで引き上げようとしたその時、俺は金髪ツインテールがスマホの時計を確認するのを目撃した。


その時俺の頭の中でいくつかのピースががっちりと当てはまった。


この女はどうしてアクセルを使ってこの場からとっとといなくならないんだ。アクセルを使えばこの場所からとっとといなくなれるだろ。確かアクセルもチュウヤが使ったマッスルアップと同じで一度使ったらしばらく何度でも使えるはずだ。俺たちがいる場所に長居なんてしたくないだろ、まして言い寄られた女ならなおさら。……まさか使えないのか。さっきスマホで時間を確認したのはアクセルの持続時間が終了したのを確認するため。さっきの強気な挑発も逃げ技のアクセルが使えるうちに俺の闘争本能を折っておくためだとしたら……全部辻褄が合う。


そうだ、そうに違いない。あんな高校生がそう何回も\五万もするアクセルを使えるはずがない。きっと今こいつが使えるマネーアクションはゼロ。金欠で何のマネーアクションも使えない。今なら、倒せる。こいつをやれる。


「マネーアクション、マッスルアップ(\五万)」


チュウヤのバカと違って俺は唇を少しだけ動かしてあらかじめ口頭で発動できるようセットしていたマネーアクションを発動。ほとんど声になっていない声でもスマホが感知してくれればマネーアクションは発動できる。


「しねぇぇぇぇ、このあまぁぁぁぁぁ」


「あぶない」


さっきまで口説いてたおとなしそうな女が危険を知らせようと叫んだが、遅い。


チュウヤと同じマネーアクションを発動して俺は金髪ツインテールに殴りかかった。


俺は知らなかった。この女が迷子になっていることを。アクセルを使わなかったのはお金がなかったわけじゃなく単純に迷子だからどこに向かっていけばわからないからだということに。


「あなた達、語彙力ないわけ」


俺は知らなかった。アクセルの上位互換はスピードだけでなく持続時間も上位互換されていることに。


「な、いつの間に」


金髪ツインテールの姿が目の前で霧散。光のスピードで移動した金髪ツインテールに俺はいともたやすく背後を取られた。


「さっきも見せたでしょ」


俺は知らなかった。声をかけたこの女が俺などでは到底敵わない、この世界の絶対王者であることを。


「これで、チェックメイトよ」


俺は知らなかった。今まさに、俺の横からものすごい勢いで牛乳配達が近づいてきていることを


「すいませぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」


「ぐはっ」


金髪ツインテールに殴られる前に俺は、何の脈絡もなくいきなり現れた暴走牛乳配達に追突され意識を喪失した………………………


意識を取り戻した時、俺の周りにいたのはいつものバカ騒ぎ連中(ギュスター、チュウヤ)だけだった。

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