第6話:逃亡

 やはりここは馬車から飛び降りて敵の想定していない方に逃げるべきですね。

 痛いのもケガするのも嫌なので、意地を張らずに魔力を使いましょう。

 こんな時のために密かに魔術の訓練をしてきたのですから。

 飛び降りる前に身体強化の魔術を自分にかけておきます。


 ドン。


「じゃあね、私はここで失礼するわね」


 監視役が止める間もなく馬車のドアに体当たりして外に飛び出しました。

 空中にいる間に捨て台詞を残して、鮮やかに着地して一瞬も迷うことなく馬車が進む反対側に駆けだしました。

 予想通り馬車を反転させるだけの道幅もなければ迂回する道もありません。

 私を追いかけたければ馬車を降りて自分で走らなければいけません。

 ですが魔術で身体強化した私に追いつける人間などいません。


「待て、待たないか。

 母親の、ファインズ辺境伯夫人の命令に逆らうのか」


 腐れ家臣のあまりに身勝手な言葉につい言い返してしまいました。


「どこの世界に自分の娘を無実の罪で追放する母親がいる。

 その母親におもねって主家の娘を殺そうとする家臣がいる。

 恥を知りなさい恥を。

 この事は直ぐに王家に申し出て、全員厳罰に処してもらいますからね。

 間男アドルフは母に内緒にしていたようだけど、私には王家の護衛がついているから、今日の事は直ぐに王家に通報されるわよ。

 カーカム男爵が大将軍権限でファインズ辺境伯家を皆殺しにするかもね。

 いい気味だわ、精々残り僅かな人生を楽しむことね」


 これだけ言えば間男アドルフも尻軽アドリーヌも王都方面を探すでしょう。

 ですが私は反対側の未開地に行くことにします。

 いずれファインズ辺境伯の妻として生きるのです。

 ファインズ辺境伯家が開拓して護る土地の事は知っておくべきです。

 今までは未熟者という事で未開地に行くことを許されませんでした。

 

 でもそれは正騎士になるために魔力も魔術も封印していたからです。

 一度魔力も魔術使うと決めた以上、もう出し惜しみはしません。

 前世で知っているラノベやアニメやマンガの知識を総動員して、この世界で使える魔力や魔術は全部調べてあるのです。

 正直に言って自重を捨てた私は無敵なのです。


 だからといっていきなり魔境の奥深くに入って、強大な竜を狙うような愚か者ではありません。

 ちゃんと段取りを踏んで安全を確認する慎重な性格です。

 本当なら冒険者ギルドに行って情報を得るのですが、今の私は確実にお尋ね者になっているはずですから、人里には出られません。


 前世ではバーベキューくらいはやった事がありますが野宿をした事はありません。

 食べ物は野生動物を狩れば済むのですが、解体をする自信はありません。

 それに調味料がない状態で野生動物を美味しく食べれるとも思えません。

 ここは彼に頑張ってもらうしかないようですね。

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