第5話:追放

「ブリジットを放り出しなさい」


 アドリーヌは自分で自分の言葉に興奮したのでしょう。

 声が段々金切り声に近くなっています。

 このままでは、この場で殺し合いになってしまいます。

 正統な後継者の私を裏切るような家臣達など、アドリーヌと一緒に殺すべきなのでしょうが、どうにも人殺しをする踏ん切りがつきません。

 ここは素直に出て行く方が互いの為でしょう。


「自分で出て行きますから大丈夫ですよ。

 では、これでもうお会いする事もないでしょう」


「いちいち腹の立つ憎まれ口を叩くわね。

 もういいわ、この場で殺してしまいなさい」


 あら、あら、アドリーヌが完全に切れてしまいましたね。

 これは人殺しも覚悟しなければいけないのでしょうか。

 でも、私に人殺しをする決断ができるでしょうか。


「お待ちください、アドリーヌ様。

 さすがにここで殺してしまったら、一門衆や譜代衆の中から裏切り者が出ます。

 アドリーヌ様が命じてブリジットを殺した後で、オレリアを養女にすると王家に届けたら、色々と調べられてしまいます。

 ここは殺さずに追放にした方がオレリアの為です」


 間男のアドルフがアドリーヌを止めますが、アイコンタクトしています。

 追放して城から出してから殺せばいいと合図しているのが見え見えです。

 それを知っていて目を背ける一門衆や譜代衆はやはり殺すべきですね。

 問題はどうやって自分の中にある殺人に対する嫌悪感を払拭するかです。


「仕方ありませんね、見逃してあげるからとっとと出て行きなさいブリジット。

 そのまますぐに出て行くのです。 

 何一つ持ち出す事は許しません」


 やはりこういう条件になるのですね。

 現金は全く持っていませんが、鍛錬中だったので完全武装なのが救いです。

 アドリーヌが刺客を放ってきたとしても、そう簡単に殺されないと思います。

 後々の発覚を警戒するなら、アドルフが直接殺そうとはしないでしょう。

 王家の護衛が付いている事を知っているのですから。

 襲い掛かってくるとしたら息のかかった犯罪者達でしょうね。


「分かっております、直ぐに出て行きます」


「キィイイイイイ、生意気な、生意気な、生意気な」


 ああ、ダメだこれわ。

 完全に常軌を逸してしまっています。

 何を言っても怒りだして何をするか分からない状態だわ。

 これ以上は何も言わず黙って出て行くに限ります。


★★★★★★


 さて、ファインズ城を出てきたのはいいですが、どこに行くべきかですね。

 王家の護衛に見つかるのを恐れて、使用人が使う裏口から出されてしまいました。

 しかも家臣用の馬車に乗せられたので、私が出て行ったのをカサンドル殿は知らないかもしれませんし、まず間違いなく刺客が待ち受けています。

 どうしたものでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る