第3話:王家騎士カサンドル

「助かりました戦闘侍女殿。

 失礼ながらお名前をお聞かせ願いたい」


「いえいえ、一介の戦闘侍女に辺境伯令嬢に名乗る名前などありません」


「しかし今、王家の騎士資格を持っておられると言われたではありませんか」


「確かにラティマー王家からは騎士の資格をいただいています。

 ですが今は隠密裏に働けと指示を受けております。

 それに騎士は士族にすぎません。

 辺境伯令嬢のブリジット様に名乗るほどのモノではありません」


「それは困る、困るのだ戦闘侍女殿。

 恩人の名も聞かぬようでは、亡き父の教えに背くことになる。

 それだけでなくファインズ辺境伯家が恩知らずと言われかねない。

 今の戦闘侍女殿には不要かもしれないが、いつの日か恩返しするべき時が来るかもしれない。

 どうかお名前をお聞かせ願いたい。

 それとも戦闘侍女殿はファインズ辺境伯家を潰せと命じられているのか。

 その命令があるから名乗れないのだろうか。

 もしそうなら正直に教えて欲しい」


「そこまで心配されるのなら仕方ありませんね。

 役目により家名は伏せさせていただきますよ、私はカサンドルと申します」


「カサンドル殿か、この度の恩、終生忘れません。

 もし私の力が必要になったら何時でも声をかけてください。

 まだまだ未熟ではありますが、命の恩は命で返させていただきます」


「それはそれは、まるで血盟騎士団のような誓いですな」


「まだまだ未熟ではありますが、信じる道は違えども、血盟騎士団のような誇り高い生き方をしたいと思っております」


「立派なお心掛けですな」


「カサンドル殿のような立派な騎士の方に褒めていただくと恐縮します。

 ……このような大言壮語をした後でカサンドル殿にこのような事を聞くのは恥ずかしいのですが、ファインズ辺境伯家の令嬢としては聞かねばなりません。

 もしかして、ラティマー王家はファインズ辺境伯家を潰すおつもりですか。

 その証拠を集めるために、カサンドル殿を派遣されたのですか。

 私もこれからの生き方を変えなければいけなくなるかもしれません。

 どうか正直にお答えください」


「ブリジット嬢に頭を下げられては黙っているわけにはいきませんね。

 それに私はずっとブリジット嬢を陰から見ていた。

 だからブリジット嬢が立派な騎士立派な領主になろうとしているのを知っている。

 それに話したからといって王家の思惑に逆らう事でもない。

 いいでしょう、話させていただきましょう」


「ありがとうございます、カサンドル殿。

 この恩は生涯忘れません」

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