35話~魔術師は強いはず
「王子、昨日の治安維持部隊の教練はお疲れ様でございました。王子やグリフィン卿の凄さを体感できた隊員はより一層の敬意をもって励んでくれることでしょう。」
「あ~…そういえばそういう目的だったな。意外と楽しかったから忘れてた。」
「少々薄れ気味であった特A級を除く高位魔術師への敬意。それと同時に恐れを抱いてもらう事が本来の目的でしたので、お忘れですと困りますな。
治安維持部隊には貴族の子女もそれなりに入隊しておりますので、彼らにもしっかりと己の目標とすべき人物に対しての認識を持ってもらえればと思います。」
「セバスもけっこう楽しんでたじゃんか。すっげぇ笑顔で隊員ボコってたの俺おぼえてるかんな…?
それよりも、貴族こそ魔術の優劣なんて分かってるもんだろう?今更じゃないか?」
「大半はそうなのですが、貴族はやはり一筋縄ではいかないと申しますか…我が国も歴史が長いですから、魔術師が権勢を誇り始める前からの貴族もおります。
それこそ、剣や盾を手に戦っていた時代の武門貴族もいれば、地方の統治など治世の面で活躍してきた貴族もおります。
彼らの様な、建国当初から貢献してきた家門から見れば魔術系貴族は新興貴族ですので、なにかと不興を買っている事もございます。」
魔術による均衡で世界情勢が安定しているからか、一見平和そうに見える国内にも小さな火種は残ってるって事ね
むしろ外側に目を向ける割合が減った分、内側へのリソースが多くなったのだろう。まぁ、その余裕を生み出している我が国の安定を生み出しているのは特A級をはじめとする強力な魔術師達なんだけど
「でも、貴族も馬鹿じゃないんだからさ、魔術師の重要性、ましてや魔術の重要性なんて百も承知だろう。それなのに不満を言われてもってところはあるよ?」
「感情面では納得できないことも多く御座いましょう。例を挙げれば、過去の貴族領制の廃止の際などはそれは問題になったと記録されています。財産を国の主導で没収されるわけですから、当然と言えば当然ですが。
国として魔術を中軸に治世を進め、その勢力が大きくなり、逆に武闘派貴族の力が弱くなっていたからこそ強硬的に推し進められた背景もあります。当時、反抗して粛清の対象になった貴族家も多数存在します。
このように、国と貴族との間。旧来の貴族と新興貴族との間での軋轢は意外と深刻なものとして残っているのです。」
新興貴族――俺自身は王族だけれど、母方は魔術系貴族だ――に連なる俺からすれば重要な役割を持つ貴族に重きを置くのは当然と思えるが、かつてその役割を担っていたのにそれを剥奪される側になると不満も当たり前か
だからと言って今それを表面化されても困るんだけどなぁ…
でもその話題を出してきたからにはそういう事なんだろうなぁ…
「あのさ……。今その話するって事はけっこう不満が大きくなってるって事?」
「さすがでございます王子。特に武門貴族の抱える不満はそれはもう強大なものと聞き及んでおります。」
勘弁してくれよマジで
「で、軍務局への教練をさせたのも牽制の一環。俺に気づかせてるのもその一環。そもそもなんで俺に言うの。これこそ治安維持部隊の案件じゃないの。」
「実働はそうだとしても、特A級局も軍務局も同じ国防省の組織ですので、頭に入れておくことはして頂かないとと思いまして。」
俺の出番がないといいなぁ…
「実際問題、どういう事が懸念される訳?」
「特に何が、という訳ではありません。仮に反乱がおこったとして、武門貴族は魔術系血統が入れられた家系はありませんので、戦闘力も高くありません。
魔術を格闘術や剣術に併せる事が出来ると言っても、さほど脅威になるとは思えません。」
「それは聞き捨てならないなぁ、セバスちゃん。私を見てよ。そんじょそこらの魔術師に負ける気はないよ。」
「それはグリフィン卿が異質なのであって、本来は魔術師とその他では隔絶した戦闘力の差があるものです。」
それはそう
リオンみたいな規格外が身近にいると感覚がおかしくなるけど普通は魔術師に勝つことは難しい
魔術師に体術の心得がない訳でもないし、魔術の心得は魔術師と認められたものの方があるのは当たり前
そもそもリオンは魔術師としてもCクラスだからこそ、あのおかしな戦闘力になるんだ
「リオンを比較対象にしたらほとんどの魔術師が太刀打ちできんわ。総合したら自分がBクラス上位の術力を持っている事実に気づけ。下手したらAクラスでも十分に戦えるかもしれないんだから。」
「いや~、ぶっちゃけAクラスはしんどいかなぁ。ほら、全ての魔術に原理魔術ってあるじゃないですか。Bクラスの上の方、例えば王子とか。あとAクラスの人たちの何が脅威って、原理魔術の発動の早さとなんですよね。
私は魔術よりも格闘術が主なのもあって間合いが魔術師より狭い分、より近づかないときつい訳ですよ。魔術対決で勝てる訳ないんで。
Cクラスだと発動前に間合いに入れちゃったり、圧が弱かったりするんですけどB以上の場合は簡単にはいかないですよ。」
「それは分かるな。レキシーの圧とかハンパないもん。」
「あれはムリ。全力で体に魔術込めて準備万端の状態からスタートしても発動して圧されるもん。」
「まぁ、原理魔術は破壊力っていう意味では高位魔術に劣るかもしれないけど制圧力は高いから、それを高度に使いこなす魔術師はリオン達獣人にとっては天敵かもな。」
「近接戦に長けてれば長けてるほど嫌いだと思うよ。」
「私もどちらかと言えば格闘戦寄りですから原理魔術は苦手ですな。」
「セバスもか。」
「はい。他の魔術よりも苦手かもしれません。“水流突”の様な単発の魔術なら極端に言えば躱してしまえばよいのですが、周囲に向かって放出される原理魔術はそれが適いませんので。」
なるほどな~。魔術師としては原理魔術は躱すというより圧し返すものだという意識があったからまた違った考えだな
「ま、王子とやったら私が勝つかもしれないけどね。」
「馬鹿垂れ。B+のクセに負けたら何言われるか分かったもんじゃないわ。」
さすがにリオン相手とは言えね。簡単には負けるわけにはいかんね
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