34話~獣人族の格

訓練という名のシゴキはそれなりに実りはあるのではないかと思う


俺に相対する魔術師諸君は防壁を崩そうと躍起になって攻撃を繰り出してくるが叶わずであったが、その中でも各々の工夫が見て取れた


込める魔力量を最大にする者、魔力密度を上げて貫通性を高めようとする者、まだ未熟な者達であると聞いていたが、将来性を感じさせる者達であった


教科書通りで魔術は行使できる。それを如何に使いこなすか。その発想が大事なのだ


まぁ、なんだ。俺は俺で、めんどくさいだなんだ言いながらも楽しめた


自分が攻撃する番になった時は調子に乗って魔力を放出し過ぎた


「じゃあ、そろそろ俺の攻撃を受けてもらおうか。(ブワァッと魔力放出)」とかやってて楽しすぎる。圧倒的強者感である


普段自分より強いのばかりと関わってるからそんな場面なかなかないんだよ。悪かったね隊員諸君


そして今はリオンとセバスが教官役として組手が行われている


二人とも白兵戦における戦闘力が桁違いなので千切っては投げ、千切っては投げの大立ち回り


セバスはまぁ、常識の範囲内――ギリではあるが――なんだが、こうしてみるとリオンの異常性がはっきりと分かる


獣人はそもそも人間と比較にならない運動能力を備えているが、その中でも群を抜いて優秀なリオンの動きに隊員たちがついていけない。彼らも相当な手練れであるはずなのにだ




「流石はグリフィンですな、殿下。あれを見せられると種族の違いというものを否が応でも認識してしまいます。」



「軍務卿でもそうなのかい?貴方も剣の腕は国内随一だろうに。」



「昔の栄光を持ち出されても困りますな。まぁ、剣の腕ではまだまだ遅れを取るつもりはございませんが、グリフィンは体の使い方、身体操作が頭抜けている。

獣人として生まれ持った強靭さ、柔軟性、膂力、可動域。それら全てを十全に使いこなしております。

例え、私が全盛期であったとして、敵うかと問われれば、答えに窮する程ですな。」




軍務卿は武功で成り上がった英雄の家系の頭首だ。それなりに負けず嫌いであるはずの彼があっさり白旗を上げるほど


正直、達人の域までいってしまうと我々凡人には理解できない事も多い


俺には分らないリオンの凄さも、軍務卿程になると理解できることもあるのだろう




「それはそうと殿下、我が局の隊員達は如何でしたかな?私も多少はかじっているとはいえ、魔術に関しては専門家である殿下に見て頂いた方が正確というものです。」



「ん~…事前に言われていた通り、まだまだ未熟であるのは間違いないとは思う。ただ、各々が創意工夫を凝らす意志は見て取れた。

魔術においてもその点は非常に大事だから、見どころはあり。といったところかな。」



「それは良いことです。殿下からの激励を聞けば更に奮起する事でしょう。」



「奮起と言えばなんだが、今回はやけにリオンが乗り気というか、やる気なんだが軍務卿が何か発破でもかけたのかい?」



「発破をかけるなどとんでもない。ただ以前、殿下の側近となったグリフィンと、殿下自身の御力を披露する場などがあれば嬉しいのだが。との話は聞いておりましてな。

今回のこちらからの提案は渡りに船だったことでしょう。」



「それでねぇ…。何やらやる気にあふれてるなとは思ってたんだ。」



「まぁ、彼女が殿下に取り立てられた経緯を考えれば、己の力を誇示する意味も、殿下の御力を内外に示そうとする意味も分かりますがな。

それでなくとも、獣人のコミュニティでは、人間社会以上に実力の多寡がその者のステータスであると聞きますので、それも関係しているのではないかと。」



「俺は自分の力を矢鱈と誇示する趣味はないんだけどね…。」



「ですが、殿下の御役目である均衡を保つという目的の為には多少の武力の誇示も必要でありましょう。」



「それは俺の役柄じゃない。特A級の奴らの仕事だよ。」



「その特A級を統括しているのは殿下ですからな。殿下にも強くあってほしいのでしょう。」



「そんなものかねぇ……。ところで長官。リオンが今相手してる獣人の娘、一人でリオンに食らいついてるじゃないか。なかなか有望なのでは?」



「あれですか…。あれは…リストによれば、コヴィントンですな。ヘルガ・コヴィントン。

数年前に入隊してきた…人狼族の者で、実力的には隊内でも半分より下といったところでしょう。

獣人故にグリフィンに対抗意識があるのか分かりませんが、気合でくらいついてる。って感じですな。」




リオンより一回りは小さい体格、明らかに劣る体捌き、少ない魔力量。それでも挑み続ける彼女の姿は見ていて痛々しい


リオンもリオンで容赦しないもんだから、彼女の一撃を簡単に弾いてカウンター、一撃が届く前に投げ飛ばす


ホント容赦ない。よくあれでまだいけるなと感心してしまう




「………よくやるなぁ。」



「そろそろ止めますかな。単純に長いですし、体力も限界でしょう。………グリフィン!コヴィントン!そこまで!」




軍務卿の宣言と同時に崩れ落ちたコヴィントンとは対照的に余裕をもって構えを解くリオン。この差よ


俺の周囲にいる人間のなんと規格外な事か




「王子、どうだった?私の無双っぷりは。」



「ああ、お前の規格外さにドン引きしてたところだよ。」



「ドン引きしないで惚れ惚れしてよ~。これ程頼りになる近衛もいないと思うよ?」



「いや、頼りになるのは認めるんだが…。一度に4、5人相手っておかしいだろ。明らかに目と腕の足りないじゃないか。」



「全部いっぺんに相手しようとするからですよ。サクッと2人くらい無力化してあとは個々に相手すれば簡単じゃないですか。」



「サクッと2人無力化がおかしいんだよ。」



「ま、実力差もありましたし?それに、魔術戦してる時の王子も傍から見たらそんな感じですよ?3人くらいの魔術を一人で圧し勝ってたりするじゃないですか。そんなに変わりませんて、我々。」



「然様ですな。王子はもう少し自身の実力がたと隔絶しているという事を認識為さるべきです。」



「でしょ?セバスもそう思うよね。」



「レキシーとか見てきたからか…俺も随分歪んだ眼を持ってしまったのかね…。」



「ハワード卿は規格外の更に外側にいる人物ですからなぁ。」



「私は王子にもっと自信持ってもらいたいんですよ!俺だって強ぇんだぞ!ってブイブイいわせてほしいんですよ!」




ブイブイは言わせないけど…


その気持ちはまぁ、ありがたいかな。それに応えられるだけの自分になれる自信は、あんまり湧かないけど

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る