33話~王族魔術師による訓練

「―――――と、いう訳で、特A級長官のラッセル殿下とロイヤルガード一位のグリフィン卿にお越し頂いた。

魔術、体術、どちらを中心に据えるとしても目指すべき到達点に至ったお二人だ。

各々の現在の立ち位置を確認しろ。上を知り、己の未熟を知り、奮い立て。」




治安維持部隊の修練場、壇上で訓辞を垂れ…述べているラウリー軍務卿には悪いけど早く終わらせてほしい


俺はさっさと帰りたいんだ


治安維持部隊員の前だからか、稀にしか見せない真面目じみた顔で正面を向いているリオン


たまには後進の指導でもして体を動かしませんとな。とか宣ってついて来たセバス


二人が珍しくやる気になっているのが如何ともし難い


そもそもが指導なんてものは普段から受けてるだろうし、捻じ伏せる役目ならレキシーにでもやらせればいいのだ


俺の戦闘力が珍しく垣間見れたのを機に、軍務局内にも見せつけておこうっていうのが趣旨だから、俺がいなくては意味がないのだけれど


めんどくさいのは変わらないのだ


アルキュビア連邦との打合せもあったり、各所の特A級の管理もあったりと普通に忙しいのだ


なんて呪詛の言葉を紡いでいたら訓示も終わったらしく、まずは俺から教官役をすることに




「では、ラッセル殿下。魔術師としての高みを見せてやってください。」



「……ここまできたらやるけどさ。俺が攻撃すればいいの?」



「それだと壁の高さを認識する前に終わってしまう可能性もありますので、まずはウチのひよっこ共をあしらって下さい。

超えられない壁を認識したとお思いになられましたら、一息で始末して頂ければと思います。」



「………大丈夫?心折れたりしない?」



「むしろ一度へし折って頂いて結構です。まぁ、その程度で折れる心ならば軍人として不適合と言わざるを得ませんな。分相応な職に代わる事を推奨致しましょう。」



「スパルタだねぇ…。」



「兵とはそういうものです。」




貴君らの心が長ネギの如く折れやすい物でないことを祈るばかりである




「殿下。宜しくお願いします。手加減はしなくてもよいと言われてますので、全力でいかせて頂きます!」



「普通は遠慮するもんだよ…。」



「B+魔術師相手に遠慮なんて必要ないでしょう!“水流突すいりゅうとつ”!」




水流突。水のCクラス魔術で最もポピュラーな魔術


魔術によって生み出した水の投げ槍とでも言おうか、それによる打突の様な一撃を見舞う


水と土の魔術は特性上質量を有する


土はより硬質で、より重量のある魔術。水は土ほどの硬さは有していないが、その分定まった形を持っていないからこその応用が利く


水は相手の体力を奪う事に長けていると言える。水は纏わりつき、重量を増す


その重さは徐々に体力を削ぎ落す。加えて、併せ持つ冷却の性質は運動能力を奪っていく


水属性は風と同様に発現しやすい属性であり、風同様に非常に応用力の高い属性だ


今放たれた水流突はそんな特性など何も考えないで済む単純な攻撃魔術であるわけなんだけれども




「単純だな。初手は様子見って事かな?ではこちらも、“水流突”。」




正面からぶつかった魔術は弾けて周囲を水浸しにする



「さすが、B+…。魔術の発動までが早い…!」



「君もなかなかだ。力量はC+ってところかな?」



「その通りです。一撃で見極められましたか…さすがの慧眼。ですが、手は緩めませんよ!“水流突・連打”!」




どうやら、鍛錬という事で真正面からの正攻法で来る様だね


まぁ、全力をぶつけても壊れないサンドバッグだと思えば、普段出せない目一杯を喰らわせてやろうってのは分からなくもない




「数で押そうってのは単純だが嫌いじゃない。なら、これでどうかな、“波濤盾環はとうじゅんかん”。」




生み出した波濤は周囲の水も巻き込んで渦を巻く


さながら車輪の様に回るそれは俺の意志一つでその大きさや速度を変える


今は立ちふさがるように位置するそれも、場合によってはその回転によって岩壁を削り取る回転鋸にもなり得る


C+君の連打はその回転に阻まれてその波濤に飲み込まれる




「それはBクラス魔術“波濤盾環”!?私の使う事の出来ないBクラス魔術で防御するとは!」



「だからこそ、この魔術をどうにかして破ってみろ。そこらのC+では簡単に破れんぞ。」



「味な真似をなさいますね!破って見せましょう!」




とは言え、同属性魔術師にとって格上が相手であるという事は相性が悪い


上をいかれてしまえば、その悉くを封殺されてしまうからだ


特に水、土の属性は自分の魔術を相手に飲み込まれ、相手に利する場合まである


波濤盾環などその最たる例の様な魔術だ


勢いを削ごうにもそのアクセルは相手の手元にあり、減速したらすぐに加速させられる


自らの放った水魔術は波濤に呑まれて相手の質量が増すだけ。質量が増すだけ相手の魔術の威力が上がる


同属性の魔術を捻じ伏せた時、自分の力量が相手の魔術を上回ったという証左に他ならない


師が弟子を試験する時などに用いられる手法だ


まぁ、なんだかんだ言ってしっかり仕事してる俺偉いよね。って話である




「息が上がってきたようだね。そろそろ撃ち止めかな?」



「そのニヤケ顔、教官たちそっくりですね……。」



「やめてくれ。俺はあれらほど性格悪くない。」




はずだ




「その様な人道に反する煽りを行う君は、激流押し流しの刑に処する。自らの魔術を飲み込んで質量を増した波濤をまとめて喰らうといい。

なお、手心は加えないのでしっかりと防御姿勢をとるように。」



「手加減くらいしてくださいよ!」



「問答無用!“波濤圧偏はとうおしへん”!」




衝撃を全身に受けたC+君の健闘をたたえよう


まだまだだね

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